響也が抱える闇
健太郎を連れてきたことが気になるのであれば健太郎自身に聞けとのこと。あとブランコが柄にもなく励ましてくれた。
「君と二人きりで話したいことと言うのは他でもない。君が神凪と付き合うために頑張って起こした行動に対する対価として、こちらも相応の情報を開示しようという話さ。前にも言ったろ?」
「そういえばそんな話もあったな。確か前は神凪が人並外れた警戒心を持っていること。あとは俺が特別な存在だなんてのたまいていたっけか」
「よく覚えているじゃないか。それでその情報についての裏は取れたかい?」
「神凪が人を恐れるのは他人に対しても多かれ少なかれ『危険』を感じると言っていたな。そしてその特殊な第六感とも言える信号でも俺からは『危険』を感じ取ることが全くできなかった。それが俺が特別な存在だなんて大袈裟な言い方をしたというところか」
「うーん…まぁ半分正解の半分不正解ってところかな」
「どっちが正解でどっちが不正解なんだよ」
「前者も後者も半分ずつ正解って意味。だからトータルでも半分正解」
「『半分正解』って表現を使われてこんなにも面倒くさいと思うことになるとは想定外だな。お前の考えてることが全く読めない。二重でやられるとさらにわからん」
「どうでもいいことさ。君が本気ならいずれ真実に辿り着けると思うよ」
「もやもやさせられる身にもなってくれ。というかそもそも今回その対価として情報を開示するに至った俺の行動って何のことだよ」
「それはもちろん花音との拗れた関係を修復したことさ」
「……何で知ってるの?あとそれ関係ある」
「ここに来て君と花音ちゃんの仲睦まじい光景を見せつけられれば一瞬で察せられるさ。そして神凪と付き合うのであれば他の女性に対する対応ははっきりとさせておくべきだ。痴情のもつれに発展しかねない」
「なんか前者も後者もこじつけた感半端ないけど?」
「まぁまぁそう言わずに。今回君にお教えするのは君もご存じ柊響也に関する情報さ」
「おい待て。なんで神凪と付き合うための取引に対する情報が響也の情報になってんだ」
「おやおや君は知っているはずだろう?現在表向きでは神凪と柊は付き合うフリをしている。その上私と尾行した時の柊の意味深な態度。加えて二人が本当は婚約しているという事実」
「お前本当に何でも知ってんな」
「この状況を覆すのに柊響也の情報は必要であることは理解したかな?」
確かに響也に関することも重要だ。はっきり言って他人の婚約を破棄させるだなんて悪役令嬢じゃあるまいし、いくら俺が響也とは元サッカー部のよしみであるとは言えそんな踏み込んだ要求を俺がお願いしたところでまかり通るとも思えないし。どう考えても難しい問題である
「君は普段学校で見せている誰とでも友好的に接する彼と尾行の際に見せた彼の様子が結びつかない。そうだね?」
「なんか占いみたいになっておりますけども」
「その一見一貫性の見えない彼の態度。しかし、とある人物が彼の性格に大きな影響を与えている。それは彼の父親である柊響堂さ」
「確か響也は父のことを恐れていると神凪も言っていたな」
「その通り。彼は父から精神的な虐待を受けている。逆に響堂の目線を加えるなら彼は優秀な結果を求められているのさ」
「優秀な結果を求められている?というと?」
「柊響堂は君も知っているであろうあの有名芸能プロダクション『KYODO』の社長さんさ」
KYODO。テレビの芸能人で多くのKYODO所属のタレントを目にする。そんな芸能事務所のトップが響也の父だというのか
「にわかには信じがたいが」
「だが事実だ。優秀な手腕を持つ響堂によって起業された会社はみるみると大きくなった。そして現在響堂はその重責に釣り合うような才覚を響也君に求めている。そしてそれは大きなプレッシャーとして響也君を苦しめているという訳さ」
「その話が本当だとして、響也は裏で父に怯えていたとしてもそれを除けば学業もスポーツも十分に優秀な成績を収めている。それでも足りないぐらいの結果を求められているっていうのか?」
「いや成績の水準は恐らく十分なラインに達しているだろう。だが響也君の中で根ざす過去のトラウマは未だ消え去っていないということだろう。真面目に成績を上げても父に対して自信を持てないのであれば別ベクトルからショックを与える必要があるだろうな」
「なるほど…」
流石はブランコと言ったところだろうか。俺だけでは決して知りえないような情報を引っ張り出してきた。仮に響也の抱えるトラウマを解消させたとして、婚約破棄の直談判なんてことになるかは怪しく、直接の糸口を掴めた訳ではないにしろ、この情報が突破口になることは間違いないだろう
「取り敢えず君と響也君が接近できるようなイベントの下準備を済ませてある。少々邪魔も入るだろうが何とか対応してくれ給え」
「お前がこうして事前に警告してくるとそれはそれで嫌な予感がするんだが」
相手は有名企業の社長というとんでもない規模にまで発展し始めた。しかし、乗り掛かった舟である。ブランコも俺の本気具合を試しているということなのだろうか
ならば応えて見せるしかない。俺の神凪への想いがそんな家庭問題をも打ち破る覚悟の基にあるのだと




