それでもブランコはいつもの態度を貫いた
花音とファミレスで夕食を共にする孝太郎。そろそろお開きにしようかというところでブランコがやってきた。そしてお店の外には健太郎を待たせているという。
「なんで健太郎がここに、しかもお前と一緒にいるんだよ!!」
今日の健太郎はどこか様子が変だった。今まで当日になってから約束を破られるような経験はしたことがない。確実にそんなことをするような男ではなかった
それがどうだろうか。ラーメン屋にいたときにふと健太郎の方をみれば険しい表情でスマホを見ていたではないか
そして今。どういう訳だか健太郎はブランコと一緒にここへ来ているらしい
「いくらなんでも私のことを目の敵にしすぎではないかい?」
「お前にどれほど振り回されてると思ってるんだ…」
花音から連絡が来た。どうやらブランコの言った通り本当に居たらしく、合流したのでそのまま二人で帰るということになった。そして俺はと言えば先刻まで花音と一緒に挟み込んでいたテーブルにブランコといる
「振り回す?私は君のためを思って行動してるのさ。君を導くことあれど、振り回すことなんて決してあり得ないよ」
ポーカーフェイスが上手なのだろうか。なんの演技っぽさもなく、極めて純粋な表情で不思議がっていた。つい今さっきまでの大立ち回りも忘れたのだろうか。正直ここまでされると冗談抜きで自覚症状が抜け落ちた病人みたいで可哀そうに思えてきた
「というかすぐ脱線するなし。結局なんで健太郎とお前が行動を共にしてるかの説明がないのだが?」
「………」
いつもズバズバと意味わからん事言い始める彼女であったが、今回の質問に関してはやや思案顔を見せるに至った。もしかしなくても健太郎の介入は予想外なのだろうか
「どうなんだ?答えられないのか?」
「おや?まさか私のことを揺する気かい?君は甚だ見当違いな奴だな。仮にも神凪からは『洞察力が高い』という評価を受けているのだからそれを崩すような発言はお勧めしないぞ?」
本当になんで知ってるのだろうか。神凪からそれ言われたのって俺の部屋で完全に二人きりの状態だったはずなのだが…
「私が考えていたのはだね。『なぜ私が健太郎君と一緒にいたのか』という質問を『私に』質問しているのかを考えていたのさ」
「はっ!!」
確かにそうだ。なんなら今花音が健太郎のことを質問責めにでもしているのではないだろうか。なんでわざわざこいつに聞こうとなんてしたのだろうか
「まぁ私から言えることを言うなら健太郎君のことは君とは別件だ。君が知る必要性は皆無。だからあとは健太郎君が教えるかどうかの問題さ。よって彼の意志を尊重して私の口からなにがあったのかは伏せさせていただく。という回答でどうかな?」
「健太郎のことはそれでいいけど…お前の口から他人の意志を尊重なんて言葉が出てきて寒気がしてきたわ」
「はっはっは!!それはなにがしかの症状を疑った方がいい」
「そっくりそのままお返しするわ」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「うん、たまにはこういう料理も悪くないもんだね」
取り敢えず健太郎の件については納得をした俺であったが、健太郎のことは俺から言い始めた話である。つまりわざわざ相席を申し出たブランコ側の要件を聞く番だと思い、その要件が何かと聞いたのだが、
『さぁて腹が減ったよ』
と早く帰りたさ故に行った俺の催促を嘲笑うかのように、まるで俺の声が聞こえていないかのように華麗にスルーを決め込んだ上でメニューを手に取り何食わぬ顔で注文し、
『君ももう少し頼みたまえ。こんなんだけじゃ足りないだろ』
なんてテーブルの伝票の俺が食べた注文を的確に指でさしつつ言った。その伝票をもちろんあの大食いの花音が頼んだ数々の注文も刻まれているはずなのだがどうして俺がそれを食ったのだと知ったのだろうか。そしてなぜ俺がこういう場で空腹を我慢して安いメニューを頼んでいるとバレているのだろうか
「大体君が食べる量を抑え込んだところでその5倍くらいを花音ちゃんが頼んでいるじゃないか。そんなに切り詰めたいのなら彼女にも少しは控えてもらったらどうだい?」
「花音の分を払えるように倹約しているんだから何の問題もないな」
「もっと自己投資するのも大事だと思うけどねぇ。神凪に好かれたいと思っているなら尚更さ」
「お金を無闇に使わないのというのも美徳の一つだろ」
「なら仮に神凪が高い服を着ている人が好みだと言ったら君はその貯蓄を切り崩すのかい?」
「なんともその無理やりな仮定だな。まぁその『好み』っていうのが高い服着ていない人とは付き合えないとか極端なことではなくて、あくまでも常識的な範囲内だというのなら付き合えた後のデートのネタにするぐらいかな」
「付き合う前に彼女へのアピールポイントにはしないのかい?」
「もちろんその考え方を一概に否定するつもりはないけどな。俺はそういう取り繕った部分を好きになられるのはなんか違うというか」
「『ありのままの自分を』ってやつかい?そんな悠長なこと言っててもし他の高級ブランドに身を固めた人が神凪と付き合ったらどうするのさ」
「俺が今こうしてお前と話しているのは神凪が響也と付き合ったというのが嘘で、付き合ったフリをしているだけだと知っているからだ。もし神凪自身の意志でその男を選んだなら諦める他なかろう?」
「随分と割り切りが良いんだね」
「まぁな」
「……例え最終的に割り切ることになってもその前にやれることはやり尽くせよ」
「……」
いつになく神妙な面持ちでブランコはそう言った
彼女が何の目的で俺に接触してきたのかはわからない。なんならひたすらはぐらかされるばかりだ。はっきり言うと隠されている
普段は冗談で多くを固めているからだからだろうか?ギャップによる印象操作を狙った上でこうして切り替えているのなら大したものだ
しかし、偶に見せる彼女の真剣な表情に俺は一種の誠実さを感じていた。いくら情報を隠蔽されようと、常識を逸脱した無茶苦茶な言動を強いられようとも。それにはある目的があってそうしているのであって、決して俺を裏切るようなことだけはしないという信頼が不本意ながらあるのである
「他でもないお前からの忠告だからな。有難く頂戴させて頂く」
「何それ?急に気持ち悪いなぁ」
『みなさんは堪忍袋の緒が切れる』とか『頭のネジが飛んでいく』だとかの表現を実際の生活の中で感じたことはあるだろうか
「気持ちわりぃのはおめぇのほうだっつの!!」
俺は今まさに。そうこの瞬間にかなりの度合いでそれを体験したよ




