ファミレスに来襲せし奴
花音に正直な気持ちを伝えて、わだかまりを解消した
水族館を後にした俺たちはその足で夕食も食べていこうということで困ったときに脳死で選ぶいつものファミレスに来ていた
そもそもチェーン店ではない店に通うような趣味も金もない俺が洒落た店の一つも提案することは出来なかった
花音は不満の一つもこぼさず笑顔でファミレスという提案を受け入れてくれた。しかしいざというとき、もとい神凪との食事になったときに今と同じようにファミレスしか提案できない俺を見て神凪だったらどんな顔をするのだろうか
響也との仮デート計画のときはネットの口コミを頼りに雰囲気が良さそうなイタリアンを選んだが、そもそもあの店について神凪はお気に召したのだろうか
まぁ?いつか俺だって神凪とデートすることになったとして?ファミレスなんて選んだら失望されちゃうだろうし?
いやでも神凪のことだから
(私はす〇家で構いませんよ?)
なんて言われるような未来が見えなくもないけれど
「お兄ちゃーん。注文まだー?」
「あ!いや、ごめん。ちょっと迷っててなぁ…」
「…今絶対神凪さんのこと考えてたでしょ」
「そ、そ、そ、そんなわけ……あれ?今神凪って言った?」
「言ったけど?」
「知ってるの?」
「お兄ちゃんの好きな人でしょ?」
「なんで知ってるの?」
「そりゃ今のお兄ちゃんみたいにバイト中も神凪さんと話してるときに口元がニヤついてるって。最近ご近所で専らの評判だよ」
「そんな分かりやすいの!?しかも拡散済み!?」
「あの様子なら本人は気付いてないだろうし、学校まで広がってるとしたらもっと大事になってるだろうからあくまでもご近所間での噂程度だけどね。でもあんなの見せつけられたら正直誰でも感づくんじゃないかな」
「花音さん?あたかも実際にその光景を見ていたかのような言い方なんですが?」
「実際に見てたよ。神凪さんに接客してもらった後に、お兄ちゃんが鼻の下伸ばしてる所を、客席からまじまじと」
「oh…」
他でもない花音から客観的な視点でそんな風に言われて、俺は尋常ではない羞恥心に襲われた。神凪の前ではやはり緊張してしまうもので、自分で言うのも難だがみっともない姿だったと思われる。というか花音の来店に気付かないぐらい注意が散漫になっているのも問題だし
加えてそんな俺の汚点が近所で噂になってるって…
「その時のお兄ちゃんを見てね。私じゃこの人には敵わないんだなって思った。客である私なんて眼中にないぐらい夢中になっちゃってさ。悔しかったけど…あんな幸せそうな顔見せられたら流石に諦めもするよ」
「そうか…」
花音はその上で告白してくれた。その意味を俺は噛み締める。今まで花音にしてきた所謂塩対応。それを花音は望んでいないということ。例え理想が叶わなくともと決死の覚悟で取った行動に対して、俺はこれから誠意を持って応えようと強く誓った
「お兄ちゃんさ。私にもバカ兄みたいにニックネームつけてよ」
「いやそれに関しては本当にいい塩梅のものが思いつかないというか…やっぱ語呂とか大事だし」
「ノンちゃん」
「へ?」
「だからノンちゃんだよ。これから徹底してね」
「お、おう…」
「はい、じゃあ試しに呼んでみて」
「今?」
「3、2、1、キュー」
「ノ、ノンちゃん…」
あまりの恥ずかしさに声量が小さいし、そっぽ向いてるし、なんならちょっと声が裏返ったしで酷いものだったが
「合格♪」
「甘々採点だな」
本当に嬉しそうに満面の笑みを浮かべるもんだからこれからも頑張って呼ぶしかないと思った。
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花音に対しての胸の荷が下りたのか。当たり障りのない学校での出来事を話しているだけだったが、久しぶりに花音と楽しい時間を過ごせているような気がした
そろそろお開きにしようかと店を出るため会計の準備をしようかと思っていた時のことだった
「楽しそうだね君達。私も相席よろしいかね」
ファミレスという多くの観衆があからさまではないにしろ、その人物にちらちらと視線を集める。なんてったってこの場を実験室とでも勘違いしているかのように全身をガチガチの白衣で固めて入店。どうやら店員の案内を振り切ってどこへ行くのかと思えば、テーブルの上でお金を出し合ういかにも帰り際の、しかも2人席に2人で座っているところに相席を申し出る頭の悪さ。常識があまりにも欠如した無法者
「コウちゃん知り合い?」
「知らんな。全く。これっぽっちも」
「酷すぎないかい?久しぶりの再開だって言うのに」
「お前の名前も年齢も出生も職業も何もかもしらないんだから知り合いとは言えないな」
「名前は木戸孝太郎、年齢は16歳、出生は東京生まれの東京育ち、職業は高校生徒と言った所かい?」
「お前が一方的に知っているだけじゃ知り『合い』足りえないだろ」
「そう冷たいことを言うな。今挙げた個人情報なんて些末な問題さ。重要なのは相互の関係性の深さでしかないだろう。君は私を赤の他人と言い切って良いのかい?」
「そんなん知らん。もう付き合ってられんから目的を早く済ましてくれ。さっきから周りの視線が痛い」
「目的なら告げたじゃないか。私と相席よろしいかなって」
「もう帰るところだったんだが…席だって広い席に移るのか?」
「いやいや。残るのは君だけさ。そこのお嬢さん、小林花音ちゃんには帰ってもらうさ」
「どうして私の名前を?」
「聞いても無駄だから」
「連絡先交換してくれるかい?花音ちゃん」
「えっと…大丈夫なの?」
花音は目の前の不審者を警戒している。助けを求めるように俺の方を向くのだが、俺だってわからん
「それは必要なことなのか?」
「もちろん。無闇に人の連絡先を求めたりしないさ」
「俺の連絡先に関しては教えた覚えないけど」
「その気になれば花音ちゃんの連絡先も手に入るけどね」
「じゃあこの問答無意味じゃん」
「花音ちゃんはレディだからわかりやすくしてるのさ。察してくれたまえよ私の気遣いを」
なんという図々しさなんだ。こいつには配慮というものが存在しないのか
「じゃあ夜道を1人で歩かせるわけにもいかんし迎えを呼ぶか」
「そんなことしなくていいよコウちゃん!1人で帰れるし」
「いやそういうわけには…」
「迎えが必要なら該当者がいるから問題ない」
「は?」
「小林健太郎君。入り口で控えてもらってるのさ」
もうやだこいつ気持ち悪い…




