I think you my hero 2
塞ぎ込んでいた小学6年生の花音の前に現れたのは訳も分からずストーカーをしてくる木戸だった。
それからというもの私はコウちゃんにすっかり気を許して、コウちゃんに誘われたらどこでもついていくようになりました。同年代と遊ぶ経験のなかった私にとってコウちゃんと遊んでいる時間は何事にも代えがたいぐらいに大切な時間となりました
公園で遊んだり、家でゲームをしたり、その頃から勉強を教えてもらったりとコウちゃんと過ごす日々は飽きがなく居心地のよいものでした
ある日、コウちゃんにカラオケに連れてこられました
音楽に対する知識も乏しかった私にコウちゃんは話題の曲を色々と教えてくれました
その選曲にマイナーで尖ったものはありませんでした。ただ私はそのとき初めてまともに『音楽』という文化に触れて心底感動したのです。こんなにも胸を躍らせ、気分を高揚させるものがあるのかと思ったし、私もこんな曲を作ってみたいなんてちょっとした夢もできました
そして楽しい時間は一瞬で過ぎ去るもので、まだ歌い足りないぐらいでしたが退室の時間となりました
「ありがとう!今日もすごく楽しかった」
「そいつはよかったな」
「次はどこに行くの?」
毎度新しい世界を見せてくれるコウちゃんに私は大いなる期待を寄せて聞いたのですが
「悪い。しばらくの間花音とは会えなくなった」
「え?」
その時、不安という感情が私を一気に支配しました
ずっと自分の部屋に引きこもっていた日々がフラッシュバックしました。実際にその生活を送っていた時は何も感じていなかったけれど、こうしてコウちゃんと出会って世界は輝き始めました。期間としての比重は圧倒的に以前の生活の方が長かったですが、あんな風に過ごす生活に戻るのはもう御免でした
「どうして?」
「……歌って小腹空いたろ。何か食べに行こうか」
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午後三時頃のファミレスはいつも訪れているときの混雑は嘘のように閑散としていました
いつもと違う。そしてそれをコウちゃんと一緒に体験する。そんな私にとっての非日常がついさっき感じていた不安を少し拭い去りました
「まぁ端的に言えば俺もあんまり遊んでばかりいられなくなったってところだ。実を言うと今まで花音に会うために色々犠牲にしてきたんだ」
「じゃあ次はいつ会えるの?」
「それは分からない。親の裁量次第だからな」
「そんな…」
欲というものが対してなかった私の唯一の欲はコウちゃんと会うことになっていました。その唯一の欲が満たされないことに私は何とも言えない喪失感を感じていたのです
「俺と会えなくなるのはそんなに嫌か?」
私はその質問に対して首を強く縦に振りました
「なるほど、俺は随分と好かれている訳か。だがこれは決定事項だ。受け入れてもらうしかない」
「でも…そしたら私前みたいに…ずっとひとりぼっちで…」
惨めでした。ただ強がってただけでした。本当は私もみんなと雪合戦したかったのです。でも今更みんなの輪に入ることなんて出来なかったのです。それを言い出す勇気が出ない
学校で誰とも話せない疎外感を味わい続けることはもはや拷問に近いものがあり、周囲の目が刺さるように辛く、ありもしない自分に対する陰口が幻聴のように聴こえてくる
もうすぐ中学生となって周りの面子が一新された時、私の身は多くの友達に囲まれているのだろうか?はたまた性格の悪い女子につけ込まれてイジメの対象へとさらに成り下がるのだろうか?
頭の中ではそういった惨めな真似を繰り返すのが嫌なんだということがわかっていて、しかし分かっていてもその解法が分からずいつまで経っても拭えない不安抱え続けて。そうやって色々考えてはいるもののそれでもやはりそれをうまく言葉に出来なくて。そうして代わりと言わんばかりに出てきたのは大粒の涙でした
「大丈夫だ。別に俺がいなくなるわけじゃない。これを機に俺以外の友達を作ったらどうだ?」
「それができないから困ってるんじゃん!!」
「花音、別に俺は無責任にこんなことを言っている訳じゃない。確かに今まで誰の誘いにも乗れず、孤独な小学生としての日々を過ごしてきたのかもしれない。でも花音は絶対友達沢山の人気者になれる。俺が保証してやるよ」
「どういうこと?」
「察しが悪いなぁ。今日まで一緒に遊んでいて俺はすっごく楽しかったって言ってるんだ。とびきりな笑顔で底抜けに明るいのが花音の本質なんだよ。花音は寧ろクラスのムードメーカーにだってなれる。例え空回りして恥ずかしい思いをしたとしても、その時は俺が励ましてやる。それは俺が花音の友達だからだ。どうだ少しは友達作りたくなったか?」
『とびきりの笑顔』と聞いて私は変わった兄のことを思い浮かべていた。私もあんな風に笑っていたのだろうか?もしそれが兄妹として、血筋として似たようなものであるならば。みっともないとばかり思っていた自分に少しだけ自信が持てるような気がした
「なんか都合のいい事ばっか言って丸め込もうとしてない?」
「まぁちょっとそんな節はあったかも」
「おい」
「大体花音の悩みが馬鹿馬鹿しいんだよ。ケンちゃんも花音もホントくだらないことで凹みすぎなんだよ」
「全然くだらなくない!!」
「その調子で変に飾らずありのままの花音で居れば絶対みんなに受け入れてもらえるさ」
「ありのままの自分…」
確かに今思えば馬鹿みたいだった。他人の顔色ばかり窺って自分の感情を抑え込む。我慢をする
その結果誰に監視されてるわけでもないのに誰かの視線に囚われて、誰が糸を引いているわけでもないのに自分で勝手にがんじがらめになって。本当に馬鹿みたいだ
自分は欲のない人間だと家族に言われたことがあった。駄々をこねず、なにも欲しがらないのが逆に不気味だと。しかし実際は欲を抑え込んでいただけだったのです。それを押し付けることに相手側が嫌な思いをすることを極度に恐れていたからこそでした
そう思うと今まで抑圧してきたものが溢れてくるように感じて、私は思わずメニューを手に取りました
「追加オーダー。これとこれください」
「おいおい夕飯もあるんだぞ?そもそも今のそれだって一人で食べる気か?」
「ありのままがいいんでしょ?」
私の中で確実に何かが変わった日でした。その日を境に私は今のような明るい性格を徐々に形成していったのです




