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think you  作者: 寒ブリ
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I think you my hero.

花音と二人きりで水族館を巡る木戸。そろそろ帰ろうとフロントに戻ってきたところで花音から告白される


本話は花音視点となりますのでご注意ください

私にとってコウちゃんはヒーローです


////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////



小学6年生の頃


今でこそ明るい性格になって友達もいっぱいできたけど、当時の私の性格は今とは正反対でした

人見知りを拗らせて他人と話すことが億劫であった上に、学校では『あの問題児の妹』というレッテルまで貼られてしまった私に友達と呼べる人はおらず、同じ学校でずっと学び続けているはずのクラスの集団とも未だに馴染めずにいました


朝は一人で登校して、体育のペアにはいつも困り、その他の班分け、グループ分けではいつも孤立し、休み時間はただ席に座っているだけ

みんなが放課後で一緒に遊んでいる中私は一人で家に帰り、ずっと自分の部屋に閉じこもっていました

そんなボッチとしてはありふれたことではありましたが、その日常が私の中の何かを擦り減らしていきました


このような生活を小学生という永遠とも感じられる期間続けてました。今でこそはっきり言える。あれは苦痛の日々であったと


そしてその元凶のともいえる兄も当然小学生の頃は私と同様に塞ぎ込んでいました

身長が私よりも低くて、何をされても反抗せず、何を言われても言い返さず。ただ黙ってメソメソと泣くだけ。いじめられて当然というか。もはやいじめてくださいとプラカード掲げているようなものである


そんな兄を女々しいやつだ、情けないやつだ、いい迷惑だとうんざりしていましたが、私自身も兄のことを言える立場ではありませんでした。兄に対してこんな風に思っていても、学校で周囲の人たちが私に対して珍しい動物を見るかのような視線を送ってくるのが気になっても、私はそれらの相手に何も『言えない』のは私も同じでした


兄妹してこんな問題児で両親をとても困らせていたと思います。かといって学校の人間関係の問題を両親が解決できるはずもなく。次第に親とも顔を合わせにくくなっていき、もはや私の安息の地は自分の部屋だけとなりました


とても生きづらい環境だと感じた。誰も信用することができなかった。一番信用できるはずの親でさえ、こんなみっともない私の陰口でもしてるのではないかと疑うようになってしまった。自室で閉じこもってもそんな誰かかしらが私の陰口を言っているのが脳裏に浮かんで全く心が落ち着かない


(何かきっかけでもあれば自殺してみたいな…)


ふとこんな風に思ったことすらありました


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


それから少し時は経ち、私は小学6年生として年を越しました


私は相変わらずな物理的にも精神的にも閉塞的な毎日を過ごしていましたが、兄の方には変化がありました。いつの間にか笑顔が増えて学校であったことをお母さんに楽しそうに話していました


それを受けてお母さんが私にも学校が楽しいかと聞いてくる始末。私はそれを煩わしく感じたし、兄をこのときほど恨めしく思ったことはない


先を越されたというか抜け駆けというか。別に競っていたわけでもないけれど、私と同等かそれ以上にみっともないと思っていた兄の変化に私は焦りの感情を覚えていました


私があんな風に笑える日が来るのかと…



しかし、転機は突然訪れた


ある日、それは珍しく東京も積雪するぐらいの雪が降る日でした

都会の小学生にしてみれば雪というのは降りさえすれば無条件にテンションが上がり、それが積もろうものなら寒さなんて気にならないでずっと遊んでいられるほどのものである。そしてそれは単調で退屈な毎日を過ごす彼らにとって一大イベントだったのです


当然クラスのみんなは大盛り上がりでした。休み時間になれば一斉に校庭へ駆けていきました

しかしそのとき私には『みんなで遊ぶ』ことの楽しさなんて知る由もありません

担任の先生すら私の存在に気を留めず、ただでさえ寒い季節の教室には人の体温がなくなっていた。そんな凍える教室の窓からクラスメイトが遊んでいるのを私がぼんやりと眺めていたことは今でも鮮明に覚えています


放課後、遊び足りない人たちがまだ雪玉を投げ合っているのことに私は目もくれず、家へ帰りました

そして頭以外をこたつの中に押しやり、冷えた身体を暖めていると、そのまま私は眠ってしまいました




数時間後

目を覚ましてすぐに思ったのは喉が渇いたということでした


重い体を起こして朦朧とした意識のままお茶でも飲もうとキッチンに行くと、そこには見慣れない人影がありました


「こんにちは。お邪魔してます」


そこにいたのは風呂上がりで髪が濡れていて、白いTシャツを着たコウちゃんでした


「ん?大丈夫?聞こえてる?」


返事をしない、というより極度のコミュ障で返事が出来ない私を見てコウちゃんは私の眼前で手を振って注意を促しますが、それでも私は突然家の中で家族以外の見知らぬ人と対面してしまったことに呆然としていました


すると後ろから兄が現れて、


「あ!花音起きたんだな。紹介するよ。同じ中学で同じクラスの木戸孝太郎。そしてこっちが俺の妹の花音な」


普段全く会話すらしないのに、急に私を馴れ馴れしく『こっち』呼ばわりした兄に対してちょっとした苛立ちを覚えましたが、口にすることはありませんでした


「よろしく」


兄の紹介を受けてコウちゃんは握手を求めて手を差し出してきたのですが


パチィン!!


私は差し出された手を思い切り叩いて自分の部屋に逃げました

未だまともに友達も作れなかった当時の私にとって唯一の憩いの場であったはずの家でいきなり見ず知らずの人と対面したストレスか、はたまたコウちゃんのあまりにも自然すぎる距離の詰め方に嫌悪感を抱いたか。私は思わず文字通りの拒否反応を示すことになりました


私の学校のクラスメイト達と同様に、珍しく降り積もった雪にテンションがあがり、兄と家の近くで雪遊びをしていたコウちゃん。遊んだ後にお母さんの気遣いで家に来訪してきたコウちゃんと私の初対面でした




初めて会った日を境にコウちゃんはよく小林家に遊びに来るようになりました。そして煩わしいことに遊びに来てゲーム、おもちゃ、そしてトランプと何かで遊び始めようとするたび私の部屋をノックしては『一緒に遊ぼうよ』と声をかけてくるのでした


初めは、家に来るのが名目上兄と遊ぶためにというものでしたが、それほど日を跨がずに兄が部活で居なかろうが一人でくるようになりました。目的は私だけだったのです


そんなコウちゃんの誘いに私は一切乗ることは無く、部屋のドアを施錠して無視することに徹していました。理屈なんてものは特に無く、半ば意地でした。しかし内心ではドアを開けるかちょっと揺らいでいました。今までもこんな風にガン無視を決め込んできた人間が、問題児である私のために何度も訪問してくれているような聖人に縋って楽しそうに遊ぶなんてと。そんな我ながらみっともないプライドと、ドアを開けた世界線をみてみたいという好奇心とが私の中でせめぎ合っていました


しかし自分でいうのも難ですが、小学生というある程度不可抗力によるコミュニケーションを強要される環境において完全ボッチを決め込んでいた私の意思はとても固く、無視を続けて一ヶ月ほどが経ちました


毎日のように私の家の私の部屋のドアを叩き続けていたコウちゃんでしたが、流石に痺れを切らしたのかある行動に出ました


なんと放課後になって下校をしようとすると校門にコウちゃんが立っていたのです。交友関係には致命的に問題のある私でしたが、それでも学校をサボることだけはしてこなかった(一度サボったときに母親に激怒されてトラウマになった)私の習性を利用しての策でした


こうして私と出会ったら何をするかと言えばスーパーでお菓子買おうかだとか、あそこの公園に寄らないかとか無視して歩き続ける私の横で何度も何度も…


しかもこれが一日や二日ではなくかれこれ一週間通して毎日欠かさずに来たのです。後から聞いた話では私の下校時間に合わせて待ち伏せをするために学校を早退することすら厭わずに来ていたため親にこっぴどく怒られたという話を聞きました


しかし、頼んでもないのに毎日校門で私を待ち続けて、私を見つけるなり色んな所へ遊ぼうと誘い続けて。もう言動諸々完全にストーカーでした


コウちゃんのストーカーは瞬く間に学校で噂となりました。当然渦中の私には様々な質問が飛び交いました


「あの人だれ?」


「知らない」


「何しに来てるの?」


「知らない」


「小林さんのことが好きなんじゃないの?」


「知らない!!」


実際のところ私にも分からなかったのです。コウちゃんの目的や意図は全く読めず、コウちゃんの奇行によってすっかり私は校内で注目の的になり、毎日来るのですからクラスメイトにも昨日は何があったと毎日聞かれました。他者との接触を幾度となく拒むと徹してきた私にとってあまりにも害悪、嫌がらせ、理不尽。はっきり言ってもう怒っていました


お母さんや兄も絶対気付いている癖に知らないと白を切ってコウちゃんのストーカーを咎める様子はなく、私がなんも言わないからってこんな生活が続くのは辛抱たまらなく、今度は私が痺れを切らす番でした


そんなある日。その日も校門で出待ちして私を見つけるや否や隣についていました


「今日もお疲れ様!」


「…」


「ゲーセン行かないか?俺クレーンゲームはめっちゃ得意だぞ」


「…」


「学校で何か嫌なこと言われてないか?」


私が手荷物を持っていると必ず肩代わりしようとすることとか、地味にガードレールの無い路地で車道側をキープしてくることとか、冷え込みが厳しい中でめっちゃ暖かいカイロわたしてくることとか…


もはやそういう気遣いも含めてコウちゃんに関する何もかもにムカついていました

あんたが私にしていることは迷惑だと、ほっといてくれと。今まで何度も、これまでの私のセオリー通りに心のうちに留めていたものが爆発しました


「言われてるよ!!あんたのせいで凄く言われてるよ!!しつこいよ!!鬱陶しいよ!!何考えてるのか知らないけどいい加減にしてよ!!」


「……」


「はぁ…分かってくれた?」


「ああ。凄く可愛い声だなって思った」


「な、なんでそーなんの!!あんた私の話聞いてた?」


「まずその『あんた』っていうのを止めてもらおうか。俺の名前は木戸孝太郎だ。呼び方はコウちゃんで構わない」


「それは嫌。木戸ね」


「まぁいいか。じゃあこうして仲良くなったわけだしトランプでもしようぜ!花音」


いつ仲良くなったとかなぜトランプとか言い返したいことはいっぱいあったけれど、それらに加えて自分の下の名前をサラッと呼ばれたことに私は顔を赤くしてしまい、私の思考がオーバーフローしました。私へ迷惑をかけている張本人であるコウちゃんに自分の名前を呼ばれてドキドキしていていることは、私にとって決して認められるものではなく、とてつもない屈辱感を与えるものだったのでした


「いいよ。やろうよトランプ」


そのときの私は目の前の男をどんな方法でもいいから打ち負かしたい気分でした



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


家に着いて、自分の部屋へコウちゃんが入ってくることにもう何も言うことはありませんでした


「それで何やるの?」


「スピードは分かるか?」


「舐めんな!」


と、食って掛かったものの。私はスピードをやったことは無く、クラスメイトがやっているのを見たことがあるだけでした


したがって結果は私の完敗でした。しかもルールがあやふやな私に詰まったときにどれを動かせるか適切なアドバイスをくれやがるのです


「もう一回!!」


その後神経衰弱、ババ抜き、七並べ、ポーカー、ブラックジャックと思いつくもの全部で挑み続けましたが、友達がいなくて経験の浅い、というか無い私が弱いのか、それともコウちゃんが強いのか、あるいはその両方か。ただの一回でも私が勝つことはありませんでした


「はい、また俺の勝ち」


「…もうなんも思い浮かばないよ」


「じゃあもうこんな時間だしここらでお開きとしますか」


「嫌だ!!」


「え?」


「…まだトランプやりたい」


傍から見れば私が一方的に負かされ続けているだけで、私が楽めるような内容には見えなかっただろう。でも初めて他人と、コウちゃんとしたトランプは私にとって今までのなによりも充実した時間だったのです


何事にも無気力で自分の思いの丈を吐くことができず人から言われるがままだった私でしたが、この掛け替えのない感覚を失いたくないからと。私が思わず零した人生で初めてのわがままでした


「…仕方ないな。だが何度挑もうが手加減は一切しないぞ?」


「望むところよ!!」


それから私たち、というより私は夕飯を食べることすら忘れてトランプにのめり込み、それは私が疲れ果てて寝落ちしてしまうまで続きました


















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