溢れ出す想い
約束していた水族館へ行く前に昼食を共にする木戸、花音、健太郎だったが、健太郎が突然理由も言わずに立ち去ってしまった
健太郎が有無を言わさずに去ってしまった後
仕方ないので俺と花音は二人で水族館へ行くこととなった
あまりにも強引な健太郎の行動にいつも通り怒り始めるかと思われた花音だったが
「面白い見た目してるな」
「う、うん」
健太郎がいたときはあれだけはしゃいでいた花音であったが、いなくなってからは急にしおらしくなってしまった
今だって花音が一番楽しみにしていたはずの深海エリアにいるにもかかわらず随分と薄い反応である
いつもの快活な花音の面影は一切なく、非常に気まずい雰囲気だった
昼食を食べた中華料理店を出てから電車に乗って水族館へ向かっている間に関しては花音は一切喋らず、入場してから俺が何回か声をかけてみても帰ってくるのは無難な相槌だけ
そんな花音を伺うような視線を送ってみれば、それに気づいているのか花音は絶対にこちらと視線を合わせようとはしないように水槽を見つめ続け、普段ならスキンシップさえ厭わないような距離感であるはずなのに今は並んで歩いていても絶妙に空間を空けてくる
そんな傍からみたら違和感は特にない、しかしながら俺からすれば異常と言える花音の様子を見て察せられないほど俺は鈍感ではないのである
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俺は早々にこの状況を抜け出したかった
なんとかぎこちない動きで水族館を巡った俺たちは最後にアシカショーを見ることにした
ショーの客席は平日ということもあって人はまばらであった。しかし、その少ない他の客のほとんどがカップルらしき男女二人組であることがとても気になる
「すごいね」
「そ、そうだな」
ショーというには控えめな歓声、アシカショーの会場は広いためか他の客とは大きな間隔が空いている。コールアンドレスポンスというのがこういったショーにおいて臨場感をそそるはずなのだが、人が少な過ぎるせいでどこか飼育員の一人芝居をしているような感覚に陥ってしまう
そんな状況を良好なムードと感じたのだろうか。周りのカップルはここぞとばかりにイチャイチャしだした。なんならキスまで発展しているカップルがいて、花音はショーよりもそっちに釘付けである
こんな客の集まり方にも慣れているのか舞台のアシカとスタッフは全く動じずに芸を華麗に決めていたが、寧ろそれがシュールに見えてくるのに悲しささえ覚えてきた
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アシカショーと言えるのか怪しい何かを見終えてフロントの方へ戻ってくると、時間は夕方となっており、入り口の方から西日が目に差し込んできた
健太郎が急にいなくなってしまったせいで色々と想定が狂ってしまい、非常に居たたまれない気持ちを抱え続けた一日であったがそんな時間にも終わりがあるのだと。いつもと違う花音と二人きりの水族館の、まるで退屈な授業でも受けているのかと錯覚するほどに長く感じたこの時間の終焉を迎えるのだと
そう思っていた時期が俺にもあった
エゴの求めるままに何の理由も説明もなく去ってこの状況に陥れた憎き親友になにをプレゼントしてやろうかと、俺はそんなことに思考を巡らせていた
「じゃあお土産買って帰るか」
そして俺の後ろをついてきているはずの花音にこう言いながら振り返った瞬間だった
…花音が俺に抱き着いて自分の顔を俺の胸にうずめていた
「コウちゃんのことが好き!好きだよ…」
花音の抱き着く腕の力を強められ、俺は自分の胸が花音の涙で濡れていくのを感じながら天井を見上げていた




