経緯
花音と健太郎と一緒にファミレスに行った
再び学校への登校が始まった
クラス内では久しぶりの友達との再会に盛り上がったり、2週間ほどでやってくる中間テストで憂鬱になったり、GW中の惚れた腫れたの話だったりでかなり賑やかだった
初日以来姿を見せていない館林だが今日も現れず、彼女の席はもはやみんなのたまり場として利用されていた
「館林は今日も休みだな。彼女が次に来るのはいつなのだろうか」
「あー。まぁいつかしれっと来るんじゃないか。何かしら理由があるんだよ」
「理由ねぇ」
「気になるのかコウちゃん?」
「そりゃ転校するだけして全く登校してこないなんて異常だろ」
「確かにな」
「だからその…もし次に登校してきたときにみんなとなじめるかなぁ…なんて思ったりして」
「……」
健太郎は俺のことをニマニマという擬音が当てはまりそうな笑顔で見てきていた。ウザイ、うざすぎる
「悪かった。ちょっとキモイ発言したからってそんな顔しないでくれ」
「いや別にキモイとは思ってないけどよ。コウちゃんは人の交友関係を心配をする前に自分の心配をするべきなんじゃないかな~なんて」
「ケンちゃんのバカ!もう知らない!」
「花音みたいな拗ね方すんなって。そういや花音と言えばあいつテスト勉強をコウちゃんとしたがってたぞ」
「そうか。毎日とはいかんだろうがバイトの調整をしておく」
「俺はテスト前期間でも部活があるからパスで」
「了解」
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「「ありがとうございました」」
神凪と会うのもGW初日ぶりだ。一週間ぐらいは空いているだろうか
男女の交際関係は二人きりの時間を作ってなんぼと自分で言ったにも拘わらずこの体たらくである
依然としてこのバイトでしか会わないのは俺が日和過ぎているからだろうか
しかし考えても神凪と会えるような口実は思い付きやしないし
あの日俺の家に神凪が来たり、そこからデートの尾行に派生したのも俺の想定外の出来事だ
全くもって計画的なものではない偶発的な出来事だった。したがって再現性はない
そんなことを考えつつも作業をして、客の入りが落ち着いた頃になって神凪の方から話しかけてきた
「もっと柊さんと仲良くなりたいです」
グサッ!!という音が聞こえた気がした
俺としてはもっと貴方と仲良くなりたいんだけどなぁ
この神凪の発言だけ切り取ったら片思いが連鎖的に繋がっている悲しい恋愛相関図になるんだが
響也と良好な関係を結びたい神凪がいる以上、このままでは神凪と良好な関係を結びたい俺の状況が好転することはあり得ない
以前ジレンマだなんだと躊躇していたが、やはり少しは踏み込んだ質問をしていくべきだ
何事も益を得るにはそれ相応のリスクを背負う必要があるのだ
サッカーで点を取るにしろ、恋愛で異性と接近するにしろ失う覚悟を持って立ち向かうべきだ
「どうしてそこまで響也に肩入れするんだ?」
「それは…」
「もしかして本当に響也のことが好きだったりするか?」
「いえ、そういう訳ではないのですが」
困ったような雰囲気は纏っていたが取り敢えず言質を取ることに成功した
「ではなぜ?」
「その…私と柊さんが同じような境遇だから…助けたいんだと思います」
「……」
「どうかしましたか?」
「神凪…その言葉を鵜吞みにするなら神凪自身も響也と同じぐらい異常をきたしていることになるんだが」
神凪はしまったというような表情をしていて、明らかな動揺が伺えた
恐らく知られたくはないことだったのだろう
だがそこに踏み込んでこそ俺の目的は達成される
「人の心配をする前に自分の心配をするべきなんじゃないか」
俺はちょっとデジャヴを感じつつ神凪を問い詰めた
神凪はというとこれまたいつか聞いたような弱々しい声で
「その…この後時間ありますか?」
と言うのであった
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あれからバイトを終えた俺たちはあの日と全く同じ流れで今日も俺の家に神凪が来た
風呂に入って髪を乾かし、落ち着いたところでリビングに座って折り畳み式テーブルを挟んで神凪と向き合う
「じゃあ聞かせてもらおうか」
「はい」
神凪の秘密とは一体何なのか
すると神凪は立ち上がってジャージのチャックに手をかけたかと思えば、次々と服を脱ぎ始めるではないか
「ちょっと待て!!神凪ストップストップ!!」
神凪は俺の制止を一切聞かずにジャージとTシャツを脱ぎ捨て下着姿となったのだが…
「こうした方がわかりやすいと思いまして」
俺は恐れ多くも『合意の上』という大義名分を支柱に露出された神凪の全身をみると、腕、太腿、背中などと体のあちこちに痛々しい痣があった
「なんだよ…これ…」
すぐに服を着直した神凪が説明を始める
「…私の父によるDVです。父が腹を立てると体のあらゆる場所を殴られたり、蹴られたり、絞められたりしました。いつからかというのははっきりと覚えてはいませんが軽度なものも含めるなら小学生の頃から始まっていたと思います」
「誰かに相談できなかったのか?」
「…できませんでした。誰にも言うなとも脅されていて、下手に誰かに言ったのが父に発覚したらと思うと怖くてできませんでした。中学3年生の春に母がいなくなりました。私と同じように父から暴行を受けていて嫌になったんだと思います。ある日忽然と姿を消しました。それを受けて私への暴行がさらにエスカレートしました」
スラスラと父親のDVについて話す神凪だが、声は若干震えている上に、はっきりと恐怖の感情が読み取れて、思い出すだけでも苦悶の表情を浮かべていた
「私は気づけば感情を殺すようになっていました。感情を出しすぎると発狂しそうな気がするんです。それが起因してか、中学生の時も今と同じように友達と呼べる人がいない生徒でした。この痣に触れられたくないと思っていたので、私は特に行動を起こさず、ただ静かに時が経つのを待っていました」
学校での他人との交流が最低限な理由は、父のDVによって性格を大きく歪められたということだろう。いつかブランコが言っていた『神凪は特別警戒心が強い』というのも、自身の痣の存在が露呈することを危惧して他人に不信感を抱くようになったのだと考えられる
「それで今はどういう状況なんだ」
「落ち着いてください。順序を追って説明します。思い出せばギリギリ、高校受験の願書提出の時期でした。私の地元は千葉県で本来この高校からは遠すぎて志望校の眼中にありませんでした。しかし願書提出の時期を見計らってか、突然私の家に柊さんの父がやってきました。私の父と何か話し込んでいるのを遠巻きに見ていました。そしてそのよくわからない話し合いの結果、柊さんの父は私に才城高校を受験して合格すれば貴方を引き取ると言いました。いっぱいいっぱいだった私は二つ返事で承諾し、受験は無事合格して私は才城高校への入学が決まりました。それを受けて柊さんの父は新たに条件を提示してきました。それが彼の息子、つまり柊響也さんとの婚約をすることでした。そして断れば父との生活に逆戻りだと告げられました」
「なるほど。その条件すら飲んだ神凪は才城高校に入学。響也との距離が近くなるようサッカー部のマネージャーに立候補して、入学から一年経ったというタイミングを見て二人は付き合うフリを始めた」
「ご明察です。理由は存じ上げませんが、どうやら響也さんも現在母はおらず、それでいて父のことを恐れているようです。その父が差し向けた私のことも同様に恐れている。だからこそ響也さんはあのような態度をとられているのだと思います」
「そしてそれが自分の境遇に似ていて、なんとかしたいからまず響也から信用されるために色々と考え、俺にも相談をした」
「はい。因みに私が携帯を持っていないのは父とのコネクションを断ち切るためです」
「バイトを始めた経緯は?」
「柊さんの父から言われて来ました。目的は見当がつきません」
「そうか。今は一応DVは無いってことだな?」
「はい。柊さんの父から与えられた3LDKの一軒家という広すぎる空間で一人暮らしをしています」
話を聞いている限り問題となるのは響也の父親だ。響也が態度を一変させるほどの恐怖を抱かせていて、一見神凪を助けるような提案をしているかと思えば、神凪の父親を制裁するではなくその動向を握ることで実質神凪も支配下に置いているような感じさえする
とは言ってもこれだけで響也の父親が絶対悪だと判断するのは時期尚早。ちょっと怖い父親だから響也がビビっているだけかもしれない。とはいえ神凪という他人の娘に対して行った行為にしては些か常軌を逸しているしで、人柄や性格、目的も何もかもが謎である
兎に角俺の目的達成には障害になることは間違いない。なにせ神凪と響也が結婚することを命じているのは彼なのだからこれを撤回させる必要がある
今まで俺は単純に神凪を惚れさせるっていうことだけを考えていたが、柊一家の家族問題にも首を突っ込む必要性が出てきて中々厄介な話になってきた




