尾行調査3
須藤達也という人物から芸能プロダクションにスカウトされた神凪と響也だったが、二人ともそれを断った。今日一日を通して響也の様子がおかしい
俺が帰ってくると何やら神凪と響也が一人の小さな男の子と話していた
ブランコの方へ近づいていくと不意に耳につけたAirPodsから会話が聞こえてくる
『あなたはどこから来たのですか』
『ママと来た』
『その…ママとはどこで別れましたか』
『ここにいたらママいなくなってた』
身長的には5~6歳だろうかといったところ。恐らくこの辺をうろちょろしてたら母親がそれに気づかずはぐれてしまったのだろう
要するに迷子である。俺がトイレに行っている間に面白い展開になっているようだ。もちろん二人の性格を知る上で面白いと言っているのであって、迷子の存在を面白がっている訳ではないことをここに示す
『ここで見つかった以上この映画館かショッピングモールのどちらかにいるでしょう。取り敢えず館内のスタッフに迷子について知らせましょう』
『そ、そうだな』
神凪はスタッフを呼びに行ったようだ
こういう不測の事態でも響也はいつも指示を出したり行動したりできるはずなのだが、ここでも何とも言えない相槌を返すだけであった
それにしても神凪の頼れるお姉さんムーブは非常にかっこよかった
あの響也の様子からして最初に話しかけたのも神凪だろうし、好きな人がそういうことを進んでやっているのを見るとなんだか自分のことのように無性に嬉しい
しばらくして神凪が戻ってきた
『ショッピングモールにある迷子センターに行ってほしいとのことです』
(移動するみたいだぞ)
(ここからは別行動だ。私のカバンを君に預けよう。これを持っていればイヤホンは正常に作動する。私は件の母親を探して連れてこよう)
(分かった)
(君がそのカバンの中身を見れば機能停止するだろうから注意するんだな)
なんだこの用意周到な奴。少しは俺のこと信用しやがれってんだ
それにしてもここまで直接的に罠があると言われたわけだが一体どんなものが仕掛けられているのか。ブランコという人物と同様に、その罠の正体も全く得体の知れない恐怖であった
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迷子センターはモール内のキッズルームの近くにあり、絵本に積み木に簡易的なアスレチックと子供が時間を潰すのに十分な施設が揃っていた
迷子の放送がされたからか、それともブランコの仕事が早いからなのか。程なくして彼の母親が来た
『本当にありがとうございます』
『どういたしまして』
母親と男の子が仲睦まじく手を繋いで去っていくのを神凪はじっと見つめていた
『さて、私たちももう解散にしましょう』
『分かった、それじゃあまた学校で』
どうやらようやく今日の尾行調査が終わりそうである
携帯にブランコからの連絡が入ってきて、ここで待っていろという指示だった
あとはブランコと合流してあずかったものを返して帰宅するだ…
『「ここで何やっているんですか」』
…どうするんだこれ
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ひとまずブランコのことは伏せた上で今日一日尾行していたことを白状した
「それであなたから見て今日のデートはいかがでしたか」
「なんというか…響也がおかしくなかったか?」
「そうですね。柊さんは私のことを恐れているので」
「恐れてる?なんで?」
「それは言えません、ですがあまり気にしないでください」
無茶言うなっての。学校であんな一面がある素振りは全くなかったし、神凪が居合わせた程度ではあんな風にならなかったと記憶している。神凪と二人きりになるとああなってしまうという訳か。この場で聞き出すのは難しそうだしどうにかして聞き出せるぐらいの関係にならないと恋愛的な問題でもダメだな
「それにしても迷子を助ける神凪はかっこよかったぞ。子供の扱いが上手っていうのかな。あの迷子不安そうな顔を全然浮かべてなかったし。完全に神凪に懐いてたように見える」
「それも見ていたんですね」
「まぁな」
「…お聞きしたいのですが木戸君の両親はどうしているんですか」
「俺の両親は仕事で大阪に住んでるよ。俺一人残して二人で行っちゃった訳だけど、一人残されて心配なのは俺より父さんの方だっていうぐらい残念な父親と俺が自立できる術をこの身に叩き込んでくれた頼れる母親。そんな両親のもとで育ったよ」
「憎んだりはしてないですか」
「俺は全然気にしていない。まぁ傍から見たら酷い話だけど、それでもあの両親の間に生まれてよかったと思ってる」
「なんでですか」
「それは色々あるけど…どっちもいけない事をしたら叱ってくれて、いいことをしたら褒めてもらえるっていう当たり前のことを徹底してくれたことかな。怒ると凄く怖いんだうちの両親」
「怖くはなかったんですか?」
「まぁ俺に非があるのは明らかだったし、怒られた後に俺じゃなくて父さんや母さんが相手に謝ってたいるのを見ちゃってね。その時に自分の愚かさに気付いたよ」
「そうですか」
「大したこと言えなくて申し訳ない」
「いえ、参考になりました。ではそろそろ私も帰りますね」
「あ、そうだ」
俺は自分のポーチからあるものを取り出して神凪に手渡す
「これは?」
「あの映画とコラボしてるメモ帳。神凪は携帯もってなくて写真とか撮れないだろうから、今日一日の思い出としてな」
あからさまに驚いているというか、まさしく目を丸くさせていた神凪だったが、俺のプレゼントをしっかりと受け取ってくれた
「ありがとうございます。大切に使います。それでは」
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「いつの間にそんなもの買っていたのかね」
「まぁ筆談用にスペアとして念のため。トイレに行く前に買ったんだ」
「なるほど。それで私には何かないのかい?」
「あるわけないだろ」
「それよりも」
俺はブランコのカバン、AirPods、余ったメモ帳、そしてボールペンを差し出す
「あぁ、そのカバンだけで構わないよ」
「でもこのイヤホンは高い奴だろ」
「最初に言ったじゃないか。それは『プレゼント』だって」
「え?」
「では我々も解散するとしよう。さらばだ」
カバン以外は受け取らずに去って行ってしまった
今日は何から何までとにかくかっこいいブランコであった




