翌日
神凪と柊のデートプランを考えるという苦行を強いられた
神凪が静かな寝息を立てる中、俺の目はパッチリと冴えていた
神凪がいるというのもそうだが、実はどこでも寝れるなんて真っ赤な嘘である
寧ろいつもの自分の布団でないと寝付きも寝起きも悪いのである
ではなぜあんなことを言ったのか?
はい、強がりました。本当にごめんなさい
いつもの布団に比べ今座っている椅子の硬さは尋常じゃないし、背もたれはあるものの首から上をカバーしてくれないしで何かと寝るには辛い体勢でもあった
それにしても今日は内容はなんであれいっぱい神凪お喋り出来た
サッカー部の頃の会話量を悠々と超えるものであったし、なんだか神凪の色んなことを知れた気がする
普段全くと言っていいほど無表情の神凪が少し照れたり喜んだりした表情が垣間見えるとこの上ない幸せを感じるし、俺の家に来たことをはじめとして独特な価値観から放たれる言動の一つ一つもなんだか新鮮で楽しかった
俺が神凪のことを好きだと思っているからだろうか。彼女のどんな仕草一つとっても可愛いと思えるのである
なんだかより神凪に惹かれている感じがするが、肝心の神凪は俺のことをどう思っているのだろうか
少なくともただの同級生ではなくなったと信じたいが
そんな風に今日のことを思い返していると、ようやく自然と目蓋が落ちてきて俺も眠りにつくこととなった
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「……て」
なんだか声が聞こえるような
「……きて、おにい…」
すごく聞き覚えのある溌溂とした声だ。なんだか聞いてると安心するような声
「起きてお兄ちゃん!遅刻するよ!」
「マジで!」
『遅刻』という言葉に反応して先ほどまでのボーッとした状態から一気に覚醒した
勢いよく椅子から立ち上がった俺は変な体勢で寝たため、案の定体の節々に痛みを伴ったがそれらをアドレナリンでねじ伏せて早着替えをする
声の主は花音だった。なぜ花音がいるのかは甚だ疑問ではあったがそんなことを聞いている余裕はない
「ひはなんひ!」
「8時15分!あと15分で登校しないと遅刻だよ!」
いつもよりも早々に歯磨きを切り上げ、雑に顔を洗ったのち、これまた雑に髪を整え、寝る前に準備したカバンを持って玄関で待っていた花音と一緒に家を飛び出た
「なんで花音がここに?」
「今日は珍しく顧問の先生が出張で部活は自主練習だったからお兄ちゃんと登校しようと思いました。それで今朝その旨を連絡したのにお兄ちゃん一向に既読しないからおかしいと思ってお兄ちゃんの家に来てみたら玄関の鍵空いてるし、布団は敷いてあるのに椅子の上ですごく苦しそうな体勢で寝てるしでびっくりしちゃったよ」
「昨日はまぁ色々あってな。ありがとう花音、助かったよ」
「それほどでもーないけど?でも流石に不用心すぎるよお兄ちゃん」
「ああ、すまない」
恐らく神凪が早朝に起きて鍵は持ち出さず、そして施錠せずに家を出たのだろう
俺も大概だが神凪もほとんど寝てないだろうに大丈夫だろうか
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「おはようケンちゃん」
「おはようコウちゃん、今日は随分と眠そうだな」
「まぁ言うまでもなく寝不足だな、ちょっと考え事してたら眠れなくてな」
花音同様、健太郎にも適当に誤魔化しておく
「そっか、俺でよければいつでも聞くからな」
「ああ、ありがとう。それで今朝は花音に起こされたんだ」
「…?花音が起こした?と言いますと?」
「かくかくしかじか」
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「玄関の鍵を開けっ放しって本当に大丈夫か?」
「自分でも反省している、だからあまり心配してくれるな」
「そうは言うけどなぁ…そういや花音に変なことされなかったか?」
「特には。朝から相変わらずの元気一杯だったけど」
「その…いきなり布団を引っぺがしたり、体をゆすってきたりとか」
「なんだよそれ。別に何もされてないけど不安をあおるような言い方するから身構えちゃったわ」
「いや俺は毎朝のようにこんな悪魔のような所業をされるんだぞ!」
「…悪魔のような所業って言い過ぎだろ。きわめて一般的な起こし方じゃねぇか」
「そんなわけないだろ!布団に籠っててやめろって言ってるのにずっとやってくるんだよ」
「それはケンちゃんが起きないからじゃないか?」
「コウちゃん…お前ならわかってくれると思ってたのに」
「何を言っとるんだケンちゃん」
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それからその日の授業がつつがなく終わった
「それじゃあケンちゃん部活頑張れよ」
「おう、コウちゃんもバイト頑張れよ」
いつも通り昇降口で別れ、俺はバイト先に向かった
今朝はかなり忙しいことになったが、俺は基本的にバタバタしないように計画立てる性格である
バイトのシフトも決して遅れないように学校の下校時刻から余裕を持たせているため焦る必要はなく、ゆとりをもって歩けばいいのである
そのはずだったのだが…
「やぁMr.KIDO!素晴らしいコンサルティングだったじゃないか!」
天下の公道で白衣のを身につけた異質な存在、ブランコが俺の行く手を阻んでいた
出会って第一声からやかましすぎる
「もうこの際家で起きたことが全部聞かれてるのはいいとして、この後バイトなんだから要件があるなら手短に話して欲しい」
「そんなに急ぐな。君の30分後のシフトには余裕で間に合うさ」
当たり前のように俺のあらゆる情報を握るこの女
やっぱり関わりを持ったのは間違いだったのだろうかと思わされる
「今日は素直に褒めに来ただけさ。君の頑張りに対してこちらもそれ相応の情報を開示しよう」
「『開示』とか言うならお前は既に俺の知りたいようなことはもっと、なんなら何でも知ってるという認識でいいのか」
「まぁそう思ってもらっても構わない。君が引き続き私の目的の手段になってくれれば、君の欲しい情報を開示していこう」
「お前の手段になるのは凄く怖いんだが。なんか麻薬とかの運び屋になった気分だ」
「そう過度に警戒するな。神凪のようにな」
「は?神凪が警戒?何の話だ」
「神凪は人並み外れた才能を持っているが、それと同時にこれまた人並み外れた警戒心を持っているってことさ」
「神凪の警戒心?昨日店で俺の家に無理矢理上がろうとした数々の発言からしておおよそ女性としての警戒心は欠片も感じなかったが?」
「神凪は滅多なことがなければ人と話をしない。それは学校での様子を見れば君でもわかるだろう。昨日あんな風に君と積極的に会話していたことは私としても驚いている」
「随分と俺を持ち上げるんだな」
「実際君は特別な存在さ。だから私は君と取引した。その意味を考えてみるといい」
「なんかふわふわしてるな」
「言えるのはここまでだ。では頑張って働き給え少年よ」
電話だろうが対面だろうが変わらないようで、言いたいことを言い終えると足早に去っていった
俺が特別な存在って少年漫画じゃあるまいし、神凪の警戒心についてもなんかしっくりこないが、ブランコの言うことだから重要な要素であることは間違いない…と思う




