我が家で対談
バイト先の休憩室で神凪からの相談を受けようとしたが高校生である二人はもう夜遅い時間帯故に家に帰る必要があった。そこでいきなり神凪から木戸の家にお泊りすると言われ、どうにか理由をつけて拒否しようとした木戸だったがブランコから受けなければ神凪を引っ越させるという脅迫を受けた
ブランコによる圧力によるところが大きく俺は結局神凪を家にあげることになった
『意中の女性をいやいや家に上げることになった』というのはどこか違和感を覚える文句ではあるが事実である
あれから店を出た俺達はコンビニで最低限の日用品を揃えた後に、現在俺の家の前である
「どうぞ」
「お邪魔します」
いつも穏やかな日常を演出するはずの俺の自宅が神凪の存在一つで圧倒的非日常である
休憩室での発言から察するに向こうはなんとも思ってないのだろうが、こちらはもう心臓がバクバクで胸が痛いと言うか苦しかなってきたというか…
そんな俺の気も知らずに家の中をじっくりと見回していた神凪だったが
「狭いですね」
と言う感想を述べた
俺の家は一人暮らしによくある六畳一間のアパートである。最寄り駅から徒歩25分という点さえ我慢すればトイレ、風呂、キッチンもある割には激安な物件である
「一人で住むならこれで十分だ。神凪も一人暮らしなんだっけ?」
「はい、しかし私の家は3LDKの一軒家です」
「それは逆に広すぎやしないか?」
大体どこからそんな家に住めるようなお金が出てきてるんだ
そういやセキュリティがどうのこうのとも言ってたっけ。相当高そうなとこ住んでるんだな
「取り敢えず風呂だな。俺は湯船張らないけど神凪はどうする?」
「私も大丈夫です」
「先入る?」
「では先に入ります」
そう言って神凪は自分のバッグを持って脱衣所へ行きスライドドアを閉めた。
なんかもう風呂上がりに裸でこっちに来たらどうしようかと思ったが、流石に杞憂だったらしい
にしても本当に俺の家に来るとは
神凪にとってそこまでのことをする理由はなんなのだろうか。といっても彼女の思考については全く読めないのだが
そういった意味ではブランコと似ているとも思ったが、あいつと神凪にそれこそ血縁的な関係があったりして…
いやない!似ているのはその一点のみだ。それ以外は正反対と言っていい
何はともあれ今こうして神凪を招き入れている。そしてその目的はひとまずお悩み相談の延長だ。どっから見てるかは知らんがどうせブランコのやつも監視してるだろうし。気を引き締めねば
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神凪が風呂から上がって俺も入り終えた
風呂上がりの神凪だが、普段まとめている長髪を下ろしていて雰囲気がいつもと違うし、頬が上気しているのも相まってなんかすごくエロかった
格好は急な雨に備えて常備しているというジャージを主にした着替え一色で露出は少ないはずなのだが、俺の家にいるという状況がそう考えさせるのだろうか。すごい色気を感じる
当然そんなことは口にはせず
決して悟られないように折りたたみ式のテーブルを挟んで神凪と向き合う
「で、詳しい事情をお聞かせ願いたいのだが」
「私が柊さんと交際しているフリをしているのは事実です。ですがごめんなさい、その理由までは教えられません」
ブランコのやつもそこら辺の事情に差し掛かろうとしたあたりでボイスレコーダーを切ったが、一体どんな裏が隠れているのかは非常に気になる。が、教えてもらえないならどうしようもない
もっと信用を得る必要があるかもしれない。そうすれば話してくれることも増えるかもしれないし、神凪との仲を深めることにも繋がる
そのためにも神凪の問いに対してベストアンサーを出すことが今の俺には求められている
「私はこの関係を続ける必要があります。ですが今日あなたに感づかれたように、私たちの関係を疑う人は存外多いようです」
「そらそうだ」
「なぜそう思ったのですか」
「今までそんな雰囲気は全く感じなかったし、二人の会話はめちゃくちゃ淡白だし、というか二人付き合ってることを決定づけるようなエピソードを伝聞ですら聞かないし」
「すごく捲し立てますね」
やべ、つい私情を挟んでしまった
「とにかく、一般的な男女の交際関係からは逸脱した状態であると言えば分かるか?」
「なるほど…それで何をすれば一般的な男女の交際関係を築けるのでしょうか?」
「それはまぁ一緒に出かけたり、会話したり、それこそこんな風に互いの家に上がってみたりとかかなぁ。二人きりの時間を作るというか。でもそれをするなら本当に二人が付き合ってるようなものになるけど?」
その展開は俺からすると非常に困る
「なるほど。ではやってみましょう」
「いや待て。話聞いてました?これやったら付き合ってるフリじゃなくなるんだって」
「ですが今こうして二人きりの時間を過ごしていますが、私と木戸君は交際していませんよね?」
グサっと心に刺さった気がした。いや確実に刺さった。今の言葉は『言刃』だった!
冷静に考えれば現在このように二人きりになっているのは明らかに交際している男女のように見えるもので、論破で有名な苗○誠なら余裕綽々で『それは違うよ』と言えるのだろうが
「そう、ですね…」
精神的に大ダメージを負った今の俺は著しく思考力が欠如し、力なく肯定するしか無かった




