最近の子は可愛い顔して大胆
ガードが堅い神凪に対して足掛かりを作ろうと響也との関係を突いて弱みを握ろうとする木戸。僅かに怯えた表情をした彼女から「この後時間があるか」と聞かれ、これを肯定した
何かに怯えてガクガクと震えながら俺に助けを求める神凪の姿がそこにはあった。
というのは些か誇張したが、雰囲気としては概ね間違っていないと思う
あの後ボチボチ来る客に対応してシフトの時間を終え、取り敢えず休憩室に集合ということで彼女は更衣室へと向かった
今現在の俺はというと先に着替えを済ませ休憩室で神凪が来るのを待っている状態である
にしても最初はどうなることやらと心配だったが、結果としてはバイト以外のプライベートな時間で二人で密会の予定ですよ。成功、成功、大成功でしょう?
これであのすかした態度のブランコがびっくり…する様は流石に想像できなかった
しかしあの神凪は可愛かったなぁ
上目遣い、庇護欲そそるあの表情、か細い声、それらがあの神凪から生じることによるギャップ萌えのような感覚!
結局男は馬鹿で単純でしょうもないなんて揶揄されても納得ですよ
いつまで経ってもあんな使い古された手法でドキドキしちゃってね
でもね、あの破壊力に耐えうるようになることは本当に人類の進化と言えるでしょうか?(いや、言えない)
とまぁまだ付き合ったわけでもないのにここまで舞い上がってるのもおかしいし、勝負はここからが本番とも言える
経緯はどうあれ女の子のお悩み相談ですよ。返答次第で大きなプラスにも大きなマイナスにもなりかねないのだ。こんな興奮状態で受けるわけにはいかない。冷静さを取り戻さねば。
俺は大きく深呼吸をしたのだが
ぐぅぅ~~
と俺の腹が大きな音を鳴らした
そして気配を感じて休憩室の入り口を見ると学校の制服に着替えた神凪が立っていた
休憩室の中に俺がいて、入り口に神凪が立っていて、俺が恥ずかしい言動をしている
もうデジャヴでしかない
俺は羞恥でどうにかなりそうだったせいだろう、このときとても重要なものを見落としていたのだった…
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俺たちがいるのは牛丼屋
お腹が鳴ったら何食べるか
当然牛丼である
というわけで俺は調理場で作ってきた牛丼をかき込んでいた
安い、早い、旨いの触れ込み通りお腹を鳴らしてから十分経たないうちに俺の腹は満たされた
「私の分まですいません」
「気にするな、それで『この後時間があるか』についてだがその場のノリで『はい』とは言ったものの俺たち高校生はもう帰らないとまずいと思うんだ」
「そうですね」
「既に結構な時間だが親は心配しないのか?」
「…私は一人暮らしです」
「そうか、俺も一人暮らしだ」
「それは知ってます」
「それもそうか、あんだけ部活早退したり、休んだりしたもんな」
「はい、ですから…」
「ですから?」
「今晩泊めて下さい」
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いや場面転換でも時間軸変わるわけでも回想にいったわけでもないけどね
え、この人今なんて言った?
え、この人誘ってる?
え、仮にも彼氏持ちだよね?
ダメだ、やっぱり何考えてるのか全くわからん
「えっと…正気?」
「はい」
いつもの無表情でそんな爆弾発言だされてもシュールが過ぎる
「今晩俺の家に泊まる理由をお聞きしても?」
「ご相談があります」
「ここで聞くというのは?」
「少し長くなると思うので」
「電話じゃダメかな」
「お金がかかります」
…?電話にお金がかかるとは?
「携帯持ってる?」
「持っていません」
「固定電話は?」
「ありません」
「それってつまり神凪さんが言うところの電話というのは…」
「公共電話です」
「なんと…」
通信技術が著しく発展した現代においてこのような人が存在するとは
「何か問題でも?」
「問題しかないだろ。なにかあったときどうする?」
「なにかとは?」
「それは…例えば体調が崩れたときとか」
「健康管理は自分でできます」
「友達との連絡とか」
「いないですし興味ないです」
「じゃあ何か危険な目に遭ったときとか」
「私の家のセキュリティは最高峰です」
「…そんな家に住んでいるのに携帯をお持ちでないと?」
「はい」
また言い切りおったでこの人
つまるところ彼女金銭的ではない理由で携帯を持っておらず、連絡手段の乏しい彼女にとって『相談』する方法は対話しかないということらしい
「後日改めてというのは?」
「…?なぜ改める必要があるのでしょうか」
「いや…なんというか…身の危険とか感じませんか?」
「あなたの家のセキュリティは脆弱なのですか?」
「外部からの侵入じゃなくて!俺がいることに!身の危険を!」
「感じません」
えぇ…
それは人として信頼されていることに喜ぶべきなのか、それとも男として見られていないことに悲しむべきなのか
「でも他人の家に泊まるというのはそれなりに準備が必要ではないかね。着替えとかどうするの?」
「急な雨に備えて常備しているものがあるのでそれを使います」
「俺の家に美容品なんてないよ?あと歯ブラシとかも」
「途中でコンビニに寄らせてください」
「えっと…ほかに…何か…」
prrrrrrrrrrrr
色々とお泊りを阻止する理由を考えていると俺の携帯が鳴りだした
「どうぞ」
「どうも」
神凪はこういう電話に関する定型句も知ってるみたいだった
重度の機械音痴説もないとなるといよいよなぜ所持していないのかが本当にわからない
俺は休憩室を出て廊下でスマホの画面を見ると、それはブランコからの着信だった
嫌な予感がした俺はそこからさらにトイレへと駆け込む
「もしもし」
「早くOKしなさいよこのヘタレが」
「なぜ当たり前のように今の状況を把握してるんだ」
「向こうから来るって言っているんだよ?合意の言質取れてるよ?君が感じるデメリットなんて一つもないのに何を決めあぐねているんだい」
「こういうのは論理的ではなく倫理的にアウトだよ」
「難しい奴だな。そういえば私『失敗は許さない』って言ったよね」
「まぁ言いましけど。それが?」
「失敗した時の処遇だけどね、神凪に引っ越してもらうことになる」
「は?なんだそれ」
「どこか遠い地にね。当然転校して君との関係は絶縁さ」
こいつ。毎度のことながらさらっとえげつないことを言いやがる
「まぁ今回はこの場で証拠とか出せないから信じるか信じないかは君次第だけどね」
こいつならやりかねない
そういう曲がった信頼なら出来つつあった
「お持ち帰りしたらおうちデートってことで成功にしてあげるよ、以上」
そういうとブランコは俺の意を全く介さずにそのまま躊躇うことなく電話を切りやがった
返事は行動で確認するということなのだろう
にしても神凪を引っ越しさせるられるのかよ。ブランコの謎は深まるばかりだな




