神凪志帆という女
神凪と距離を縮めるために神凪と二人きりになれる明後日のバイトでデートの約束を取り付けろという無茶振りをくらった
決行当日
昨日は一日中何話すか考えたもののいきなり妙案が浮かんでくるはずもなく
そもそも彼女と1対1で話したのは部活に入ったときユニフォームのサイズ聞かれたときと最近のバイトで仕事を教えていたぐらいしかない。どちらも必要最低限というかお互いのプライベートな話題になったことは一切無い
ブランコも大概だが神凪もまた違ったタイプの思考の読みにくさをしている。基本的に無表情、というか一年間同じクラスで同じ部活であったからこそそれなりに観察してきたがテストで満点を取ろうが、行事のフィナーレであろうが、階段で躓こうが、早朝で周り全員が眠たい顔してようが。他にも挙げるときりがないぐらいでもはやそれは異質なまでであり、彼女が敬遠される理由でもある。とにかく感情の起伏がなく喜怒哀楽が抜け落ちているような人である
だがコミュニケーションを全くとらないかと言われると答えはNOである。内容は非常に淡泊ではあるが会話は交わすし、なんならサッカー部のグループチャットでの返信は異様なほどに早かったりして
最初はそんな神凪志帆というどこか浮世離れな人に好奇心のような珍しい生き物を見る目で見ていたが、変わらない表情で授業に取り組み、毎朝グラウンドに来て水分を用意してくれるのを見てたら…
惚れてまうやろー!!
というわけでいつの日にか神凪を好きになった俺。何のアプローチも出来ないまま神凪に彼氏が出来たと聞いたあの日の衝撃。だがどういう縁なのかは知らんが俺はブランコと出会いまだチャンスがあると知った。この好機、絶対に逃さない
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「「いらっしゃいませ」」
神凪は抑揚のない淡泊な声ではあるものの、お客様の不快感を買うようなことはなく接客は問題なくこなせておりコミュニケーション能力に問題があるわけではないように伺える
「カウンターのお客様のほうから提供するぞ」
「はい、団体の注文一部変更です」
そういった神凪は素早く機器を操作して訂正された注文内容が送られてきた。
「了解、これ3番カウンター」
「はい」
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しばらく客を捌き続けてなんとか夜のピーク時間を終えた。
俺に指示にはしっかり返事をして注文変更など商品提供にイレギュラーを生む情報を迅速に伝達してくれる
表情は相変わらずではあるが学校では基本無口である彼女の声をこんなに聞いているのは俺だけかもしれない
しかしそれはバイト仲間として一緒に働いていれば当然のことであり、俺が求める理想の関係はもっと神凪と踏み込んだものである。そしてそれに至るにはブランコの言っていた何もせずに得られるものだけでは足りないのである。行動する必要がある
「にしても神凪って接客上手だね」
「ありがとうございます」
「なんか他にバイトはやってたことあるの?」
「いえ、これが初めてです」
「本当に?俺は最初の頃とか中々声が出せなくて、仕事の覚えも結構悪くてさ。よく店長に怒られてたよ」
「そうなんですか」
「なんか緊張しない?経験もなにもない素人なのに客の前で堂々としてるの」
「特には、同じ人間ですから」
「それって俺と話すのと同じ感覚で接客してるってこと?」
「はい」
言い切りおった!!
それって裏を返せば俺のことを客同然として扱ってることになるのですが…
ショックというか今まで会話を交わさずとも何度も顔を合わせてきたはずなのに単純に悲しいというか
実は少しぐらいは向こうも意識してたりなんて淡い期待がなかったわけではないのにここまで脈なさそうなこと言われると素直に傷つくというか…
だがそんなこと言ってられないのである
ブランコは言った『失敗は許さない』と
奴の言うことだから収穫なしで帰ればどんな制裁があるかわかったもんじゃない
どんなことがあろうと表情を崩すことのない神凪
ブランコの情報の信憑性次第なのが怖いが俺に思いつくカードはもうこれしかない
「それは響也に対してもか?」
核心を突いた質問。似たような疑問を学校の生徒の多くが抱いていながら聞けていないこと
『二人は相思相愛なのか』
高校生の付き合っている男女間でこの命題が偽になることは考えられない
しかし神凪と柊の関係については疑わしい事この上ないのである
それにあのブランコの用意していたボイスレコーダー
この二人にただならぬ事情があることは明白であり、それを他人に口外したくないような秘密としてそれを抱えている
まぁあれこれ並べたがつまりは弱みを握ろう大作戦である
で、この質問を受けた神凪はというと相変わらず表情は変わらないものの俯いて返答には困っているという様子だった。まぁもう実質答えてるようなものだけど
「沈黙は肯定として受け取るぞ?」
段々と楽しくなってきちゃった俺は沈黙を貫く神凪に近づく
が、ふとしたところで気付いた
神凪の表情がちょっと恐怖の感情を帯びている?
「ごめん!そのー…怖がらせるつもりはなかったというか」
俺はどうフォローするべきかあたふた焦っていると窓から車が駐車場に入ってくるのが見えた
「取り敢えずお客様来るから準備しよっか」
「…」
いつもはちゃんと返事をする神凪だったが未だに俯いたままで
だがいつもの返事の代わりにこんなお言葉を頂いた
「その…この後時間ありますか?」
そう消え入りそうな、それでも絞り出して紡いだ言葉に
「は、はい」
断る理由はどこにもなかった
『自分しか知らない神凪の一部分』というのはありきたりな表現ではあるが…
その…なんというか…すごくゾクゾクします!!




