私はもう一度、恋をする⑦
私はもう一度、恋をする⑥から数年後の話です。
https://ncode.syosetu.com/n1621ew/
令和〇〇年 五月第二日曜日 一八時二七分
今日、五月第二日曜日。日本では『母の日』という事で、母親へ日頃の感謝を込めて、カーネーションやお菓子、ファッション、化粧品などをプレゼントする。
私の家にも母親がいるので、私もまた母親へプレゼントをする。
「はい、お母さん。いつもありがとう♪」
私は母親へ一本のカーネーション と 包装された小箱を渡した。
「ありがとう。何かしら、亜衣からプレゼントをもらうのは昨年の誕生日以来だわ♪」
母は喜んだ様子で包装紙を破った。
「あらっ♪ これは」
母は箱に入っていた物を取った。母が持っているのは口紅だ。ブランドまではいかないが海外の口紅だ。
「こんな高い物、どうしたの」
「ふふん♪ 奮発しちゃった♪」
「奮発しちゃった、じゃないわよ! これ、それなりにする口紅よ......。あなたのお小遣いで買えるものではないわよ。教えなさい!」
母はあきれ返った様子で追及を始めた。
「うん......まぁ......アルバイト......で稼いだお金で買いました。今まで貯めていた......」
「はぁ~、あなたという子は誰に似たことやら......」
母は頭を抱えてソファーへ座った。
「どおりで、バイトの回数が増えていたわけね。納得したわ......」
「そういうわけです」
「碌でもないことに使われたじゃないだけでも、救いだわ......」
なんとか事が収まったようで、渡した自分も安心した。
「おーい! ただいま♪」
玄関の扉が開く音がして、大きな女性の声が聞こえて来た。そして、私たちのいるリビングの方へ足音は近づき、ついにリビングの扉が開いた。
「ただいま♪」
とてもテンションが高めにその女性は入ってきた。
「貴女ね。もう少し静かに入れないの......。近所迷惑よ!」
母は彼女へ言った。
「えーせっかくお仕事を終えて、帰ってきたのに~。冷たいですね~」
「はいはい、そうでしたね。でっ、大丈夫だったの? トラブルの方は」
「いや~何とかね。まさか朝一で車を走らせて、商品を取りにいくとは~」
事の始まり本日お昼。出庫担当側の手違いにより当初予定していた納品物とは違うものがメーカーに届いた旨の電話が彼女のもとへ来た。長年のお得意様ということもあり、予定通り納品するために、彼女が他県の自社倉庫へ商品を取り、直接交換に行った。
「長年取引している上に、大らかな方だから急ぐ必要はないけど、今時 運送業者は手一杯だから、いつ到着するか分からないからね~」
「あそこの社長さんとうちの社長が幼なじみだから融通は聞くと思うけど......。まさか二つ返事で承諾する貴女も......。まぁ、いいわ。でっ、その大きな袋は何?
「帰りにケーキと買ってきました。今日は母の日なので」
「すぐにご飯の準備をするわ」
「助かります♪」
母はそう言って、キッチンへ行った。
「おっ、この口紅は?」
彼女はテーブルの上に置いてあった、口紅注目した。
「その口紅は亜衣が私にプレゼントしてくれたの」
「おっ、亜衣ちゃん、さすがだね」
彼女は私の頭に手を置いて、撫で始めた。
「もう~その ちゃん付け、止めてください。今年で一八歳なんですからね!」
「大人の私にとっては、まだ『子ども』だよ」
「あと、これ」
私は目を逸らして、彼女へ小箱を渡した。
「おおー!! 亜衣ちゃんが私に!」
彼女は目を輝かせて受け取った。
「はいはい、亜衣は早く料理をテーブルに並べて。 あなたは早く着替えてきなさい」
「はぁ~い、綾さん♪」
「私は、皐月のどこに惚れたやら」
いつも通りの時間がまた過ぎた。
私こと亜衣の日常。
父親のいない母の日。
賑やかな ひととき。
他の家と違うけど、どこか温かい。とても。とても。
それもそのはずだ。
私には、 『二人の母親』 がいるのだから。