(1)
「青山さん……起きて下さい。会議中ですよ」
「あ……ごめん」
いつの間にか居眠りをしていた青山清は、隣の席に座っていた後輩の技術者である竹橋晴香に起こされる。
「青山さん。居眠りもだけど、『ごめん』じゃないですよね?」
新しい課長の永田真一がそう言った。
「あ……すいません」
この職場では、相手の年齢や役職や自分との上下関係がどうであれ「呼び捨て禁止。相手は『さん』付けで呼ぶ」と「敬語」が慣習になっていた。
青山は、時としてそんな状況が窮屈に思える事が有った。
「で、『九段』から要請が有った、車両にも対霊能防護を施す件の費用と作業期間の見積ですが……」
「ええっと……ちょっと待って下さい……」
「午後から作業手順書の確認を実施予定です。そこで、問題が出なければ、必要な資材・時間は、ほぼ確定です」
「じゃ、それを元に費用や期間は割り出せる訳ですね」
「はい」
「結局……最初から、神保さんが言った通りにしておけば良かったのか……」
永田は、ため息をついた。
青山が、ふと、竹橋の顔を見ると、その顔は曇っていた。青山は、かつて、この職場の技術者だった神保の名前が出たせいだろうと考え……そして、神保に「セクハラ魔」の噂を立てられた時の嫌な思い出が蘇えった。
その次の瞬間……。
サイレンが鳴った。
「何? まさか?」
『第2工場棟で死亡事故が発生した模様です。全従業員は退避して下さい。これは避難訓練では有りません』
緊急の社内放送が流れる。
「そんな……まさか……」
いつから……いつから……こんな事になったのか……。青山の脳裏を、そんな思いが過った。




