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出会いの二日目-5


「それで、馬鹿な紡は何処まで話を聞いたんだったかしら?」


 馬鹿と言われても反論できないのが悔しい。しかし、この話題には早く離れたいので、敢えて何も言わず話を続ける。

 僕が聞いたのは強制命令権(インペリウム)を使えるって所までだ。それ以外だとここじゃない世界から来たと言う事ぐらいか。


「それじゃあ、ほとんど何も聞いてないのと同じね。アルテア。紡に説明してあげてくれる? 私もヴァルハラから聞いた話が合っているから確認したいから」


 アルテアは頷くと僕に話そうとしていた話の続きを始める。


「先ほども少し話しましたが、私は王を決める戦いのためにこちらの世界に来ました。王を決める戦いとはレガリアをすべて集める事です」


 レガリアって確か王の象徴となる物だったはず。その象徴を九人が持っているって事なのだろうか。

 アルテアが手をこたつの上に出すと、淡い光が溢れた。暫くしてその光が消えると、アルテアの手には白い宝石が握られていた。


「これが私が持っているレガリアの一部です。九人がそれぞれこれと同じような物を持っているのです」


「へぇー。アルテアのレガリアは白いのね。ホワイトムーンストーンみたい。ヴァルハラが持っていたのは茶色で琥珀みたいなものだったわ」


「レガリアは元は王冠の装飾として付けられていた宝石なのです。その種類の違った宝石を各代表が持っているため同じ物を持っている者は居ません」


 なるほど。レガリアは一人一人違うのか。アルテアに了解を取って手に取ってみるが、宝石の価値など分からない僕には綺麗な石と言う以外の感想は出てこなかった。

 それよりも、アルテアの手からどうやってこのレガリアが出て来たのかの方が気になった。


「あれは魔法によって空間を作成し、そこに必要な物を入れて出し入れしているのです」


 アルテアにレガリアを返すと、再び淡い光が溢れ、光が収まると宝石はどこかに消えてしまっていた。不思議な光景だった。日本刀もその空間とやらから出し入れしているのだろうか。


「えぇ、私の武器の刀もそこに仕舞ってあります。手に持って移動する必要もないですし、何かあればすぐに対応できますから」


 便利なものだ。科学じゃなくて魔法と言う事だが、僕にも使えるようなら覚えてみたいものだ。


「どうでしょう。こちらの世界にも魔力はあるようなので使えるのかもしれませんが、魔法自体は覚えると言うより感覚で使うと言う感じですので今、使えてないと言う事は難しいかもしれません」


 なるほど、絵が上手いか、足が速いとか生まれ持ったものが必要と言う事か。僕には難しいな。

 そうだ! 魔法で思い出したが、先ほどの戦いでアルテアとヴァルハラが手からだしていたあれもやはり魔法なのだろうか。


「あれは簡単な魔法です。何の効力もない魔力の塊を放出しただけなので大したものではありません」


 僕からしてみたら十分大したものなのだが、魔法を使える人からしてみればそれほど難しい魔法じゃないと言う事か。


「エウルカ国は九つの種族が集まってできた国です。私は人間族の代表で、それぞれの代表が一人ずつこちらに来ているはずです」


「えっ!? アルテアって人間族の代表だったの? 私はてっきりヴァルハラが人間族なのかと思っていたわ」


 針生が割って入るが、アルテアは針生の考えを否定する。


「私が人族の代表なので、他に人間族が来ている事は有り得ません」


 二人は分かっているようだが、僕には他にはどんな種族が居るのか知らないため、あまり話についていけていない。


「人間である私の他には、ホムンクルス、アンドロイド、エルフ、ドワーフ、ヴァンパイア、ドラゴニュート、ライカンスロープ、ハーピーの種族が居ます」


 なんだそれ。テレビや本で聞いた事のある種族の名前ばかりだ。本当にこんな種族が居るのかと思うが、現状を考えると信じざるを得ない。


「ヴァルハラがどこの種族なのか分からないですが、エルフのように尖った耳や、ヴァンパイアのように長い犬歯があるとか分かりやすい種族ではないと思います。ライカンスロープやドラゴニュートだと普段は私たちと同じ見た目なので特定は難しいのです」


 今言った種族で仮面を着ける風習がある種族はあるのだろうか? 普段は着けていなくても風習として着ける可能性があれば当たりなのかもしれない。


「残念ですが、仮面を着ける風習がある種族も居ません。お祭りの時に着けたりする事はあってもヴァルハラのように日常的に着けている種族は居ないのです」


 ヴァルハラの事は一緒にいる針生にタイミングを見て聞いてもらう事にしよう。どこの種族だろうがあまり関係ないような気がするし。

 後、気になっていた事は……そうだ! 強制命令権(インペリウム)を使い切ってしまったらどうなるかだ。三回しか使えないのだから場合によっては使い切ってしまう事もあるだろう。そうなった時にどうなるのかが気になっていたのだ。


強制命令権(インペリウム)を使い切ったからと言って憑代(ハウンター)に何かある訳ではありません。使徒(アパスル)は魔力の供給を受けれなくなるので暫くするとこの世界から消えてしまいます」


 うむ。今の流れからすると使徒(アパスル)と言うのは僕たちと契約をした人たちの事を言うのか。やっと分かった。

 僕の方には何もないのは良い事なのだが、折角こっちの世界にまで来て強制命令権(インペリウム)を使い切ったら消えてしまうと言うのも忍びない。何とか再契約とかってできないのだろうか。


「同じ人物との再契約はできません。かと言って違う人なら誰でも良いわけではなく、私と波長の合う人間を探さないといけないのです。消えるまでと考えると新たに探し出すのはかなり難しいと思います」


 波長の合う人間か。アルテアは僕の他にどういう人間と波長が合うのか気になる所だ。あらかじめ波長の合う人間を探しておけばいざと言う時に困らないのではないだろうか。


「それはできません。私は人を探す能力があまりないためツムグ以外に波長の合う人を探す事はできないですし、そもそも波長の合う人は私の国にも一人いるかどうかなので、探し出すのはかなり難しいのです」


 なるほど。だから最初に会った時は山の中腹でどうしたら良いのか分からずに佇んでいたのか。


「最初は近くに転移されますので、あの場所に居れば憑代(ハウンター)が見つけられると思ったのです」


 いわゆるボーナス的な物なのだろうか。最初から遠くにしか波長の合う人がいなければ探しているだけで相手に倒されてしまう可能性がある。それを防ぐためって事なのだろう。

 それだったら特定できるまで分かるようにしてあげれば良いと思うのだが、そういう訳にはいかない理由が何かあるのだろう。

 後は何だろう……。そうだ。敵ってどうやって見つけるんだろう。歩き回って出会うのを待つしかないのだろうか。


「基本的にはそうなります。ですが、先ほどヴァルハラが近くに来た時に私が分かったように、ある程度近づく事で誰かが居ると分かる事があります」


 そうなると他の八人が近くにいるのを祈るばかりだ。これでアメリカとか他の国に転移されていたら探すだけで何年――いや、一生かかっても探し出せないかもしれない。


「そうはならないでしょう。元々この王を決める戦いは話し合いでは各種族の主張が違い過ぎて王が決まらないため、素早く王を決められるようにと考えられたシステムです。それなのに敵が近くに居ないとなると話し合いより時間が掛かってしまいます」


 へぇ。元々はそう言う理由だったんだ。国会を見ていれば日本人同士でさえ中々決まらないから、種族が違えばなおさらなのだろう。話し合いでは時間が掛かるから戦って決めてしまえって言うのは些か乱暴なような気がするが。

 僕が今聞いておきたかった事はこれぐらいだろう。後は何かあるたびに聞いていけば良いと思う。


「アルテアからの説明もこれぐらいかしら?」


「そうですね。私としても最初に話しておかなければいけないのはこれぐらいだと思います」


 色々話をしているだけで結構時間が経ってしまった。全員がコップの中を空にしているので、僕は立ち上がってもう一度紅茶を淹れ直してくる。

 みんな僕が淹れてきた紅茶に口を付けると、少し疲れが出て来ていたのか、暫く無言で紅茶を飲んでいた。


「アルテア。貴方は『ギフト』の事は何も知らないのかしら?」


「『ギフト』ですか?」」

「『ギフト』って何?」」


 僕とアルテアの声がハモりタイミングを同じくして顔を見合わせる。


「貴方たちの波長が合っているのは分かったから、そんなにアピールしなくても良いわよ」


 別にアピールをするために同じタイミングになった訳ではないが、完全にシンクロしてしまった。お互いに顔を見合わせると無性に恥ずかしくなってきた。


「コホン。『ギフト』と言う物は聞いた事がありません。それは何なのでしょうか?」


 アルテアは恥ずかしさを隠すためか咳ばらいを一つして答えた。そんなアルテアを針生はじっと見つめると口を開いた。


「やっぱり知らないのね。ヴァルハラだけが知らないのかと思ったのだけど、そういう訳じゃなかったのね」


 針生が両手を前に出して目を瞑り、精神を集中させ始めた。その様子にアルテアは素早く立ち上がり、手で僕をどかすように押し倒す。敷布団をはみ出し、思いっきり床に頭をぶつけた僕は悶絶する。


「いきなり何をしようとしているのですか! 戦うと言うなら表でやりましょう!」


 アルテアが声を上げた事で針生は目を開けると前に出した両手を振って戦う意思がないとアピールしている。それよりもアルテアさん。僕の安全を守ろうとしてくれたのは分かるけど、もう少し僕を優しく扱って欲しい。


「落ち着きなさいよ。何もしないわよ」


 何とか起き上がった僕は針生の言葉に続いてアルテアに落ち着くように説得する。不承不承と言った感じでこたつに座り直したアルテアは未だに警戒心を解いてないようだった。


「私が貰った『ギフト』を今から見せるわ。アルテアも見ててちょうだい」


 針生は再び目を瞑り、精神を集中し始めた。すると、針生の出した両手の前に何やらピンク色の壁のような物が浮かび上がった。その壁は半透明になっており、手をかざしている針生の姿がはっきりと見える。


「これが私がもらった『ギフト』よ。魔法での攻撃なら防ぐ事ができるわ」


「これは凄い! 綾那は魔法が使えたのですか?」


 先ほどまでの警戒心は何処へやらアルテアは針生が魔法を使った事に驚きの声を上げる。見た感じあまり頑丈な壁のようには見えないが、針生の説明によるとこれで魔法が防げるらしい。

 どう見ても針生の説明のように魔法が防げるようには見えない壁を触ってみようと手を伸ばす。すると、僕の伸ばした手は壁で止まる事はなく、針生の伸ばしていた手と掌が重なってしまった。


「ちょ、ちょっと! なんで急に私の手に触れてくるのよ! 気持ちの準備ってものがあるでしょ!」


 気持ちの準備? 慌てて針生が手を引くと、前にあった壁は消えてなくなった。何度も掌を擦り合わせ、手を洗う時のような仕草をするが、そこまで汚い物を触ったみたいにしないで欲しい。

 ただ、そんな手を擦り合わせている針生の耳が赤くなっているのは不思議だったが。


「い、今のが私がもらった『ギフト』よ。さっきのアルテアとヴァルハラとの戦いでも弾け飛んだ魔法を防いでいたわ」


「あ、あれは意図的ではなく、魔法を放ったらヴァルハラも魔法を撃って来てそれで、それで、綾那の方に飛んで行っただけです」


 今度はアルテアの方が耳が赤くなってしまっている。針生のいじりにアルテアも打ち解けてきたようだ。まあ、女の子同士だし仲良くやって欲しい。


「紡も契約した時に声がしたでしょ? その時から私は魔力障壁を使えるようになったわ」


 ん? 声? いや、聞かなかったな。思い返してみるが契約した時には頭痛しかしていない。もしかしたら聞き逃しただけかもしれないので、僕も針生と同じように両手を前に出して集中してみるが、壁のような物は一切現れない。


「う~ん。人によって貰える人と貰えない人がいるのかしら? 紡も『ギフト』を貰っているなら同じかどうか確認しようと思ったけど、これじゃあ無理ね」


 針生には魔法を防げる壁をプレゼントして、僕には頭痛のみとはこっちの世界の神様か、異世界の方の神様か知らないが随分と不公平な事をしてくれる。


「日頃の行いよ。梯子の下から人の下着を覗き見て、命令をしてまで袴を下ろさせてパンツを愛でるなんてセクハラ部長みたいな事をしているから貰えなかったのよ」


 うぉい! 間違っていない。間違っていないがその言い方は何とかならないのか? それでは僕が変態みたいじゃないか。


「貰えてないのはどうしようもないから諦めなさい。それじゃあそろそろ時間も遅いから私は帰ろうと思うけど、最後に――同盟を結びましょ」


 針生はそう言って手を伸ばしてきた。同盟か……。確かに仲間が居た方が何かと心強い。僕はこの申し出を受けても良いと思うのだがアルテアはどうだろう。アルテアが駄目だと言えば諦めてもらうしかない。

 アルテアの方を向いて目で確認を取ると、アルテアは無言で頷いてくれた。アルテアが同盟に賛成してくれるなら迷う事はない。僕も手を差し出し、針生と握手をする。


「それじゃあ、これで同盟成立ね。これからは強制命令権(インペリウム)をセクハラに使っちゃ駄目よ。戦う上での切り札になるんだから」


 馬鹿な事を。紳士である所の僕がセクハラなんかする訳がない。パンツを見たのはあくまでも強制命令権(インペリウム)を確認するためだ。


「はいはい。分かったからちゃんと自重するのよ」


 絶対に信じてないな。握手を終えると針生はこたつから立ち上がった。いつの間にかヴァルハラが後ろに立っており、針生が帰るのを察したようだ。


「私はこれで失礼するわ。まだ二人で話したい事もあるでしょうし、私もヴァルハラにもう少し確認したい事があるしね」


 僕とアルテアは玄関まで針生を見送ると、針生は手を振って夜の闇に消えて行った。



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