第8話 再来
前回までのあらすじ
光達は修行寺の第3門で2度目の挑戦を行おうとしていた。
寺から逃げ出したいエロ組{花地・転生しろー!(仮称)}の二人はそんな光を期待と不安の入り混じった眼差しで見つめていた。
再び第3門に立った光と黒シャツ達はお題’ペットボトル’で勝負を始めた。後ろで羽織やエロ組が心配そうに見守っている。
「承知しました。では拙僧の作は此方になります。」
物凄い勢いで筆を走らせた黒シャツの片割れ。
そのスケッチブックには握った指の形に成形された透明なペットボトルがまるで本物の様な光沢を持って描かれていた。驚くほど本物そっくりである。こいつユー〇チューブに製作動画を投稿した方が儲かるんじゃないのか?
しかし、デザイン自体は予想の範疇であった。
勝てる!今日こそは勝てるぞ‼ 光の心が躍った。
そして光は第2門からフワフワと浮きながら付いてきたジャッジマンを振り返ると指さし叫んだのである。
「よく見ていろジャッジマン!俺が生意気なだけじゃ無いって事を今から見せてやるっ!」
『その態度が既に生意気です。』
「ぐうっ、しかしメゲナイ!気にしない!反省しないっ!うおおお、魂の叫びを見ろー!」
そして光の出したデザインにジャッジマンは白旗を上げる。
『勝者、大変不本意ながら恒常的に糞生意気なガキ!』
流石は誇り高きジャッジマン、判定に私情を一切持ち込まないナイスジャッジである。
しかし光のスケッチブックを覗き込んだ羽織が不思議そうに呟いた。
「えっ?何処がOKなのか良く分からない。」
「ふふふふ、今説明するから聴いてくれ。」
◇
「...という訳でペットボトルを機能面でデザインした場合、使用するペット樹脂の量・箱詰めしたときの収容率、持った時の持ち安さに加え、型崩れしない強度という点が重要な訳であるが...」
もう説明するの止めようかな?だって皆立ったまま居眠りを始めたんだもの。
『しかし相変わらず機能面一辺倒のデザインばかりですねえ...これじゃあbに到達するのは難しいですよ?』
ジャッジマンの指摘も耳に痛かった。
因みに光のデザインしたペットボトルは底が通常よりコーン型になっていて、上部の角度も平たくしている。詰まり箱の中で多段に積んだ時に積み木の様に積み上げれる様にしただけである。
上部の強度不足と温度変化を吸収する空気層の設定がちょっと厳しくなるがその分包装材を薄くできるのではと思ってデザインした。まあ、既存でも収縮フィルムで巻いたペットボトルの束が4段、5段に詰まれて売られている事を考えればメリットは余り無いのかもしれないが...
しかしこれで1勝した。そしてあと1勝で昨日のリベンジ達成である。ここは踏ん張り処であったので、光は花地の権利を使って連戦する事を選んだ。
「それでは、次のお題は此方からで宜しいかな?」
「どうぞ。」
「では、デザインテーマは’愛’です。」
でっ出たー。遂に来た抽象的テーマだ。
これは不味い...。とっても拙い。抽象的テーマは光の中で弱点中の弱点であったのだ。
何せ国語がいつも1・2・1・2とどこぞの掛け声みたいな成績であった光にとって言葉の抽象性を論ずる事はウ〇ーリーを探すよりも困難であったからなのである。
「ぐっ愛、愛だと?俺にそんな物は必要ない!お手紙の返事がNOでもメゲナイ!気にしない!特に反省しないっ!そんな俺の書いた答えはこれだっ!」
振り向くと羽織とエロ組が可哀そうな目つきで光を見ていた。そっそんな目で俺を見るんじゃない。
『丸い...黒い球体ですね。どれどれ脚注を拝見。
ふむ、デザインとして認めます。では後攻の片どうぞ。』
「拙僧の愛は此方になります。」
「「「「げえっ!」」」
そこに描かれて居たのは鞭うたれ針の山を歩かされる亡者共。
『デザインとして認めます。では判定に移ります。』
「ちょっと待ったぁ!これの何処が愛のデザインなんだ?」
光は思わず突っ込んだ。
『ええと、特殊なご趣味を持つ方々向けの娯楽用具のデザインですね?』
えっ?ごめん、意味が分かんない。
羽織もきょとんとした目でジャッジマンを見ていた。
『ええ知らなくても大丈夫ですよ。
ふむふむ、足で踏む針の山は実は尖った部分が三俣に分かれていて先っぽは小さな球体になっているんですね?
痛みだけを与える機能性ですか?しかし万が一転倒した時の安全性は如何でしょうねぇ?えっデザイン性に工夫が?ふむふむ、針の表面は虹色の加工を...。しかし其れで使用者が興奮しますかねえ?』
「大丈夫です。住職で実験済ですから。」
何なんだこの会話は...
◇
10分程あーだこーだ議論が続いた後に判定が下った。
『勝者、辛うじて生意気なガキ!』
(つづく)
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