恋の悪戯
私は女の人と付き合っている。まぁ、元からおかしいということは自分でもわかっていた。でも彼女に告白されてから私の生活は変わった。毎日幸せで楽しくて私は彼女に変えられてしまった。そんなとき彼女から突然聞かされたのは別れの宣告だった
『ごめん、別れよ……』
『え……なんで?』
突然の一言に私は驚きと苦しみを隠せなかった。
『やっぱりこういうのって変だと思うの。お互い普通に戻ろ?』
『だって……先輩が私を変えたんですよ?初めは普通だったのに先輩が私をこうしたんですよ!?今になって戻れるわけないじゃないですか!!』
『ごめんね。私、好きな人が出来たの。』
『っつ!?』
まるでガラスが割れたように2人の思い出が崩れ去っていく。彼女の目は真剣だった。
『もういいです……。先輩なんか大嫌いです。』
『あっ……』
先輩はきっと私を呼び止めようとしただろう。だが止めたということはそれほどその人が大事なのだろう。こうして私の恋は幕を閉じた。
ーー
「奈緒!」
「へ?」
急に大声を出されて思わず変な声が出た。見回すとそこは教室だった。そうか、変な夢を見てしまった。もう一年前のことなのに……。
「どうしたの?」
「ううん。なんでもないよ。」
高校3年生になっても私はあのころのことを思い出す度に悲しい気持ちになっていた。
「次移動教室だよ。」
「うん。ねぇ友香」
「んー?」
「……友香はさ……」
「なに?」
頬を真っ赤にしている友香。何かあったのだろうか?
「やっぱりなんでもない。」
「なによー。気になるじゃん!」
「また今度話すね。」
「約束よー?」
そういうと逃げていった。友香とは長い付き合いだがあんな顔みたことがない。まるで恋する乙女みたいな。
「好きな人でもできたのかなぁ?」
ーー
「ただいまぁ。」
家のドアを開けると靴が1足多かった。お客さんかな?にしてもこの靴……どこか見覚えがあるなぁ……気のせいか。
「おかえり。あなたも一応挨拶しておいたら?」
「挨拶?」
母からそう言われて部屋に入ると兄と一人の女性が座っていた。それもどこか懐かしい感じがした女の人だ。
「紹介するよ。俺の彼女の……」
彼女の……からの言葉が全く聞こえなくなった。それほど驚いたのだ。なぜならそこに居たのは昔付き合っていた先輩だったのだ。
ーー
「どうしたの?」
母が心配そうに見つめてきた。
「こんにちは。」
「……奈緒?」
彼女は私の名前を呼んできた。久しぶりに聞いた私の名前を呼ぶ声。昔はそれを聞いただけで嬉しかった。でも、今呼ばれた時なんとも思わなくなっていた。あぁ、もうあの時の気持ちはなくなってしまったんだと改めて思い知らされる。
「あら?奈緒、お知り合いなの?」
「……人違いじゃないですか?」
「ちょっ……奈緒!」
「ごゆっくりしていってください。」
先輩の言葉も聞かずペコッと一礼して自分の部屋に行った。
「あっ!こら奈緒!ごめんなさい……彼女のお知り合いかしら?」
「あ……はい。」
「そう、あの子あんまり人と話さないから彼女と仲良くしてあげてね。」
「はい。」
ーー
「なんで……なんで。」
どうして私のお兄さんが?好きな人が出来たっていうのは兄さんのことだったの?私はお兄さんより魅力がなかったの?どうしてあの時私を……
そんな考えが頭から離れず頭がおかしくなりそうだった。
「奈緒?」
「……」
「私、和佳奈だよ?覚えてない?」
「……。」
「まさか、良太さんの妹が奈緒だと思わなくて……」
「その呼び方やめて貰えますか?」
「……え?」
「私を呼ばないでくださいってことです。」
「……あの時のこと怒ってる?」
「……!!もう話しかけないでください……」
「ごめんね。」
そう言うと足音が遠くなる音がした。きっとリビングに戻ったのだろう。全ての記憶がフラッシュバックして名前を呼ばれる度に嫌になる。もう呼んで欲しくない……せっかくのいい思い出がめちゃくちゃになってしまうから。
ーー
「どうだった?」
「いえ、ダメでした。」
「ごめんなさいね。余計なことしちゃったみたい……」
「いえ、お義母さんはわるくありません。元々私が悪かったんです。」
「あの子と何かあったの?」
「はい……何とは言えないんですけど……」
「そう……。まぁ、いいわ。」
「じゃあこれで失礼します。」
「また来てね。」
「はい。ぜひ!」
「ちゃんと送ってくのよ。」
「わーってるって!!」
「あっ最後に。……奈緒!」
「……」ビクッ!
「私、あなたと仲良くなりたい!私諦めないから!!」
「ふふっ。」
「失礼します!」
ーー
また足音が聞こえてきた。
「もう帰ったわよ。」
「……そう。」
「和佳奈ちゃん……だっけ?いい子じゃない?」
「そうだね。」
「まぁ、あなた達の事情はわからないけど。仲良くしてあげてね。」
「……。」
仲良く出来るわけないじゃん。初恋の女の子になんて……。