プロローグ
さて、物語が始まる前に、軽い自己紹介をしようか。
俺の名前は、勝頼 倫太郎という。
まぁ、フルネームは覚えなくても構わない。
上か下の名前のどちらかだけで……。
どうせ、俺の事をフルネームで呼ぶ人間はきっと……登場しないだろうから。
俺はどこにでも居るであろう、普通の……アニメや漫画、ラノベが大好きな男子高校生だ。
……もし、普通と違うところがあるとしたら、思考回路と影の薄さ位だろう。
思考回路は、この物語を読み進めてくれるうちに、分かると思うので、影の薄さについて話していこう。
どのくらい影が薄いか……一例を挙げるとしよう。
あれは、中学の時のことだった。
その時の俺はたまたま……運良く、教卓のド真ん前、授業中の内職など出来ないくらい、先生との距離が近い席だった。
朝のホームルームの時間、担任の先生が出席確認をしていたのだが……。
出席確認中に俺の名前が呼ばれることは無く、全員の出席を確認した後に……
「倫太郎は休みか?……それともトイレか?」
と、担任は他の人に聞くように、俺に俺の事を尋ねてきた。
……念のために言っておくけれど、担任の先生は俺をいじめていた訳じゃない。
純粋に……俺の事を認識していなかったのだ。
また、同じく中学の時、友人の一人に…。
「お前、キャラは豚骨より濃いのに、影はお冷くらい薄いよ」
と言われた。
……もう一度言っておくけれど、いじめられていたわけじゃない。
あとは……よく自動ドアに挟まれるかな。
さて、他には……もっと俺の特徴を話そうか。
……三つくらいでいいかな?
一つ目は、目付きがとても悪いこと。
これは、親譲りとかではなく、ただ単に俺の目が悪く目を凝らしてものを見る癖がついているせいだ。
親曰く、目をカッと開ければ、若干イケメンになるらしいが……まぁ、親の言うことだ。
……あまり信用しなくてもいいだろう。
もちろん、眼鏡をかけている。
二つ目は、人見知りが激しい。
人と会話する時、目を見ないのはデフォルトとして、学校で何か物を渡さなければいけない時でさえ、
会話をすることなく無言で机の上にそっと、置いていく始末だ。
自分としては、早く直したいものだけれど……難しい。
三つ目は、目が死んでいること。
周りの人曰く、俺の目は、
『腐乱した魚の目』
『鯉すら住まないドブ川の方がまだ綺麗』
『一周まわって、綺麗……ナマコの内臓みたいな感じ?』
らしい……自分では分からないけど。
もう一度言おう、俺はいじめられていたわけじゃない。
あぁ、話が脱線して言うのが遅れたけれど、今日は高校の入学式から一日が経過している。
先程の自己紹介の時、男子高校生だ、と言ったが正確には、男子高校生になって二日目の男子高校生だ。
一応、中学では、成績は1桁台にいたため、街でも有名な進学校に余裕で合格することが出来た。
もちろん、自慢だ……まだ、自分でも合格することが出来たのが信じられないけどね。
さて、まずは中学時代のように、必要以上に周りに警戒されないようにしよう。
バラ色の青春……とは、絶対にいかないだろうけれども、灰色の青春よりかは、色を付けたいものだ。
クラスでの最初の活動は、自己紹介だった。
出席番号は少し遅めの九番……ゆっくり自己紹介で何を言うか考えられるな。
自己紹介の大体の流れのようなものが、黒板に書かれている。
少し黒板が遠いため、目を凝らして見る。
『名前・所属していた部活・好きな食べ物・なにか一言』
以上の四つが、少し雑に書かれていた。
なるほどね……ここは無難にいこう。
変にネタに走ってすべってしまうと、あとが大変だからね。
自己紹介の順番が回ってくるまで、頭の中で自己紹介で言うことを反復した。
噛まないように、詰まってしまわないように……。
「自己紹介ありがとう……高校でも同じ部活に入るのなら頑張ってくれよ。
さて、次は………勝頼くんか。
自己紹介お願いします」
俺の自己紹介の番がやっと回ってきた。
やっぱり、最初は面白い方がよいのだろうか……その方が親しみやすいだろうし。
いや、やめておこう。
ここは手堅くいくのがベストだ。
「は、はい!」
文章では分かりにくいだろうが、思い切り声が裏返ってしまった。
少し、周りから笑われてしまった。
……たったそれだけの事だが、俺の顔は沸騰したように熱くなり、頭は真っ白になってしまった。
「……僕の名前は勝瀬倫太郎です。
好きな食べ物は焼き鳥、枝豆、スルメ、サバの味噌煮……などです。
昔から何かと、昭和臭いと言われていますが、チャキチャキの平成っ子です。
目つきが悪く、睨んでいるように見えると思いますが、それは目が悪いことが理由です。
気にしないでください。
あ……あと、人見知りが激しいため不機嫌そうに見える時があると思いますが、噛み付いたりしないので、安心してください!
今年一年、よ…よろしくお願いします!」
笑ってくれた人もいたけれど、何故か教室は変な雰囲気に包まれた。
俺の枕は、その夜、塩の匂いだった。
自慢じゃないが、俺のメンタルは木綿豆腐より柔らかい。
……絹ごし豆腐よりかは、硬い自信がある。
つまり絹ごし以上、木綿未満の、豆腐メンタルということだ。
……本当に自慢にもならない。
こうして、無事に俺はクラスで、少し変な人認定されることとなった。
「おはよー倫ちゃん……眠たいの?」
「あ……お、おはよう。いや、眠たくは…ない」
忌まわしきあの日から半年そこそこ経ち、やっと学校にも慣れてきた。
今日は夏休みの補習だ。
この学校では補習は強制だ。
しかも、夏休みが終わるまで延々と補習だ。
実質、俺たちの夏休みはもう終わったようなものだ。
ちなみに、この学校は中高一貫校の進学校で、小学校の時の友人も多少いる。
中学から一緒に来た友人は、両手を使えば足りるくらいだ。
先程挨拶してきてくれたのは、
中学からの親友の青木駿だ。
コイツは、少し残念な、雰囲気的なイケメンである。
キリッとした眉毛と、角刈り頭が特徴的だ。
角刈り、これがイケメンを台無しにしている原因だと思われる。
背丈は、俺よりもはるかに高い185センチ以上。
瞳は俺と逆で……キラッキラと輝いている、とにかく輝いている。
趣味は筋トレで、よく俺も一緒にしようと誘われる。
また、見た目通りよく食べて、食事を一緒にした時、コイツだけ値段が遥かに違かった。
そのほかにも何人かの知り合いがこのクラスにはいるが……まだ来てはいないようだ。
補習が始まるまで、コイツと話していよう。
半年過ごしたこのクラスへの印象は、優しい良い人たちのクラスだ。
どのくらい優しいかって?
俺みたいな人見知りクソ陰キャにも、差別なく話しかけてきてくれる……そんな人たちが多い。
悲しいことだけれど、未だに人見知りは直っていない。
さて、普通の……とは言い難いかもしれないが、日常はある日突然、ガラリと変わってしまった。
きっかけは、数学の補習中に起きた。
少し古いネタを言いそうになったけれど、やめておこう。
……事件は、会議室じゃなくて、教室で起きたんだ!!!
スルーしてくれて構わない。言いたかっただけだ。
補修の担当は、メガネが意外とおしゃれな40代後半……の坂部先生だ。
坂部先生は、独特の言語を使う先生で、
“ラ○ホー使いの坂部”
として、日々生徒たちに恐れられている。
人によってはスリ○ルといった方がわかりやすいか?
まぁ、一言で言うなら、どの学校に一人はいる睡眠授業の先生である。
話していることは、聞き取ることが出来たら面白いのだけど……聞き取ることが出来たらね。
授業が始まって15分、坂部先生が黒板消しを地面に落としたその時だった。
まるで坂部先生が出したように突然地面に魔法陣が!
地面にある魔法陣の光は、カメラのフラッシュくらいまぶしい。
……グラサンが欲しい。目がシパシパする。
坂部先生のパーフェクト睡眠授業で、半分夢の世界の住人へとなりかけていたクラスの人たちは、
魔法陣の光により、現実世界に戻ることが出来た。
俺も、夢の世界で永住しようかと考えていたところだったから、戻ることが出来て良かった。
覚醒した頭で周りを見ると、クラスはまさに阿鼻叫喚だった。
驚きのあまり気絶する女子……いや、気絶しているんじゃなくて、寝ただけだ。
大物になるな……あの人…名前忘れたけど。
俺も含め、オタクの面々は、これから何が起こるかを分かっているように、ニヤニヤと笑っている。
ヤバーイと言いながら、自撮りをする女の子たちもいた。
逆光だが、きちんと撮れているのか?
写真には詳しくないから、分からんけど……楽しそうだな。
坂部先生は、あいも変わらず授業をしている。
バカなのか?それとも肝が据わっているのか?
ふと、耳をすませば、他のクラスでも叫び声が聞こえる。
もしかして、他のクラスでも同じようなことが起きているのか?
分からない……外に出て確認したい……。
さらに、魔法陣の光は強くなり、いよいよ目を開けていられなくなった。
きっと、次、目を開けたら異世界にいるのだろう。
ケモ耳っ娘や、エルフよ……待っていろよ!
楽しい冒険になるといいな……。
色々と考えているうちに、俺の意識は途切れてしまった。
……意識が途絶えるほんの一瞬、身体に少し痛みが走ったような気もするが……気の所為だろう。
きっと、机に手でもぶつけたんだろう。
ふと、思い出したけれど、今日はずっと楽しみに待っていたゲームの発売日だ。
……あと、これ爆発オチとかじゃない……よね?
1〜3日後に更新します。