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雨が止むまで

作者: 業野一生

ひたすら雨ばかり降っていた。台風が近づいているらしくニュースでは注意喚起がひっきりなしに行われている。家にいることが多い自分には関係ないことだ。男はそう思って寝転がっていた。不意に思いたったのか窓に近づき、カーテンを広げ外を見渡した。さんに埃や汚れが溜まっていて、非常に汚い。週一で掃除はしているが此方の掃除までに手が回していないのが理由だろう。

(通り過ぎたらこの辺も掃除しないとか・・・・)

そう思いながら見渡した外は、非常に雲が多く暗くなっていた。まだ雨は降ってないか?と男は思って窓の真下を眺めると傘をさして歩く通行人がちらほら見受けられる。小雨はパラついているようだ。

「よう?お暇?」

唐突に男の背の後ろから声がかけられる。窓に反射した部屋の様子にも何も映らない。驚いた男は後ろを見た。すると異様な姿をした、人型の存在が後ろにいた。幻聴?幻覚?男は不意にその存在の頭部をなでてみる。

「いきなり何をするんだ!!」

と異形の奴は怒り出した。男がこうするのも何分そこまで異形の奴が大きくないからである。姿形は凶悪なのだがその異形は男性の背丈165㎝よりも幅も小さく迫力に欠けたのだ。しかも男の唐突な頭なでに対してもさして攻撃してくることもない。

 すまなかったと男は異形の存在に謝罪する。男はそんな異形に何者であるかを尋ねた。

「ボクは魔物だ。魔王様の命令で次に侵略する世界の偵察に来たのだ。」

そういって異形の魔物は男から距離を取って武器であろう長い得物で男を威嚇した。しかし何故か足を震えさせている。武者震いか分からないがとりあえず座らないか?と男は魔物に提案した。

「ああ、そうだな座る」

魔物はカーペットの下に腰を掛ける。なにか疲れていそうだし男は冷蔵庫に向かい自身の好みで買っている無糖紅茶をコップに注いで魔物に渡した。

「あ・・・ありがとう」

魔物は律義に礼をした。魔物が一息ついた後で、男はなぜ自分を狙ったのか聞くことにした。

「ボクの任務はこの世界に潜入し、侵略をするための情報を入手する事だ。手当たり次第に潜入している。貴様は狙いやすいから本来の姿で入り込み、そのまま脅しをかけたのだ」

ではその姿以外にもなれるのか?と男は魔物に問いかける。すると魔物は勿論と答えた。そしていきなり立ち上がると魔物の姿が光り出し急に変化していく。するとどういう事だろう。魔物は背丈はそのままで可愛い女の子に変貌した。

「この姿なら流石に驚くだろう。ひれ伏せ人間」

やたら高圧的に魔物だった女の子は言うが、男にとってはただのご褒美だった。先ほど彼女にやったように再び頭をなでるのだった。

「だ、だからそれはやめてくれ」

魔物だった少女はやや涙を浮かべてこう言った。流石に可哀そうに感じた男はなでるのをやめて、その姿を見せたのはここでだけなのか聞いて見た。

「ちがう!基本的にこの姿で潜入した。穏便に潜入したかったからインターホンというのをしっかり押したのだぞ。だけどそのまま追い出されるのが大半で、老人を狙っても貴様の様な対応をしてくるばかりだ。」

そりゃあ孫に近い年齢の子どもが来たとおもってそうなるだろう、と男は思った。

「貴様に関してはそのまま生け捕りにしてサンプルにするつもりだったから本来の姿を見せてやったというのに・・・・・この体たらく。これでは魔王様に顔向けできない」

顔どころか背も向けられないだろう。この短期間で男の様な人間ですら把握できるほどの情報を垂れ流しているのだ。正直、ポンコツとしか言えない。

「もういい。次を探す!」

少女はそう言って外に出ようとした。男は俺をサンプルで持ち帰らないのか?と聞いた。

「無論持ち帰るが、まだ情報を集めきっていない。そのあとで連れて行ってやるから覚悟しろ」

そう彼女が言ったのもつかの間。いきなり部屋の中でも分かるくらいの轟音と雨の音が響く。どうやら雷雨になり始めたらしい。勢いは暫く収まりそうにない。

「・・・・・・・」

無言になった彼女に男は雨が止むまでここにいたらと言った。少女はしばらく黙っていたが程なくして少し顔を赤くしながらうんと頷くのだった。


 その後は特に何もなかった。買いだめしていたカップ麺を少女にも渡して食べ、TVを視聴したりマンガ貸したり、風呂は別々だが少女に一応貸した。男は少女の後に入って何となく変態的余韻に浸った事だろう。しかし男は楽しかった。誰かいるという事が親から自立して以降ロクになかったからだ。男がヲタクというのもあるだろう。20代の頃は其れでもなんとかなった。30過ぎたくらいから急に寂しさを感じ始めたのだ。でもそれとも向き合って行かなきゃならない。ヲタクが急に声優とかをそういう目線で見てしまうのもその部分が大きいだろう。そういう商売だとは思っても内心自身の弱みに付け込むような情勢に苦しみ脱却したいと男は感じていた。そう思っていた中で魔物ないし少女が現れたのだ。

 だが翌朝に少女は消えていた。サンプルにするという話は嘘だったのだろうか。水道台には一応洗浄し捨てる予定のカップ麺のカップ二つと綺麗に畳まれた布団が座敷にひかれているだけだった・・・・。

 

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