第五話『第三回異世界会議 in 街』
山田ヒロシ 20歳 普通の男子大学生 特徴のない黒髪と、特徴のない顔と、特徴のない性格が特徴。一人称は「俺」。好きなおにぎりの具は梅干し。
伊藤マナブ 20歳 茶髪のメガネでヒロシの同級生。広く浅く、いかにも最近のオタクって感じのメガネ。一人称は「オレ」。好きなおにぎりの具はカエデの手の汗に含まれる塩分。
西寺リキヤ 20歳 ハゲの細マッチョでヒロシの同級生。趣味は筋トレで、実家が寺なハゲ。一人称は「おれ」。寺の息子なのにパン派。
扉を抜けると、そこには…。
『はいは~~い! 鹿肉安いよ~鹿肉!!』
『リンゴ! 甘い甘いリンゴだよ~!!』
『靴磨きいかがっすか~!』
「「「え……?」」」
青と金の大きな扉を抜け、ゴブさんと別れた俺たちは、
その次の瞬間には、
人々で賑わう市場の近く、完全なる街中に出ていた。
後を振り向くと、そこには本来あるはずの岩肌は無く、
古くて立派なお屋敷が、どっしりと存在していた。
「うっそ~ん…」
アホな顔をした茶髪メガネ、伊藤マナブが後ろを振り返りながら、口をあんぐりと開ける。
「えっ!? あれ? あっるぇ~~?」
アホアホな顔をした下着ハゲ、西寺リキヤは思わず屋敷のドアを開け、中を覗き込んでいた。
俺も一緒に覗き込む、が
「普通のお屋敷…だな」
その屋敷の中は、誰にも使われて居ないのか、少しばかりほこりっぽいが、しかし基本的には何の変哲もない屋敷の中と言った様子だった。
当然、洞窟もゴブさんも見当たらない。
これは…
「魔法の扉ってやつか?」
俺の言葉に、マナブとリキヤが愕然とした表情でコチラを見る。
それもそのはずだ。
俺たちはてっきり、あの扉は洞窟の外につながっていて、そこからしばらく歩くものだとばかり思っていた。
まさかこの短期間で、2度もワープのようなことを体験するとは。
「え…それじゃあよ、ゴブさんにはどうやって会いに行けばいいんだ…?」
言われてみればそうだ。
すでにあの扉は消え去り、もはやどこからあの森に帰れるのか、見当もつかない。
彼とは再開の約束をしたのだが、これでは会いようがない。
「うーむ。それは分からんが、とにかくここを離れたほうがいいかもしれんぞ」
マナブがメガネをクイッとしながらそんな事を言う。
『おいおい…勇者様のお屋敷の中を覗き込んでるぞ。なんだアイツら…』
『っていうかあのハゲ頭。あの格好ヤバくないか…?』
『ああ、確実にヘンタイだ…。ヘンタイの盗人だ…!』
あ~…。
言葉は分からんが、なんとなく状況が理解できた。
これは…マズイな?
そうこうしている間にも、続々と人が集まってきている。
うん、こういう時は…
「逃げるぞッ!!」
「「応ッ!!」」
俺たちは一目散にその場から逃げ出した。
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「はぁ…! はぁ…! ここまで来れば大丈夫だろう」
マナブがそう言いながら座り込む。
あの後、俺たちは群衆から逃げる様に走り出し、街中を適当にあちこちと走り回った後、人目の少ない路地裏へと逃げ込んだのだ。
間一髪である。
あのままあそこに居たらどうなったか分からん。
というか、確実に俺の隣で座りこんでるハゲが原因だ。
「いやぁ参った参った! まさかゴブリンと仲良く会話して、人間からは逃げることになるなんてな!! ははは!」
原因のハゲは楽しそうに笑っている。
コイツはずっと陸上部だったから足腰は俺とマナブより確実に強いのだ。
なんでコイツが原因なのにコイツが一番ケロッとしてるんだ。
まあでも、今はそんな事言ってる場合じゃないか。
「ふぅ…。とりあえずさ、夜になるまでにやること決めようぜ」
俺の提案に2人が頷き、ここに『第三回 異世界会議』が開催された。
「よし! じゃあ今回も司会進行はワタクシ、伊藤マナブが務めさせていただこう!」
「異議な~し」
リキヤの言葉に俺も頷く。
地面には最早恒例となった『第三回 異世界会議』の文字。
ペンは相変わらずそこら辺に落ちてた枝である。
「よろしい。それじゃあまず現状の把握だ。オレたちは異世界に飛ばされ、なんだかんだで街まで到達した。しかしここで問題発生だ。お前らも聞いたと思うが、この世界の言葉はやっぱり俺たちのモノとは違うらしい。これが一つ目の問題だ」
マナブの言葉に俺とリキヤが頷く。
そう、言語が分からない。
想定してはいたが、これはやはり致命的だ。
なんせこれじゃあ本当に何もできん。
「そして二つ目の問題。俺たちはこの世界において、完全な無一文だ。これは非常~~にマズイ。なんせこの街の治安が分からん。路地裏で寝たりしたら本気で殺されちまうかもしれん。なんとかして安宿でもいいから安全に眠れる場所を確保したい」
俺とリキヤが再び頷く。
そう、金がない。
これは単純にかなりマズイ。
金が無ければ宿にも泊まれないし、食べ物も飲み物も買えない。
深刻な問題だ。
「そして3つ目の問題。そこのハゲの格好だ。正直これが一番マズイ。コイツのせいで俺たちはまともに街を歩くことすらできん。街を歩けないんじゃあ宿の取りようもないし、金の稼ぎようもない。どうしてくれんだハゲ」
「オレはハゲじゃねえ! ハゲじゃねえが、すまねえ…」
流石のリキヤも責任を感じているようだ。
まあ当然だろう。
しかし、状況は思った以上にやっかいである。
なぜなら
「リキヤの服を買うには金が必要、金を稼ぐには最低でも言語が必要、言語を覚えるには時間が必要、時間が必要なら宿も必要、宿をとるにはやっぱり金が必要。まあ言うなれば、今の状況は…『詰み』だ」
そう、マナブの言うとおりだ。
結局は『金』と『言語』。
このどちらかを一瞬でなんとかできなければ、俺たちに未来はない。
であれば…
「良いか?」
「よし、ヒロシくん発言を許可します!」
「おう、今の状況ってのは、要するに『金』か『言語』、最低でもこのどちらかを早急になんとかしないとイケナイわけだよな? そんな事は本来無理だからこその『詰み』なんだろうけど、それを何とかしないと俺たちに未来はない…と」
「そうだな。『早急に』って言っても、具体的には夜になるまでに、だ」
「夜になるまで…か。後何時間くらいあるんだろうな」
「そうだな、太陽とオレの感覚からでいいなら、今の時間は大体午後3時くらいじゃないか? この世界の太陽が何時に沈むかは知らんが、日本と同じなら長くてあと4時間ってとこだろう」
「4時間で言語は…絶対に無理だよな?」
「ああ、絶対に無理だ」
「なら、もう金しかないよな」
「……そうなるな」
「よし、じゃあ今から考えることは『どうやって言語を使わずに、尚且つ4時間以内に、俺たち3人が一晩宿に泊まれるだけの金を稼ぐか』だ。それでいいな?」
「「異議なし!」」
そう言うと、マナブは地面に文字を書き足す。
地面には『議題:4時間で言語を使わずに金稼ぎ』と書き込まれた。
「じゃあ俺の発言はとりあえずここまでだ。議長に返すぜ」
「おう、それじゃあ改めて、金稼ぎの方法について何か提案が思いついたら挙手!」
「「「む~~~……。」」」
しばらくの間、無言が続く。
下手したら命に関わる問題とだけあって、さすがの俺たちも今回は真面目だ。
それにしても、どうしたもんか…。
言語を使わずに金を稼ぐなんて、どう考えても不可能に思える。
と、その時。
「あの…提案ってほどじゃあ無いんだが、一個いいか?」
特に真剣な顔をしていたリキヤが、おずおずと口を開いた。
「よろしい。リキヤくん、発言を許可する」
「えっとな? 本当に大した意見じゃないんだけどよ、お前らの『スマホ』…なんとか使えねえか? 別に具体的な方法を思い付いた訳じゃねえんだけど…」
「「スマホ!!!」」
俺とマナブは思わず叫ぶ。
そう言えばそうだった。
異世界なんてところに来たせいで、普段なら真っ先に頼るモノの存在を完全に忘れてしまっていた。
そうか。スマホか。
たしかにコレは使える。
ゴブさんから聞いた感じ、どうもこの世界は『科学』に関してはあまり発展していない様だった。
つまり、俺達のスマホは一種の『チートアイテム』だ。
いやあ、特別な力を何も持っていないと思い込んでいたが、意外と身近なところにチートアイテムがあったって訳だ。
「でかしたぞリキヤ!! 下着の件はこれで帳消しにしてやろう!」
マナブの嬉しそうな声に、俺も笑顔で頷く。
「へへっ…! そしたらよ! 後はスマホ使って金稼ぐ方法考えるだけだな!」
リキヤが嬉しそうに鼻の下をこすりながらそう言う。
そう、再び議題変更である。
地面には『議題:スマホで金を稼ぐ方法』と書き込まれた。
「よし! じゃあ再びのシンキングタイムだ。スマホが『チートアイテム』にあたる異世界において、どうやってスマホを使って金を稼ぐか、提案を思いついたら挙手な!」
うーん、とりあえず一個は思いつくが、これは下策だしなあ…。
まあ一応発言しておくか。
「いいか?」
「よろしい。ヒロシくん、発言を許可する」
「まず前提として、この案は他に本当に何も思いつかなかった時のための最終案な? え~、単純に、俺かマナブどっちかのスマホを売っちまう。これだ」
「なるほどな。たしかにそれが一番単純だが、確実な案だ。言語を使えないオレたちはほぼ確実にボッタクられるが、それでも『チートアイテム』だ。オレらが一晩安宿に泊まれるだけの資金には確実になるだろう。スマホを1つ失っても、手元に1つ残るってのも重要なポイントだ。スマホ一台は最悪いつでも売れる。これはデカイな」
「ああ、でもこれは本当に最終手段ってことにしような」
「そうだな。よしそれじゃあ再びシンキングタイム!」
地面に『最終手段:スマホを一台売る』と書き加えられ、再びしばらくの間沈黙が流れる。
スマホを使って金を稼ぐ方法。
動画や写真を撮ることはできるが、それを現物にする方法は無い。
つまりそれらを商品にすることはできない。
む~。
「あっ…!」
マナブが声をあげた。
まさか、何か思いついたのか?
オレとリキヤの視線がマナブに集中する。
「思いついちまったぜ…究極の金稼ぎ方法をよぉ…!」
マナブはメガネをギラギラと輝かせながら、そう豪語する。
すげえ気になる。
「聞きたいか…?」
こいつは…。
「「キキタイデス。オシエテクダサイ」」
俺とリキヤの声が見事にシンクロする。
しかし、そんな適当な声色にもマナブは満足そうだ。
「よろしい! ならば教えてやろう! ズバリ!『ゲーセン』だ!!!」
「「ゲーセン…?」」
またしても俺とリキヤの声がシンクロする。
ゲーセンって『ゲームセンター』のことか…?
意味が分からん。
そんな俺とリキヤの視線に、しかしマナブは嬉しそうに言葉を続ける。
「そう、『ゲームセンター』だよ! ヒロシ、お前のスマホにも入ってただろ? テ◯リスとかイ◯ベーダーとかブロック崩しみたいな、単純操作の古き良きゲーム達が! それをさ、異世界人達に有料で遊ばせるんだよ! それこそ昭和のゲーセンみたいに!」
「「天才かよ!!!」」
もはや俺とリキヤのシンクロ率は、双子を疑われるレベルに達していた。
かくして、俺達の『異世界でスマホを使ったゲーセン計画』が幕を開けたのだった。
最後まで読んでくださった方、本当にありがとうございます。
さて、また会議でした。
ごめんなさいコイツら全然動きません。
なんかホントずっと会議してますね。
次回は少し盛り上がるはずなので、どうぞよろしくおねがいします。
評価や感想、ブックマーク等、現段階でまだ全て0件なので、本当に切実にお待ちしております。
もちろん読んでいただけるだけでも十二分に嬉しいです。
それでは、第6話もよろしくお願いします。




