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第四話『初めての友達』

山田ヒロシ 20歳 普通の男子大学生 特徴のない黒髪と、特徴のない顔と、特徴のない性格が特徴。一人称は「俺」。好きなゲームはド◯クエ8。


伊藤マナブ 20歳 茶髪のメガネでヒロシの同級生。広く浅く、いかにも最近のオタクって感じのメガネ。一人称は「オレ」。好きなゲームはフェイトグ◯ンドオーダー。


西寺リキヤ 20歳 ハゲの細マッチョでヒロシの同級生。趣味は筋トレで、実家が寺なハゲ。一人称は「おれ」。好きなゲームは閃乱カ◯ラ。


ゴブリンさん ??歳 異世界人であるヒロシ達の言葉を理解し、彼らを助ける心優しき男前ゴブリン。腰にボロ布を巻いただけの、いかにもな下っ端装備のゴブリン。



「へ~~! マジっすかゴブさん!!」


「ゴブゴブッ!」


穏やかな昼下がりの森の中。

元気な男子大学生の声と、ソレに応えるようなゴブリンの声が響く。


驚きの声を挙げたのはハゲ、答えたのは「ゴブさん」ことゴブリンだ。


歩きはじめてそろそろ2時間。

その道中は、笑い声の絶えない楽しいものだった。


ゴブリンさんは予想外に物知りだったのだ。


俺たちはゴブリンさんの言葉を理解できない。

なので、質問はYESかNOで答えられるモノに限られる。

しかし、それでも得られた情報量は凄まじいものだった。


その中でも有益な情報を幾つか挙げるならば、


Q. 俺たちがなんで、どうやってここに来たのか分かるか。

A. NO


Q. この世界に魔法はあるのか。

A. YES


Q. スキルシステムみたいなモノはあるのか。

A. NO


Q. ゴブリン以外にも魔物的なのは居るのか。例えばドラゴンとか。

A. YES


Q. 魔王は居るのか。

A. (しばらく考えてから)NO.


Q. 勇者は居るのか。

A. YES


Q. エルフは存在するのか。

A. YES


この辺りだろうか。

コレ以外にも色々と質問としたが、YESかNOで明確に答えられる質問というのは、意外なほどに少ないものだった。

しかし、


魔法が存在するのだ。


ドラゴンが存在するのだ。


エルフも存在するのだ。


そして、俺たちは毎日のように勇者ごっこをやっていた様な、暇な男子大学生なのだ。


興奮しない訳がない。


「俺たちにも魔法は使えるのか?」という質問には、何やら難しげな顔をしてゴブゴブ言っていたのでよく分からないが、「使えない」とは言われていないのだ。

「使えない」でないなら、最低でも「使えるかもしれない」なのだ。


当然、俺たちのテンションは天元突破の有頂天である。


あ、それともう一つ。

どうやらゴブさんは、この森に1人で暮らしているらしい。

そもそも、この森には彼以外の魔物が存在しないらしい。


完全に下っ端ゴブリンな見た目の彼が、意外にもこの森の王者だったのだ。


普段は果物や山菜を食べながら、森の動物と遊んで生活しているらしい。

そう、動物と魔物は別物なのだ。

どう違うのか、についてはYES.NO.で答えられない質問であった。


「ゴブゴブ~!」


と、ゴブさんの脚が止まった。

森の奥深く、そこあったのは洞窟の入り口だった。

そして、彼はその洞窟の入り口を指差していた。


「ん? 洞窟…だよな?」


歩きやすい格好でラッキーだと喜んでいたメガネ、伊藤マナブはそう言って洞窟の奥を覗き込むような動作をしている。


「お~。おれ本物の洞窟って初めて見たぜ。ここを抜けると街か村に着くんスか?」


もはや極自然にゴブさんに語りかけるハゲマッチョ西寺リキヤは、終始その下着姿の無防備さに愚痴をこぼしていた。


「ゴブッ!」


ゴブさんはニカッと笑いながら頷く。

ゴブさんと会話のような何かを2時間も繰り返した俺達は、もはやゴブさんの顔を見ずとも、彼の声色だけでYESかNOかを判断できるようになっていた。

それにしても、


「ついに異世界人と出会うのか。エルフ…居るんだよな…エルフが…フフ…」


思わず笑顔がこぼれる。

そう、エルフが居るのだ。

楽しみすぎる。


「どうしたヒロシ。ニヤニヤしてすごく気持ち悪いぞ。まるで20歳にもなって童貞なモテない男子大学生のようだが、頭は大丈夫か?」


「お? どうしたリキヤ。20歳にもなって童貞なハゲ頭の毛根は大丈夫か? おっとすまんすまん、既に絶滅してる生物の話をするのはあまり良くないな」


「あ”?」


「お”?」


「おいおいそこらへんにしておけ。ゴブさんがもはや見慣れた困り笑いだぞ。どっちも20歳童貞の負け犬キャンパスボーイなんだから似たようなもんだろ? 仲間同士仲良く2人で画面の中の彼女にでも語りかけてろって」


「おう童貞メガネ。オマエ高校入学と同時に茶髪にして明らかに一番モテようとしてたくせに、結局高校3年間、俺たち以外に女友達どころか男友達すらできなかったよな」


「そうだぞ童貞メガネ。おれ知ってるんだぜ? オマエの部屋の引き出しの中に、結局一度も使われることの無かったワックスとヘアスタイル本が眠ってるのをよ」


「なっ!? バ、バカお前。アレは親父のヤツをもらったけど別にいらないかな~って思ったけど捨てるのもアレだな~って思ってだな…」


「ゴブゥ…」


マナブの必死でしどろもどろな言い訳の途中で、ゴブさんが「あの…そろそろ…」みたいなジェスチャーをとる。


洞窟の事、すっかり忘れていた。

申し訳ない。


俺たちは3人でゴブさんに謝ると、改めて洞窟の入り口に目を向けた。


「それにしても、この先はついに本格的な異世界か」


マナブがどこかしみじみと言う。


「そうだな…。ここまでなんだかんだ、結構大変だったけど、楽しかったよな」


リキヤもなんか妙にしんみりした雰囲気を出し始める。

まるで旅の終わりの様なノリだが、

確かに、これは一つの旅の終わりなのかも知れない。

そんな事を考えたら俺も少し、ガラにも無くしんみりした気分になった。


「色々…あったよな」


俺の言葉に、2人はうなずく。

思い出すのは、これまでの事だ。

随分と大冒険をしてきた気がする。

それこそ、小説になってもおかしくないような冒険を。


妹にパンチされて、異世界に飛ばされて、会議して、ゴブさんに出会って、2時間歩いて…。

そしてようやくここまでたどり着いたのだ…。


アレ…?


大したことしてなくね…?


なんか俺たち、せっかく異世界に来たのにここまで凄く地味じゃないか?

もしこれが小説で俺が読者なら、こんなんとっくに読むの辞めてるぞ?


いやまあ、そんな事言ってもしょうがないか。

うん、俺たちなんて異世界に来てもこんなもんだ。


「それじゃあ、行くか!」


そんな俺の言葉に


「おう!」


「よっしゃ!」


「ゴブッ!」


親友2人とゴブリン一匹が頷き、俺たちは洞窟へと脚を踏み入れた。


「うおっ。結構暗いな…」


「ああ、うっかりすると転んじまいそうだぜ…」


マナブとリキヤが言う。


そう、洞窟の中は当然だが、かなり暗かった。

入り口付近は多少明かりが入ってきたが、少し進むと直ぐに真っ暗になった。

思えば俺たちは、本当に真っ暗な所に入る機会などそうそう無かった。

大抵の場所には電気が通っており、灯りが存在した。


その飲み込まれる様な暗さに、俺はようやく『異世界』を感じていた。


まさか異世界を実感する原因が、洞窟の暗さになるとはな。

思えば、ゴブさんが予想以上に知性的で、しかも友好的だったのが大きいだろう。

ゴブさんが妙に人間っぽいせいで、俺はどこかゲームでもしてるような気分だったのだ。

我ながら見事な平和ボケっぷりである。


「お、おい…。誰か明かりもってないか? おれ、実は暗いのダメなんだよ…」


俺より遥かに情けないハゲが、ガタガタと震えていた。

それにしてもコイツ、暗いのダメだったのか。

10年以上一緒に居るけど知らなかった。

やはりそれだけ日本は明かりが溢れているってことか。


「ガマンしろ寺の息子。スマホ使ってもいいが、充電できるか分からん状況で、貴重なバッテリーをハゲの精神衛生のために使いたくは無い」


と、メガネをクイッとしながら、マナブが無情にもそう言う。

いや、見えないからクイッとしたかは分からないが、多分している。

長く一緒にいるからそういう所は無駄に分かるのだ。


「そうだぞリキヤ。ゴブさんは視えてるっぽいし、ちゃんと足音を聞いて歩けば…」


と、俺がマナブに同意していた時、


「ゴブゴブ…ゴブ!」


ゴブさんが何やら言ったと思った直後、


「うお!? なんだこれ! 明るくなりやがった!」


「なんだこの小さい太陽みたいなの!」


そう、真っ暗な洞窟に、キャンプで使うランタンくらいの灯りがどこからともなく発生したのである。

しかもその灯りは、虫の様にフワフワと宙を浮いていた。


まさかこれは…。


「ゴブさん、もしかしてコレ、魔法ですか?」


「ゴブッ!」


ゴブさんは親指をグッ!と立て、すっかり見慣れた笑みを浮かべた。

ちなみにこの動作は、俺たちが教えたものである。

ゴブさんから教えてもらってばかりだった俺たちが、「何かお礼を」と思い教えたのだ。

俺たちは普段からこの動作を好んで使う。

コレをやると、自分も周りも、少しだけ元気になる感じがするのだ。


俺たちとゴブさんとの『友情の証』である。


それにしても魔法か、初めて見た。

やはり感動的だ。


「マジすかゴブさん! へ~。これが魔法かぁ…」


リキヤは子供のようにはしゃいでいる。


「なるほど。これは凄いな。この魔法があれば夜中、両手にペットボトルとコップを持った状態で、無理をして階段の電気を付ける必要が無いな。魔法、なんて便利なんだ!」


マナブは意味の分からない感動の仕方をしている。


まあでも、魔法が便利なのはたしかに確実だ。

どこでも灯りが出せるなんて、日本に居た頃は全く魅力を感じなかったが、洞窟の暗さにビビった直後の人間としては非常に欲しい能力である。


「ゴブッ!」


と、ゴブさんが「付いて来て」と言うような仕草をしながら、洞窟の先に歩き始めた。

見ればゴブさんに付随するように、光の玉もフワフワと移動していた。

本当に便利な魔法である。


そこから、またしばらく洞窟の中を歩いた。

時間にして約30分と言うところだろうか。

と、そこで突然ゴブさんが足を止めた。


「ゴブ…ゴブゴブッ!」


彼が指を指す方向に、光の玉が移動していく。

するとそこには、


青色と金色の素材で作られた、周囲の洞窟に不似合いな豪華な扉が現れた。


とても頑丈そうな扉である。

その扉はなかなかに大きく、3人位なら並んで通れる程度の大きさがあった。


「この扉の先に、街か村があるんですか?」


「ゴブ…」


そんな俺の質問に、ゴブさんはどこか寂しそうに頷いた。


そうか、彼はあの森に1人で住んでいると言っていた。

どれくらいの間、会話のできる相手に会っていなかったのかは分からないが、彼もやはり寂しかったのだろう。


それならば…


と思い、俺はマナブとリキヤに視線を向ける。

2人は「わかってるぜ」と言うように頷いた。


「あの…ゴブさん」


「…ゴブ?」


ゴブさんは、何かを察した様な、察した上で気を使うような、そんな表情と声色で返事をする。

なんだろう。

まだ聞いていないのに、答えが分かってしまったような気がした。

見れば、マナブとリキヤも何かを察した様な表情をしていた。


いつの間にか、俺たちとゴブさんはこんなにも通じ合って居たのだ。


それでも俺は、あえて言葉を続けた。


「ゴブさん、俺たちに付いて来てくれませんか?」


「ゴブ…」


ゴブさんは、答えは決まっているが、気を使って答えられないと言う様に、目を伏せて言葉を濁した。


「えっと、俺たちまだこの世界の事なにも分かってないし、ゴブさんも森に1人で寂しいみたいだし、森を抜けて街についても多分、俺たちはアホだから何か問題が起きるだろうし…それにえっと…」


なんとか説得しようとするが、うまく言葉が出ない。


「ゴブゴブ…」


そんな俺を、ゴブさんはいつもの困り笑いで、しかし優しい目で見ていた。

なんだろう、ゴブさんはもしかして、俺たちより凄い年上なんじゃないだろうか。

ふと、そんな事を思った。

すると


「あの、おれ…。アホだから理由とか思い浮かばないし、思いついても多分うまく言えないだろうけど、ゴブさんと一緒に居たいッス! 言葉は分からないけど、ゴブさんと喋っててすげえ楽しかったし、色々教えてくれて嬉しかったし、それにその…」


うまく喋れなくなった俺をフォローするように、リキヤが口を開いた。

コイツは純粋なヤツだから、誰とでも直ぐに仲良くなれる。

思えば、ゴブさんに一番懐いていたのはリキヤだった。

アレコレと色々な質問をしていた。

その大半は下らないモノだったが、彼は別に情報収集のために色々と質問をしていた訳では無いのだろう。

多分、純粋にゴブリンという存在と意思疎通することを楽しんでいたのだ。

しかし、そんなリキヤもやはり言葉に詰まってしまう。


「ったくお前らは…。ゴブさん困ってるじゃねえか。ゴブさんにだって事情があるんだよ。そういうとこ察せないから、いつまで経っても童貞なんだぞ?」


そんな風に憎まれ口を叩くマナブの顔も、明らかに悲しげなモノだった。

マナブは飄々としているが、妙なところで頭の回るヤツだ。

恐らくこうなることを予想していたのだろう。

思えば、ゴブさんの身辺情報を聞き出していたのは基本的にマナブだった。

森を抜けた後も同行してもらう事を真っ先に考えたのは、恐らくコイツだったのだ。


しかし、俺が始めた説得だ。

俺がしっかりと責任を持って最後までやらないとな。


「あの、ゴブさん。俺たちと一緒に来るのは…イヤですか?」


少しイジワルな質問をしてしまった。


「ゴブ!」


ゴブさんは「そんなことない」と言うように、ハッキリと首を横に振ってくれた。


「えっと…それじゃあ、何か一緒に来れない理由があるんですか?」


「…ゴブ」


ゴブさんは少しためらった後、ゆっくりと頷いた。


「それは…俺たちが手伝えば、なんとか解決できませんか?」


これが本命の質問だった。

この先の質問は、頭に無かった。


「……ゴブ」


ゴブさんはゆっくりと、しかしハッキリと、首を横に振った。


「そうですか…」


「うっ…うぐっ…! ゴブさぁん…」


リキヤが泣き始めてしまった。

そうだった。コイツは涙もろいのだ。


「……。」


マナブは無言だ。

目を瞑って腕を組んでいる。


「あの、それじゃあ最後に一つだけ、質問していいですか?」


「ゴブ?」


俺は、ふと思いついた、一番重要な質問を投げかけた。

祈るように。


「いつか…また会えますか?」


「……ゴブ!!」


その質問に、ゴブさんは親指を立て、ニカッと笑った。


「「「ゴブさん…!」」」


俺たちは思わずゴブさんに駆け寄り、ゴブさんをもみくちゃにした。

抱き上げたり、頭をなでたり、逆になでられたり、肩を組んだり、抱き合ったり。


思えば、誰かと別れる事をこんなに悲しんだ事があっただろうか。


ゴブさんと過ごした時間は、わずか3時間程だ。

しかし、その3時間は俺たちにとって、どこまでも濃密で、かけがいの無いものだった。


表面上は明るく振る舞っていたが、俺たちはやはり、どこか心細かったのだ。

突然見知らぬ山奥に投げ出されて、スマホの電波も届かず、過ぎゆく時間と共に太陽は進む。


そんな状況で、ゴブさんはまさしく救いだった。


失礼な俺たちに、一度も怒らなかった。

自分には何の特もないのに、道案内をしてくれた。

彼を質問攻めにする俺たちに、嫌な顔をせずに答えてくれた。


そして何より、彼は常に楽しそうだったのだ。


『異世界』の『ゴブリン』が俺たちと楽しそうに会話をしてくれた。

この事実が、俺たちの心を救ったのだ。

何もかも分からないことだらけの、この世界で、それでも「なんとかやっていける」と。

そう思わせてくれたのだ。


「ゴブ…!」


ゴブさんが扉に手を向けると、ギィ…と音を立て、その重く大きな扉が開いた。

扉の向こうからは、光が差し込んでいる。

そんな光を背中に受け、ゴブさんは再び親指をグッと立て、ニカッと笑った。


最後までカッコイイ漢である。


「「「ありがとうございました!」」」


俺たちはゴブさんに深く頭を下げ、大きな声でお礼を言う。


「またいつか、絶対会いましょうね! 俺、すげえ美人なエルフの彼女作るんで、楽しみにしといてください!」


「ははは! 最後に何いってんだよヒロシ! じゃあオレも、絶対ネコミミメイド引き連れて、異世界無双してハーレム作ってるんで、楽しみにしといてくださいよ! ほらリキヤも、お前いつまで泣いてんだよ挨拶しろ!」


「お…おれ…おれはぁ…えぐっ! ゴ、ゴブさんとぉ…うぐっ! 絶対ゴブさんと話せるようになるから…! 今度はちゃんとお話ししましょうッス!!」


最後に一度全員で、親指をグッと立て、笑いあった。


そして、俺たちはゴブさんと別れ、本格的に異世界へと旅立ったのだ。


最後まで読んでくださった方、本当にありがとうございます。


さて、ついに彼らが異世界に解き放たれます。

今回の様なシリアス回は、恐らく超貴重です。

彼らは基本ギャグマンガの世界の住人なので。

次回からは通常通り、異世界で日常ギャグを展開する彼らをお楽しみください。


しつこいようですが、評価や感想など、心の底からお待ちしております。

それでは、第5話もよろしくお願いします。



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