第二話『3バカ異世界会議』
人物紹介
山田ヒロシ 20歳 普通の男子大学生 特徴のない黒髪と、特徴のない顔と、特徴のない性格が特徴。好きな食べ物はおにぎり。一人称は「俺」。
伊藤マナブ 20歳 茶髪のメガネでヒロシの同級生。広く浅く、いかにも最近のオタクって感じのメガネ。好きな食べ物はカエデのパンツ。一人称は「オレ」。
西寺リキヤ 20歳 ハゲの細マッチョでヒロシの同級生。趣味は筋トレで、実家が寺なハゲ。好きな食べ物はカエデのパンツのクロッチ。一人称は「おれ」。
山田カエデ 16歳 黒髪ツインテJKでヒロシの妹。剣道、柔道、合気道、弓道と、およそ「武道」と呼ばれる技術は全てを習得しており、どの道においても有名道場の師範代レベルの実力を持つゴリラみたいな女子高生。将来の夢はお嫁さんだけど誰にも言わない。
「は~~い注目~!それでは、始めさせて頂きたいと思いま~す!」
澄み渡る様な青空の下、知的にもメガネをクイッとやりながら、全身ジャージで茶髪メガネのマナブ(童貞)がそう言った。
3人で向かい合って地べたに座ったオレたちの足元の地面には、そこら辺で拾った枝をペン代わりに「第一回 ここはどこなのか会議」と書かれている。
「司会進行は、僭越ながらワタクシ伊藤マナブが務めさせて頂きたいと思います。さて、何か意見のある方は挙手をどうぞ」
「はい」
「よろしい。ではそこのハゲの方」
「ハゲじゃねえよ! …こほん。まず状況を整理させてくれ」
珍しく真面目な雰囲気で、ハゲのリキヤが言葉を続ける。
「おれ達はヒロシの家でド◯クエごっこをしていた。そして帰宅したヒロシの妹、カエデちゃんの逆鱗にふれ、3人仲良く意識を刈り取られた。ここまでは良いか?」
アレをドラ◯エだと言ってしまうと全国のゲーマーに袋叩きにされそうだが、概ねその通りである。
そう、俺たちは全員で意識を失ったはずだ。
殴りあげられたであろう(早すぎて見えなかった)俺の顎が未だにヒリヒリしているのがその証拠だ。
俺はリキヤの言葉に無言で頷く。
見ればマナブも、自らの顔面を擦りながら頷いている。
恐らく、ハイキックによるヤツの傷も未だ癒えないのだろう。
「そうか、全員の記憶が同じようで何よりだ。…で、意識を失ったおれ達が目を覚ますと、既に全員この森に居た…ってことで合ってるか? おれが起きたときには既に二人共目をさましていたようだが」
自らのみぞおちを擦りながら、マナブが俺たちに聞いてくる。
ヤツが攻撃を受ける瞬間を見ることはできなかったが、恐らく相当なモノを食らったのだろう。
さて、今の状況だが、リキヤの言うとおりである。
俺とマナブはほぼ同時に目が覚めたが、その時、周りの景色は見知った我が ”山田家” のベランダではなく、周囲を森に囲まれた小さな公園程の広さの空間だった。
小さな公園ほどの広さだが、遊具などはなく、ただ地面に草と花が生えているだけの原っぱである。光がよく差し込んでいるからだろうか、森の中と言ってもその雰囲気はのどかで明るい感じだ。
「ああ。オレとヒロシは同時に目覚めたが、その時オレ達は既に、全員でここに居たはずだ。ついでに言うとオレ達の周りには誰も居なかった」
俺と同じことを思い出していたであろうマナブの発言に、俺も「うんうん」と頷き同意を示す。
「なるほどな。暇を持て余していた男子大学生が3人、女子高生に殴られて気づけば知らない森の中…か。さて、ここで一つだけ明らかな事実として、ここは家の中では無いな?」
リキヤは真面目な顔で言う。
なんだろう、そんなの見れば分かることだが、当たり前の事の確認からしていく、という訳だろうか。まあ確かに訳の分からない状況ではあるし、乗ってやるか。
「ああそうだな。ここは確実に野外だ」
「うむ。ここは家の中ではないな。ヒロシの魂をかけるぜ」
かけるな。
俺とマナブが同意を示すと、リキヤはその表情をことさら真面目なモノにし、口を開いた。
「なるほどな…。よくわかった。さて、ここが屋外だとして、おれの格好だが…どう思う?」
「「すごく…変態です」」
「そうなんだよ! おれだけ大ピンチなんだよ! こんなん警察に見つかったら一発で現行犯逮捕じゃねえか!! どうしてくれんだ!!」
なるほど。
3人仲良く同じ状況だと思ったが、どうやらハゲだけは状況が違ったようだ。
しかし、
「いや、それはオマエが勝手に装備したんだろ。ていうかオマエ、自分の服とパンツはどこにやったんだよ」
俺の言葉に、マナブもウンウンと頷く。
「目には目を、歯には歯を、パンツにはパンツを…古代ハンムラビ法典が定めし規則に則り、おれの衣服は全てカエデちゃんのベッドの上に置いてきた」
「よし、ハゲの処分は警察に任せるとして、やはり問題は『ここは一体どこなのか』ってことだな」
「そうだな。ヒロシの言うとおりだ。オレとしては、まずここの空が青い事について議論を…」
「ちょっと待ってくれよ! おれ達親友だろ!? 小学生の頃からずっと一緒にバカやってきただろ!? おれんち寺なの知ってるだろ!? 寺の息子が下着泥棒&公然猥褻罪で現行犯逮捕とかシャレにならねえよ!!」
「うるせえ話が進まんだろハゲ。これ以上くだらん話題で会議の進行を妨げるなら、議長権限として今直ぐ警察に通報するぞ?」
そんなマナブの言葉に「ちくしょう…なんでおれがこんな目に…」と言いながらもリキヤが引き下がる。
世間一般ではこの状況を「自業自得」と言う。
まあ実際のところ、周りには草と花と木しかないのだ。本当にどうしようもない。
「さて、話を戻すが…ヒロシ、リキヤ、オレたちが殴られた時間を覚えてるか?」
「詳しい時間は覚えてないが、夕方だったはずだ」
「ああ、俺は殴られる直前に腕時計を見たから覚えてる。あの時の時間は午後6時45分だった。確実に夕方だ」
マナブの質問に、俺とリキヤが応える。
そう、俺たちが意識を失った時には夕焼けだったはずの空が、
今は澄み渡るように青いのだ。
「その通り。空の色が明らかに変わってる。さて、考えられる状況は2つだ。」
本格的に真面目な顔になったマナブが言葉を続ける。
「一つ目、オレたちが長時間、少なくとも一晩以上の間気を失っていた可能性だ。この場合、少なくとも12時間近く気絶していたことになる。それだけの時間があれば、あの怪力無双カエデちゃんだ、オレたち3人を担いでそこら辺の山奥に捨てることも可能だろう。」
なるほど。
たしかにそれなら時間の問題も場所の問題も全て説明がつく。
しかし…
「いや待て、オレたちの地元にこんな深い山なんて無いだろ」
マナブの言葉に疑問を感じた俺は、そう反論した。
俺たちの家は全員近所で、それぞれの家が歩いていける距離にある。
まあ小学校が一緒だったんだから当然っちゃ当然だが。
さて、そんな俺たちの暮らしている場所は、日本の首都東京だ。
もっとも、23区外のいわゆる郊外と呼ばれるような所なので、そこまでガッチガチの都会ではないが、それでも周囲に木を超える高さの建物が、電柱すら一切無いというのは流石におかしい。
「そうだな…。カエデちゃんがオマエの母ちゃんに報告して、怒ったオマエの母ちゃんがオレたち全員を車で山奥に捨てた…ってのはどうだ?」
「いやぁ…。それは流石に無いだろう。カエデは怪力無双だし脳筋だし、それこそゴリラみたいな妹だが、逆にゴリラゆえにそこまで回りくどい事はしないぞ。アレで許せなかったら目が覚めるのを待ってもう一発殴るはずだ。アイツは暴力以外での解決法を知らんからな」
そう、カエデは「親に言いつける」なんていう女子高生みたいなミミッチイことはしないのだ。
そうだな、例えば海中で眠っていたゴジラが、人間にちょっかいをかけられたとしよう。
その時ゴジラは、モスラやビオランテに言いつけたりするか?
いや、しない。
ゴジラは堂々と日本を破壊しに来るだろう。
なぜなら彼らは「大怪獣」という、圧倒的な力を持った超存在だからだ。
さて、ここで俺の妹こと山田カエデを見てみよう。
彼女は「女子高生」なのか、それとも「大怪獣」なのか。
紛れもなく後者である。
そういう事である。
「なるほど、たしかにカエデちゃんは親に言いつけたりしないだろうな」
俺の言葉にマナブが納得したように言葉を返した。
横ではリキヤも頷いている。
「だろう? そして、俺にはもう一つ、ここがウチの近所じゃないって思う事の根拠がある」
俺はそう言うと、スマートフォンの画面を、マナブとリキヤに見せた。
「「…………ウソだろ」」
そう言うと、リキヤは自分の腕時計を、そしてマナブは自身のスマホを見る。
電波時計であるリキヤの腕時計の画面では、電波を受信していないことを示すマークが点滅している。
マナブとオレのスマホ画面には「圏外」と、そう表示されていた。
「これで、俺の親が運んだって可能性は完全に消えたな。お仕置きにしても、スマホの電波すら届かない山奥に息子とその友人を捨てたりはしないだろ」
「ああ、そうだな…。オマエの母ちゃんおっかないけど、さすがにそこまでする人じゃねえとおれも思う」
俺の言葉に、リキヤが同意する。
その隣で、マナブが眉をひそめながら俺たちに質問してきた。
「ていうかさ、お前ら、ぶっちゃけ12時間以上も気絶してた感覚ある?」
「いや、俺は無い」
「ああ、おれも無いな。ヒゲも伸びてねえよ」
そう、俺たちは20歳の健全な男子大学生なのだ。
12時間もすればヒゲが多少なりとも伸びる。
そんな俺たちのアゴと鼻下は、ツルツルだった。
「時間…大して経ってないよな」
「ああ、おれたち今まで何度もカエデちゃんに殴られて気絶したけど、長くても1時間で目が覚めてたしな」
2人の言う通りだ。
俺達がカエデに殴られて気絶したのは、実は一度や二度の話ではない。
それこそ中学生くらいのころから現在に至るまで、8年近くに渡り、一ヶ月に一度は気絶しているのだ。
その経験から言って、今の状況はおかしい。
全てが異常だった。
「「「ここ…どこだ…?」」」
訳のわからなくなった俺たちは、3人仲良くその場に仰向けになった。
なんというか、真面目な体制で会話していると、空気がどんどん重くなっていく気がしたのだ。
うーん、空が青い。
と、仰向けになって青空を見上げたまま、マナブが呟くように言った。
「異世界…だったりして」
「あはははは! マジかよマナブ! オマエいくら何でもそれは流石によぉ!」
「はははは!! そうだぜマナブ! そしたら、おれはなんだ? 女子高生の下着だけ身に付けて異世界で笑ってるってことになるのか!? ははははは! 面白すぎるだろ!!!」
「ぶはははは!!! そりゃあ確かに傑作だ!!」
マナブの言葉にオレとリキヤが爆笑し、続くリキヤの言葉に全員が腹を抱えて笑った。
それにしても、異世界か。
「異世界だったらさ、俺はアレに会いたいな。すげえ美人なエルフ」
俺は笑いながら、そんな願望を口にする。
エルフっていいよね。
絶対清楚だし絶対美人だし、絶対童貞にも優しいじゃん?
そんな俺の言葉に食いつくように、マナブがメガネを光らせて言う。
「いいねえエルフ! オレはそうだなぁ…。やっぱアレだな、異世界に来たんなら、ネコミミ娘に会ってみたいな!」
「おれはね おれはね! 絶対サキュバス!! すげえエロイサキュバスに会えるなら、もうここが異世界って事で良いやオレ!!」
「はははは! バカオマエ、そんなん俺だって会いてえよ! これだからエロハゲは」
「そうだぞハゲ! オレ達童貞にとってサキュバスなんてのはなあ、それこそ宝くじの一等より価値のある存在だぞ?」
「はは! そうだよなワリイワリイ!」
俺たちはしばらく「こんな種族に会いたい」という話で盛り上がる。
地面には「第一回 ここはどこだ会議」と書かれているのだが、最早誰もそんなモノは眼中になかった。
そして、話の方向はドンドンとズレていく。
「異世界転生って言えばさあ! やっぱ無双ハーレムなワケよ!」
その手の小説が大好物なマナブが、メガネを輝かせながらそう豪語する。
「奴隷とか買っちゃったりしてな? 体洗わせちゃったりするんだよな!?」
マナブの影響でその手の小説(主にエロいの)にそこそこ詳しいリキヤも、頭を輝かせながら応える。
「奴隷ってのは確かにいいよな。アレだろ? 呪われた血族とかで、すげえ安く売られててさ、モノみたいに扱われてる美少女に、俺達だけは優しく接するんだよな」
俺もまあ…うん、男の子ってのはそういうお話が大好きなのだ。
無双とか奴隷とかハーレムとか、いいよね。
「そうそう! で、そこから恋が芽生えてさ…。アレ、おれたち何の話してたんだっけ」
リキヤが思い出したようにそんな事を言う。
そうだ、完全に忘れてた…。
「あ~…。ここ、結局どこなんだろうな…」
マナブがそう返す。
どうやら皆忘れていたらしい。
ちょっと安心した。
さて、俺も少し真面目モードだ。
「ま、異世界うんぬんは置いとくとしてさ、外国だったらまずいよな」
「あ~確かに、異世界なんかよりよっぽど現実的にヤバイわソレ」
「確かにな。おれも『異世界で女性下着装備』より『外国で女性下着装備』のほうがよっぽどマズイ気がしてくる」
そんなリキヤの言葉に、全員でひとしきり笑う。
と、マナブが立ち上がり、軽い口調で口を開いた。
「よっこらせ…。ま、何にしてもさ、日が落ちる前にこの森を抜けないとな、ボチボチ歩こうぜ。いつまでもここで馬鹿話しててもしょうがねえよ」
なるほど、たしかにその通りだ。
気づけば太陽は確実に移動していた。
目が覚めた時には低かった太陽が、今はおれたちの真上にある。
方角は分からないが、ここが外国だとしても、異世界だとしても、太陽が動くならばその果てには夜が来るのだ。
「それもそうだな! じゃあ適当な方向に進もうぜ!」
リキヤがそう言いながら笑顔で立ち上がった。
全く、これだからハゲはバカで困る。
「おいおいリキヤ、こういう時はさ、太陽を目印に進むらしいぜ?」
なんかのマンガで見た知識をドヤ顔で披露する。
「ほへ~。じゃあとりあえず、太陽の沈む方向に行ってみるか?」
俺の言葉を受けて、リキヤが進路を提案し、俺とマナブが頷く。
ちなみに、太陽は今ちょうど俺たちの真上にあるわけで、つまり今の時間はだいたい昼の12時ってことになるのだろうか。
理科は苦手科目だったので、正直そこらへんはよく分からんが。
ともかく、俺達は見知らぬ森を歩き始めることになった。
「よ~し! それじゃあ気合入れて行こうぜ! えいえい…」
何故か妙にテンションの上がっているマナブが「えいえいおー」なんて、ガキっぽい事をしようとする。
…まあ正直、俺もなんだかんだでテンションが上がっているので、ノッてやる事にする。
隣を見ると、リキヤも拳を振り上げようとしていた。
そう、俺たちは冒険の始まりみたいな雰囲気にワクワクしていたのだ。
「「「お~~~~!!!!」」」
仲良く3人で拳を突き上げ、響き渡るような大声をあげる。
「ゴブッ!?」
「「「…………えっ?」」」
俺たちの近くの木の根本、俺達の発した突然の大声に、とある生物が驚きの声をあげた。
緑い色の肌の全長1メートル程の小人だった。
ていうか、完全にゴブリンである。
…うん。
「「「…………異世界だコレ!!!」」」
俺たちの異世界生活が、幕を開けた。
最後まで読んでくださった方、ありがとうございます。
3話もどうぞよろしくおねがいします




