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★★★  作者: しまりす
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自由と愛の理想郷(イデア.ポリス)

自由(じゆう)(あい)理想郷(イデア.ポリス)()いていたのだが...なんと惨憺(さんたん)たる()(さま)だ。 』


 (まち)(みなと)(はい)大型(おおがた)ガレー船上(せんじょう)から一人(ひとり)白髪(しらが)(たくわ)えた老人(ろうじん)(つぶや)いた。


 (かれ)()は❰ポセイドン❱。


 ギリシャ神話(しんわ)()てくる(うみ)(かみ)()である。


 三股(みつまた)(ほこ)()筋肉質(きんにくしつ)の凛々(りり)しい姿(すがた)(まさ)にその()相応(ふさわ)しい。


 その(かれ)視線(しせん)(さき)には船乗(ふなの)りを聖都(イデア.ポリス)(みちび)道標(みちしるべ)象徴(しょうちょう)自由(じゆう)(あい)女神像(めがみぞう)フレイヤが無惨(むざん)姿(すがた)(さら)していた。


 (ロープ)()けられ()(たお)された形跡(けいせき)があり頭部(とうぶ)胴体(どうたい)()(あし)も形跡を残さない程にに破壊(はかい)され(あた)りに散乱(さんらん)していた。


 その(ちか)くでフードの()いた白い外套(ローブ)(はお)った婦人(ふじん)毛布(もうふ)(つつ)まれた幼女(ようじょ)(いたわ)(よう)(しば)らく見詰(みつ)めていた。


 その(あと)破壊(はかい)されずに()された女神像(めがみぞう)足元(あしもと)幼女(ようじょ)()たせて白い外套(ローブ)(はお)った婦人(ふじん)足早(あしばや)()()って()く。


 その光景(こうけい)海神(ポセイドン)(かたわ)らで()ていた金髪(きんぱつ)(あお)(ひとみ)少年(しょうねん)(おも)わず(さけ)んだ。


『ご婦人(ふじん)! 』


『その()()()りにしてはいけない!』


 この少年(しょうねん)()は❰アレス❱。


 (かれ)も、またギリシャ神話(しんわ)()てくる軍神(ぐんしん)()である。


 アレスの(こえ)一瞬(いっしゅん)()()まり()(かえ)婦人(ふじん)横顔(よこがお)に彼は(たし)かに見覚(みおぼ)えがあった。


 しかし、それは(とお)(かす)かな記憶(きおく)奥底(おくそこ)にしまわれた(まぼろし)のようで(おも)(かえ)すことができなかった。


 婦人(ふじん)はしばらく、アレスを()ていたがガレー船が(みなと)横付(よこづ)けされる(まえ)黒煙(こくえん)()ちこめる市街地(しがいち)へと姿(すがた)()して()った。


 アレスの汚れを知らぬ純粋な青い(ひとみ)に映る酷い聖都(イデア.ポリス)の惨状、そして彼の鼻腔へ、そこらかしこから燻り漂う焼け跡の臭いが煙と共に流れて来た。


 それは、まごうことのない戦禍に見舞われた都の悲鳴ともいえる無言の証となっていた。


 少年アレスは叔父であるポセイドンに訊ねた。


『叔父上...母上はなぜ俺を、この廃墟の都へ連れて行かせたのですか?』


 優しい微笑みを浮かべたポセイドンはアレスの頭に手を乗せて答えた。


『それが...お前の使命だからだ。』


『この船が都の岬に入った時にお前の運命は定まった。』


『この街で最初に目にしたもの...それがお前を運命付ける鍵なのだ。』


 船は岬の港に横付けされロープが船止に掛けられた。


 ポセイドンはアレスの両肩に手を置き彼の目を真っ直ぐに見て話した。


『魔物たちにより廃墟となった都イデアポリスをお前の手で取り戻すのだ。』


『そして苦しみに喘ぐ人々に再び自由と愛を取り戻させよ!!』


『勇者アレスよ!!』


 少年アレスはポセイドンの手から1本の戦工具う受け取った。


『これは...スパナー』


『お前が船から降り立った時、新たな命が与えられる。』


『しかし、その代償として、この船もアレスの名もお前の記憶の中から消え去るであろう』


『このスパナーだけがワシとお前を結ぶ証となる。』


『スパナーに刻印されたアレスの文字が再び現れ出る時、この岬へ戻って来る。』


『さぁ、行け!』


『旅立ちの時だ!』


 少年アレスが船から降り立つと時を同じくして船は霧の中へと消えて行った。


 彼は手に持ったスパナーを握りしめて崩れた女神像フレイヤの足元へ進み出た。


 目映い光に包まれて毛布の中で震える幼女に手を伸ばす彼に幼女は小声でポツリと呟いた。


『お兄ちゃん...お腹空いたよ。』


 笑顔で彼は幼女に訊ねた。


『君の名前は...?』


 はにかみながら彼女も笑顔で答えた。


『あたし...ルチア。』


『お兄ちゃんの名前は?』


 彼はルチアの問いに手に持つていた戦工具を見せて答えた。


『俺の名前は、スパナーさ。』


『ルチア、よろしくな!』

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