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奇蹟の犠牲者  作者: 渡烏
“Gladiators draw their swords”
2/28

エイハブの足がすっ飛んだ!

ご覧いただき誠にありがとうございます。

よろしければ最後までごらんください。




「お早いお目覚めだな。枕の心地はどうだ? さぞ良い夢を見れたことだろうな」



柔らか過ぎず硬過ぎない丁度良いラグナシアの膝枕を、目を閉じ堪能たんのうしていると足元の方向で威勢いせいの良い声が聞こえた。


首に力を込め声のした方向を確認すると、俺たちに対して振り向きもせずにいる『長い黒髪くろかみを後ろで一房ひとふさに束ねている黒尽くめの男』の後ろ姿が少し離れた所に確認できた。


ラグナシアもそちらを向いているようだ。


どうやら薄手の黒いロングコートのポケットに手を突っ込んでいる『デズモンド』が声の主なのだろう。



「おはよう、デズ。頭は爽やか、最高の気分だよ」



そうは言ったものの、頭が割れているのではないかと錯覚する程の痛みが襲ってきているというのが事実だ。



「そいつは目出度めでたいな。お前さん、自分の『おつむ』がどうなってんのか解ってんのか?」



その部分に手を当てると丁寧に包帯が巻かれているのがわかる。


触れた指には、綿布めんぷからにじんだであろう血が薄っすらと付いていた。



「もしかしてラグナシアが俺を手当てしてくれたのか?」



「はい。こんなこともあろうかと応急処置パックを持ってきて正解でした」



「ありがとう、ラグナシア」



「えぇ、感謝してくださいよ。デズモンド様もエイハブ様も重傷を負ったのですが、デズモンド様がユウさんの手当てを優先しろって聞かなかったのですからね」



ラグナシアの言葉に耳を疑ってしまう。


まさか『エイハブ教官』と『奇蹟者きせきしゃデズモンド』が重傷を負うほどの事態が起きていたとは……全く記憶に無い。



平然へいぜんと立っている彼からは、どこかを負傷しているとは到底思えない程の余裕を感じるが……



「普段はアレだけど、こういう時はデズって妙に優しいよね」



「馬鹿言え、識別救急(triage)ってやつだよ。学園でエイハブから習っただろ?」



デズモンドは両手をハの字に広げて肩をすくめてしまう。


そんな彼は荒野の乾いた風にコートの長いすそを風になびかせ、いつもの軽口を叩いてくる。



「ま、手当ての上に膝枕までしてもらえると分かってりゃな。今からでも代わりたいよ」



デズモンドが言いながら両手をポケットに入れようとした瞬間、彼の手の甲は焼けただれ、手の平の傷から赤い肉がはみ出し骨が剥き出しになっていることに気付いてしまった。



「おいデズ! その手!」



心臓が跳ね上がり、身体中の血が凍ったかのような感覚に襲われる。



「ん? あぁ、これか? 『ゼウスサマ』が『奇蹟きせき』を遺憾いかんなく発揮したんだ。流石さすがの俺でも堪えたよ」



彼は見るに耐えない片手をひらひらと振っているが、足下には岩と砂にまみれた荒野に血溜まりを作っていた。



「ッ!?」



反射的に彼の下へ駆け寄ろうとしたのだが全身が悲鳴を上げ、上半身を起こすだけで精一杯だ。



「急に動いてはいけませんよ。ユウさんだってエイハブ様と激突して、おデコから頭蓋骨がコンニチハ(・・・・・)してたんですからね」



ラグナシアは眉をひそめて、必死に足掻あがいている俺の背に優しく手を添えてくれる。



「ラグナシア、俺はもう平気だからデズを……」



「馬鹿も休み休み言え。俺を誰だと思ってんだ? お前さんに気遣われるほど柔じゃねぇよ。そんな余裕があるならエイハブを心配してやれ」



デズモンドはそう言うとポケットから皺くちゃの煙草を取りだし火を付け吹かす。



彼の手首には先程まで無かったブレス念珠ねんじゅが付けられており、あしらわれた紅玉ルビーが輝く。



「それよりアレを見てみろ。ゼウスサマが教会都市に凱旋がいせんするぞ」


デズモンドは何事もないようにたたずみ、空を仰ぎ煙を吹き出している。



そんな彼の後ろ姿からは、顔面の左半分の肉が削がれ眼球と歯牙しがが剥き出しになっているなどと、俺とラグナシアは知る由もなかったのであった。





最後までご覧いただき感謝です。

本当に何と言って良いのかですが、ありがとうございます。

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