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虚無の勇者と最強の化物  作者: 眞月
序章 次元の狭間にて
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プロローグ

 薄暗く、どこまで続くともしれない廊下を、数名の人間が歩いていた。

 石造りの廊下で、湿った空気が辺り一面に満ちている。

 そこら中に蜘蛛が巣を張っており、普段誰も立ち入っていないことが伺えた。


 歩く人間達の表情は一様に硬い。

 当然だ。彼等はここに遊びに来たわけでもなければ冒険に来たわけでもない。

 義務を果たしに来たのだから。  辺りを照らすのは、先頭のものが持つ松明だけ。


 歩みを進めると、重厚な扉が現れ、それをゆっくりと開ける。

 その先に続くのは、また長い廊下。

 此処まで来ると、蜘蛛のような虫すら見受けられない。


 景色の変わらない廊下をそれでも進み続け、幾つかの扉を抜けると、一際大きな扉が現れる。

 そこにたどり着くと、先頭に居た女性はゆっくりと息を吐く。


「……着いたわ」


 長い赤髪をかき上げ、彼女は扉の前に立つ。

 松明を扉に向けると、魔法陣が扉中にびっしりと書き込まれているのが分かる。

 魔法に対して知識がない人間でも、何か凄まじいものが有るということは容易に察せられた。


 後ろに居た二人の男が扉の前へと進む。

「お嬢様、ここは私達が」

「ええ、分かっているわ……。魔法陣に少し驚いていただけ」


 女性の言葉に、老年の男性はにこやかに笑う。


「代々、お館様達が積み上げてようやく作成した封印術です。先代お館様も、魔法陣を付け加えているのですよ」

「それだけのモノが封印されてるってことね……」


 既に、先代お館様と呼ばれた人物は死去している。

 ここに居る女性は、彼の一人娘であるエリーゼだ。


「解除するのにどのくらいかかる?」

「解除方法は知っているため、30分ほど頂ければ」


 もう一人の男性が答えた。

 エリーゼはその返答に頷くと、口をつぐんで静かになる。


 かつて彼女の父はエリーゼに対して、この封印の恐ろしさについていつも語っていた。

 自分は何が封印されているかを見たことは無いが、これは何代も前から語り継がれている。

 しかし、もし本当に重大な危機に陥った時は、封印を解いても構わない、と。


「お嬢様、解除、完了しました」

「……分かったわ。此処から先は私一人で行かなくちゃいけない。二人とも有難う」

「勿体無きお言葉……」


 どうやら、エリーゼが物思いに耽っている内に解除は終わっていた様子である。

 この扉より先は、一族の者でしか入ってはいけない、そういう決まりなのだ。


 ゆっくりと扉を開けると、周辺の気温が数度下がったような感覚が生じる。

 エリーゼは、心配そうに見守る二人に微笑みかけ、その扉の中へと進んだ。


 扉の先は、少しばかりの廊下の後に、もう一つの扉。

 ここは、血族の者だけが開くことの出来るモノ。

 この先にお目当ての存在が居る。


 ゆっくりと最期の扉を開け、中に入る。

 入った瞬間、何処か違う場所に来たような錯覚を覚えた。

 外に居る二人の認識も出来ない。

 

 扉の先を松明で照らすと、ずらっと並んだ本棚の先に、一人の男性が椅子の上に佇んでいた。

 遠目から見ても分かる体格の良さ。

 勿論太っているのではない、圧倒的な筋肉を身に纏っているのだ。

 何百年も封印しているのに生きている以上、エリーゼの常識は通用しない。


 と、男はエリーゼに気付いたように此方を向く。


「ほう? 客人とは珍しい。さて、人と会うなんて一体何百年振りだ?」


 重低音の声が部屋の中に響いた。

 男はゆっくりと立ち上がると、エリーゼの方へと近付いていく。

 いきなりの事にエリーゼは焦るが、男は喉を鳴らして笑う。


「そんな怯えるな。俺自身にも重い封印がかかっている以上、今すぐ取って食うなんて事はしない」

「それ以上近づかないで! 私は貴方に命令をしに来たの! フォイル・ルーグ!」


 エリーゼの言葉にフォイルはその場に止まる。

 そして、思い切り笑い出した。


「命令? 命令だと? 面白い、俺に何をやらせようというのだ?」

「……私達の身に危機が迫っているのです」


 目の前のフォイルの威圧感に対して、なんとかエリーゼは言葉を紡ぎだす。

 その答えにフォイルはまだ笑い続ける。


「クハッ! そんなので俺が素直に従うと思っているのか? 何故俺を封印していた連中の為に働かねばならない?」

「……私達の国は父の代で滅びました。今の世界に、貴方が恨むべき相手は私しか居ません」

「ほう……? それは結構なことだな」


 エリーゼの顔は険しくなり、フォイルは笑いを止める。

 彼女の国は、3年前に、隣国との戦争で滅びた。

 彼女の言葉に嘘は一つもない。


「今は関係無いことです。その上でもう一度命令します。私達の……、いえ、人類の危機のために協力してください!」


 力を振り絞って発せられた声が部屋中に響き渡った。

 エリーゼは肩を大きく上下に揺らして荒い呼吸をする。

 数秒の沈黙の後、フォイルは口を開けた。


「断る。生憎と、俺は破壊者だ。壊すことしか能が無い木偶の坊でね」

「……それでも!」


 そうエリーゼが叫んだ瞬間、空間全体が大きく揺れた。

 フォイルは怪訝そうな顔を浮かべ、エリーゼは焦ったような声を上げる。


「な、なに!?」

「……おい、女。お前結界はしっかり解除したんだろうな?」

「当然よ! 扉に記してあった魔法陣は全て!」


 その返答に、フォイルはチッ、と舌打ちをする。

 そして諦めたように椅子に座り込んだ。


「結界はそこだけではない。何百年と受け継ぐ内に伝承ミスでもあったか」

「な、何を落ち着いているのよ! 今スグ逃げなきゃ!」

「無駄だ。ここの空間は座標軸がわざとズラしてある。転移魔法は使えない。扉も開かないだろうな」


 転移魔法は、現在の場所と転移場所の座標をしっかりと認識した上で多大な集中を持って、やっと可能となる高等魔法だ。

 この状況ではどちらもエリーゼには当てはまらない。

 それでも、とエリーゼは声を荒げる。


「このまま死ぬつもりは無いわ。”転移”!」


 バシュン、という音と共にエリーゼはこの空間から姿を消す。

 それを見たフォイルはもう一度舌打ちをした。


「チッ、なるようになれだ。クソッタレ」


 そう毒を吐いた次の瞬間、空間そのものが何処かへと切り離されて転移する。

 

 この事象が起きたのは、グーベルク国で勇者召喚が行われたのと同時刻であった。

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