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浅野日向。大学一年生になったばかりである。毎日の刺激のない日々に、もう呆れてさえいた。今日も、重い足を運んで大学に向かう。
「おはよう、日向」大学で知り合った美羽が後ろから言ってきた。「あ、おはよう」美羽の隣には、1つ上の雄太先輩がいた。つい最近、雄太先輩から告白をして付き合ったのだった。二人の同じサークルの先輩である。「日向ちゃん、おはよ」「おはようございます」雄太先輩は、教室が違うのでここで別れて、日向と美羽は自分たちの教室に向かった。
いつもの時間、いつもの席に着く。周りを見渡せば、カップル同士が会話をしていたり、友達同士が騒いでいたり、高校生と何の変わりもない、この光景。それが、余計に私をつまらなくさせる。(ばかばかしい...)日向が、そう呟くと「ねえ、日向知ってる?」隣にいた美羽が話しかけてきた。「何を?」「夢追いノートっていうものがあるらしくてね?そのノートには、一ページだけ空白になってて、そこに自分で叶えたいことを書き込むと、叶うんだって」美羽が真剣な顔でそう言った。「夢追いノート?美羽、また少女漫画かなんか?」日向は、呆れたようにそう答えた。美羽は、大学生にもなって毎日のように少女漫画を読んでは、日向に感想を言ってきていた。日向は、正直それにイライラさえ覚えていた。しかし、美羽は「違うよ、やっぱり日向知らないんだ、結構最近流行ってるんだよ?」そう言い返してきた。「私、そういうの信じないの、占い?とか現実にあるわけないでしょ、そんなの」日向は、少女漫画などそういう現実から離れたものが大嫌いだった。「本当なのに...でも、貰える人は限られているの」「はいはい」まだ、話を続ける美羽を日向は、受け流すように鞄から教材を出しながら軽く答えた。すると、まだ話を続けるのかと思いきや、下を向いてなぜか悲しそうな顔をして、黙る美羽がいた。「え、ごめん。流しすぎた?どんな人が貰えるの?そのノート」日向は、少し反省しながら聞いてみた。「それが...さ...」「ん?」あまりにも美羽の気分の変わりように、さすがに心配をした。しかし、「わからないんだよね」といつもの笑顔に戻りながらそう言ったので、日向は安心しながら「なんだよー」と言い返した。
その後、美羽はその話を続けることはなかった。日向は、興味がないとは言ったものの、なぜかそのノートだけは気になっていた。講義すら耳に入ってこなくて、気づくと、携帯で『夢追いノート』と検索をしていた。隣で、美羽は寝ている。美羽に調べているということが気づかれないように、日向は、こっそり調べていた。関連するものが検索されるものの、『夢追いノート』自体は、出てこなかった。「なんだ...やっぱり、架空のノートじゃん」 と、日向は、一人事を言うと、講義を受け始めた。
その日の講義が全て終わり、美羽は雄太先輩と帰宅するらしく、日向は、一人で帰っていった。日向は、家に帰って課題を進めることにした。どうしても『夢追いノート』の存在が気になって仕方がなかった。そして、夕食の時間。今日は、珍しく家族が全員揃っての夕飯だった。それでも、特に日向たちは、話すことがなく、ただそれぞれが黙々と食べていた。
十五分程、過ぎた頃だろうか、日向の弟がいきなり口を開いた。「ねえ、夢追いノートって知ってる?」(え...それって...)日向は、弟の言葉になぜか血の気が引いて、驚いていた。「なーにそれ?和くん、また何かはまったの?」母親が、笑顔で答える。「和樹、あんた何か知ってるの?」日向がそう聞いた。「何、姉ちゃんも知ってるの?」「知らない、けど気になる...」日向は、一度食べる手を止めてから、もう一度再開をした。「俺の友達が持ってるらしい」日向の弟がそう言うと、「それ、あんたは見たの?」とすぐに、日向が聞いた。「いや、なんかそいつは、人に見せると意味ないんだって言うんだよね、だから余計気になるよ」(人に、見せちゃいけない?ますます意味わからなくなってきた。)日向は、そう心の中で、呟いた。
次の日、あまりにも日向は、気になったので、珍しく日向の方から美羽にそのノートについて聞いてみた。「あのさ、昨日言ってた夢追いノートなんだけど、人に見せると願いが叶わなくなるんだってね」日向は、少し得意げに言った。「何で、知ってるの?もしかして...日向も持ってるの?」美羽は、また急に態度を変えて言ってきた。「いや、私は持ってないんだけど、弟の友達が持ってるらしいの」「え...そっか」「それより、さっき日向もって言ってたけど、美羽も持ってるの?」日向は、さっきの美羽の言葉が頭から離れなくて聞いてみた。「私?持ってないよ。...持ってないから気になるの」美羽のいつもの笑顔がまた戻ってきた。「そっか、そうだよね。もう、美羽がノートの話するから、私まで気になっちゃったじゃん」「確かに、日向がそういうの気にしてるの、珍しいよね」