はじまりはじまり そのに
半端に長かったのでふたつにぶったぎったプロローグ
まだまだ こっからですがボチボチ書こう
神代の時代と呼ばれた遙か昔。
邪神格「星喰らい」はその力をもって、世界を手に入れたと言われている。
邪神と呼ばれるこの神格には、他の神格のような強大な力は無かった。
だが、彼の神格には生まれながらの性質にして、致命的な「能力」があった。
その「能力」故に世界にとっての脅威となり、主たる神格達によって討たれ封じられたのである。
その性質、星喰らいの「力」 それは―
「 ホ シ ク ラ 外周部城壁屋上」
「うん。 うん? 冒険者…?」
半ば呆然としながら少女へ言葉を返す少年は、幼馴染の突然の提案に懐かしさを感じつつも驚いていた。
少女、アイリが突飛な提案をしてくるのは今に始まったことではなかった。
もっと幼かった頃に森へ入ってみたいと言われた際にやむなく実力行使で止めたのはユニである。
大小はあれど、様々な「お願い」をこれまでも時に真っ向から叩き潰し、時に受け入れて叶えてきた。
少年にとって彼女からの「お願い」は慣れたものだ。
だが、今回のソレはなかなかに扱いの難しい案件だった。
「えと、ほら。 冒険者って楽しそうじゃない?だから 一緒になろうぜっ ていうかなんていうか―」
わざとらしいほどに軽く明るい口調で話を進めようとする少女だったが、少年の真剣な表情に徐々に言葉が詰まる。
じっと、見つめあう時間が続く。
ふいと少女が目をそらし俯くと、少年は追撃をかける。
「…で。なにか言い方が違うんじゃないの?」
尋問する際のユニは冷ややかという言うよりもいっそ冷徹にさえ見える。
涼やかなその細面は時に意外なほどの迫力をみせるのである。
「ううう、一人じゃ怖いんですっ! ユニっお願いします 一緒に学校に行ってくださぃぃっ」
アイリは頼れる幼馴染に土下座しかねない勢いで泣きつく。
彼女の「お願い」は正直に言って、かなり無茶なものである。
まさしく人生の一部をよこせと言っているのだから。
「学校って、冒険者学校のことだよな。あのアイリが? すぐ泣く弱虫で、ヘタレで、飽きっぽくて何事も長続きしないアイリが?」
少年の正直な言葉が突き刺さるたびに 身悶えしつつ奇声を発する少女の心は既に打ちのめされる寸前だった。
それでも成さねばならぬことがある。すべてを受け入れた少女は不退転の決意で挑む。
「そうよ! すぐ泣くし、へ ヘタレだし、習い事もあんまり続かないし、うっかりも多いし、おっぱいも大きくならないし… あ やべぇ 泣きそう」
不退転の決意を持ってしても、彼女の涙は止められそうになかった。
「じゃあなくてぇ! 今度こそ 本当にやりたいことなの、私は冒険者になりたい!」
なんとか持ちこたえた涙腺を内心褒めてやりつつ少女は言葉を「自らの夢」を放つ。
確かに自他共に認めるほどに、彼女の習い事は長続きしたことがなかった。
ある時は、旅の吟遊詩人に心打たれ詩歌や楽器の演奏法を、ある時は物語中の舞踏会に憧れダンスを、挙げればキリがない程に興味を持てば片端から教えを乞うたのだ。
末の娘に甘くなってしまう両親のおかげか、求めるままに様々な分野の教師を与えられた少女であったが、早くて一週間、遅くても一ヶ月もすれば飽きて放り出してしまうのだった。
少女、アイリ=ホシクラ は所謂天賦の才能の持ち主だ。
興味を持った技能を貪欲に吸収し、得たものは忘れず僅かな修練で更にその技術を向上させることが出来る、出来てしまう。
彼女の教師達は、口を揃えて更なる研鑽を呼びかけ少女の才能を誉めそやした。
彼女の才能はその技術を伸ばせばどこまで届くのかという夢を教師達に見させるものだったのだ。
そんな教師達とは裏腹に、習得できてしまった技能は彼女の興味を惹くことは出来なかった。
彼女にとって一つの技能を突き詰めるという行為は、それほど意味を持たなかった。
言ってしまえば「物足りない」のである。
そんな彼女にとって「冒険者」の在り方はとても興味深いものだった。
「冒険者」―人によってはならず者や破落戸の代名詞のように思われるかもしれないが、この国では国に認められ教育機関すらある職業の一つだった。
「探索者」や「踏破者」などとも称される特殊な技術職であり、夢見がちな若者達にとって憧れの職種でもある。
アイリは、冒険者とはただの職業ではなく「生き方」であると考えている。
まだ見ぬ土地や文化、遺跡の奥深くに眠り目覚めを待っている秘術や秘宝。
全霊をかけて培った技術ですらそれだけでは足りない、意思さえも力に変えて仲間たちと共に困難を乗り越えてひたすらに前へ前へ。
それこそが少女の求めるものであるように感じるのである。
「まだ見たことのない物がたくさんあるの、行ってみたい場所がたくさんあるの。」
少女の大きな瞳が輝きを放ち始める、少年のよく知る彼女の眼だ。
「全部。全部見たいの、全部欲しいの。 それが冒険者になったら出来ると思う。」
もはやギラギラと輝いている少女の瞳を見つめながら、己の中に宿った燃え上がる何かの扱いを考えていた。
いつだってこうなるのだ。
温度さえ感じさせる視線に晒され、自分でも冷静すぎると自覚している己の心も熱を帯び始めているようだ。
「でも… ごめんねぇ、一人じゃ怖いの。踏み出せないんだよぅ 助けてユニィ」
最高潮に達していた輝きを一瞬で消し去り、不安げな面持ちでこちらを伺う少女。
少年の胸に宿った熱は、しかし、まったく温度を下げず彼の内側を燃やしている。
簡単に決めてしまえる事ではないのは理解できているつもりだった。
ユニは本来、思慮深く慎重な性格の少年なのである。
自分には「森」で尊敬する父と共に狩人になるという道が既にある。
しかし。
そんな顔をするのは、ひどいじゃないか。
卑怯にも程がある、自分がアイリにそんな顔をさせたままにする訳がないのだ。
少年はため息を一つ、唇の端に苦笑を滲ませながら少女へと口を開く。
「ふぅ…。よし、じゃあ何の準備から始めるか―」
神代の時代と呼ばれた遙か昔。
多くの強大な神格達に脅威とされた、邪神格「星喰らい」の持つ「力」
それは、「同属の思いをひとつにする力」だった。
神格でありながら人間の娘として生まれたもっとも新しい神格。
彼女は同属たる人間たちの精神に働きかけ、互いに争っては無為に消費されていく命を拾い上げると全ての人間達に進むべき方向を与えたのである。
争いを無くし、ひたすらに進歩を続ける彼等はまさしく「星を喰らうもの」であり世界にとっての「猛毒」だった。
彼等に罪は無いだろう。
人が知性とよばれる本能を練り上げ駆使すればするほどに星は貪られ、傷ついていく。
だが、そういう存在として生みおとされた事が罪であるはずがないのである。
しかし、神格達にとってそれは認められないものだった。
彼等の創りだしたこの星、この世界の崩壊を加速度的に早める「星喰らい」は邪神であり、打ち滅ぼすべき存在となったのだ。
そして、神話は為る。
世界を滅ぼそうとした邪神は主たる神格達によって討ち滅ぼされ、封じられた。
彼女が愛し守ろうとした人間達にその力の「欠片」を遺し、転生さえも許されぬ永遠の眠りへと点いたのである。
人間達に遺されたのは「思いを繋ぐ力」、自らと他人の間に絆と呼ばれる不可視のラインを繋ぐチカラ
時にその力を常より大きく持つ者が生まれることがあった。
彼等は時代によって様々な呼び名を持っていたという。
「英雄」
「覇王」
「愛すべき馬鹿」
「偉大なるヘタレ」
彼女と彼の旅は未だ始まらず、彼と彼女の物語は未だ紡がれない。
だが、それも時間の問題だろう。
二人は一歩目を踏み出そうとしているのだから。