4回裏:1個目の頂点
11日ぶりの更新ですね。4回裏は少しコメディチックに仕上がってます。浅野監督が壊れますが、気にせずに読んで下さい。
日曜日のグラウンドには、織田茂憲がバットにボールを当てる音、神野信護がボールを投げてキャッチャーの中原剛士のミットに入る音、そして、それを見に来ているギャラリーの声援が響いている。
3日前、監督の浅野がノックの途中で突然大声を上げた。
「あぁーー!!」
浅野の大声にグラウンドでいつものように、練習をしていた皆がびっくりしている。
「いきなりどうしたんですか?監督」
キャプテンになった早崎昌也が代表して浅野に尋ねる。
「昌也か。いやぁヤバいことが起こったんだ。ちょっとだけみんなを集めてくれ。大事な話しがある」
「えっ、ハイ、分かりました」
昌也はそう言うと、息を思いっ切り吸った。
「集合!!」
昌也の声がグラウンド中に響く。
集まるとみんなワケが分からないという顔をしていた。
「一体全体、何なんですか。びっくりしましたよ」
最後に来た相川詩緒が言う。
「ヤバいことが起きた。みんなこれからオレが言うことをしっかり聞いてくれよ」
浅野の周りに集まった信護以外のみんなは、息を呑んだ。
「先に謝っておくけど、3日後から大会が始まること言うのを忘れてた♪スマン」
浅野は悪気が無さそうに言うと、一斉に周りから怒号が飛ぶ。
「いやいや、浅野監督はなんでいつも大事なことを忘れるんだよ!この前も似たようなことがあったじゃんか!」
「「そうだそうだ!茂憲の言う通りだぁ」」
和希と詩緒が揃って言った。
「忘れてた♪じゃねぇよ!オレ達何も準備出来てないですよ!」
「「そうだそうだ!剛士の言う通りだぁ!」」
次は、茂憲と昌也が揃って言った。
「だから、謝ってるじゃないか。大丈夫だ。相手は弱いから今から準備すれば、間に合うぞ」
その言葉に剛士がうなだれる。
「ハァ……そういう問題じゃないです。信護はどうするんですか?アレを見て下さいよ」
剛士はグラウンドの周りを指差した。
浅野はゆっくり周りを見た。
「アレね。アレはシカトしておけばいい」
剛士が指差した先には他の小学校から来たスパイや私立中学校のスカウトがいた。
「スカウトはいいとして、スパイのせいで本気で投げられないんですよ?」
「ふーん。まぁ問題無いだろ?信護」
「ハイ。スパイが来ても、絶対に打たれない自信が有りますし、オレは私立中学に行く気は有りません。」
信護はスパイやスカウトに聞こえるように大きな声で言った。
「だってよ。どうする?剛士」
信護の言い方に浅野は苦笑いだ。
「信護がそう言うならいいですけどね……」
そして、日曜日。いよいよ大会がやってきた。
試合は、2試合とも完封勝ちだった。(実は、信護達は1試合と思っていたが、これも、浅野が言い忘れている)
1試合は信護が先発でもう1試合は昌也が先発だった。
そして、2試合ともコールド勝ちで、信護と茂憲がサヨナラホームランを打った。
「よし。よく勝った。みんなで焼き肉でも食いに行きたいかー!!」
浅野は高校生ク○ズのノリで言った。
信護達は笑いながら顔を見合わせ、答える。
「「「オーッ!!」」」
「どうでもいいけど、アレは絶対酔い過ぎでしょ」
浅野は焼き肉屋で、
「お前結構可愛いなぁ〜。好きだ〜!」
と言って男の店員にキスしようとしている。
「アレはさっき日本酒をイッキ飲みしてたよ。あんな大人にならないように気を付けような」
「そうだね。でも一時はどうなるかと思ったよ」
「オレなんて、大会出場辞退も考えたぜ。って、うわっ!監督?」
信護と詩織が話していると、いきなり顔を真っ赤にした浅野が絡んできた。
「オ〜イ。そこの美少年達ぃ〜。何話してんだぁ〜?オレも混ぜてくれよぅ〜」
「うわっ、酒クセェ。バカオヤジはあっちで寝てろよ」
2人は鼻を摘んで、後ずさりした。
「監督なんか置いて、もう帰ろうぜ」
信護は浅野を足で蹴りながら言う。
「そうだね。みんな、もう遅いし帰ろーか」
それから、数時間後――
「お客様、もう閉店時間ですよ。起きて下さい」
「煩いなぁ〜……ZZzz……」
「起きて下さいよ〜」
この後、焼き肉屋の店長が浅野を起こすことが出来なかったのは誰も知らない。