3回裏:試合開始
試合前、イワシストロングス(信護達のチーム名)は三塁側ベンチに集まって円陣を組んでいた。
「残念ながら、今回は茂憲はいないが信護がいる。前回の雪辱を晴らそう!」
浅野は監督らしく、激を飛ばす。
「はい!!」
ナインが元気よく返事をする。
「スタメンはサードの信護以外はいつも通りだ。先発する昌也は、7回まで投げてもらい、その後信護が抑える戦法だ!」
「はい!!」
ナインがまた元気よく返事をする。
「じゃあいってこい!」
浅野のこの一言でそれぞれのポジションに散って行く。
試合は、5回まで投手戦だった。
初回、一番に入っている名前だけが女の子の詩織が俊足を生かし、ヒットを放つが西田小学校のエースピッチャーは後続を抑え、無失点でストロングスの攻撃が終わった。
三番の信護の初打席は三振だった。
「ふむ。あのピッチャーは、ランナーを出すと球が真ん中に集まるようだな」
6回表に西田小学校の監督は、昌也の投球を見て癖を見抜いてぼやいていた。
5回まで昌也は毎回ランナーを出しながら、無失点に抑えていた。だが、6回になった直後に打たれるようになった。
そしてノーアウト満塁の場面で浅野がベンチから出てきた。
「しょうがない。信護、交代だ」
「えっはい。分かりました」
信護は浅野に突然名前を呼ばれ、びっくりしていたがすぐに内野手が集まっているマウンドへ向かった。
「誰なんだ!あの子は!この前あんな子は居なかったはずだ!」
西田小学校の監督がベンチで叫んだ。
西田小学校が、信護のことを知らないのを抜いても信護のピッチングは圧巻だった。
満塁のピンチをストレートで三者三振で0点に抑えて、その後もパーフェクトに抑えていた。
「すげぇ!てか信護って絶対126キロ以上出てるよな」
キャッチャーをしている中原剛士が言った。
「いや……それが今日の最速は120キロなんだよ。故障かなー」
浅野がスピードガンをいじりながら言った。
試合はそのまま0対0で最終回になった。信護は最終回も完璧に抑えた。
「よし!これで負けが無くなったぞ!」
浅野がみんなを励ますように言う。
ストロングスの攻撃は1番から始まる好打順だ。しかし、1番2番と簡単にアウトになると、最後はいい当たりを放っていた信護に回ってきた。
カキーン
信護が打った球はふらふらっと、キャッチャーの後ろへ上がった。
パシッ
キャッチャーファールフライだった。
「アウト!……ゲームセット!」
審判が試合の終わりを告げると、信護は地面にバットを投げつけた。
「クソォ!また打てなかった!」
和希がうなだれている信護に近寄って信護を慰めた。
「いいんだよ。今日勝てなくても次があるじゃんか。それに、信護は凄かったし」
「次は完璧に勝ってやる!」
信護は西田小学校のベンチに向かって言った。
「じゃあ、今からすぐに帰ってバッティング練習だ」
「はい!!」
その日の練習は太陽が沈むまで行われた。