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2回表:初打席

信護と浅野のキャッチボールは10メートル位から始まったが、5分後には50メートル以上になっていた。

『ほう、これは勇より肩がいいなぁ。これならどこでも出来るな』

「信護、お前はどこの守備につきたい?」

浅野はボールを返しながら言った。

「どこでもいいよ。っていうか、俺は昨日野球を知ったから何も知らないよ」

「本当か?キャッチングが上手いから、てっきり何ヶ月かやってたのかと思った」

浅野はびっくりして手を止めたがすぐに投げ返した。

「知らんなら、今開いてるサードに入ればいい。ピッチャーでもいいがな」




「よし、キャッチボールはもういい。次はバッティングを見よう」

浅野はグローブをベンチに置いて、バットを準備し始めた。

「昌也!ちょっとだけ来てくれ」

昌也と呼ばれた子は小走りで浅野の所に来た。信護よりちょっと大きな子だ。

「なんですか?監督」

「今からこの子に投げてくれ」

「いいですけど、こいつ誰ですか?」

「今日からチームメイトになった神野信護君だ。今度みんなにも紹介するよ」

「へえ、投げてもいいですけど、こいつに僕の球が打てますかね」

昌也は信護を見ながら挑発的に言い放った。

「わからん。信護はまだ野球を知らんからな。多分打てな」

「打ちますよ」

信護は浅野の言葉を遮るように言った。


信護はそう言うと浅野からバットを奪いバッターボックスに入った。

「ふん、打てるもんなら打ってみろ。じゃあ、本気で投げてやるよ」

昌也は信護に言った後、小走りでマウンドへ向かった。




信護は空振り三振。

「やっぱりこんなものか」

『でも野球を始めたばかりにしては、いいスイングだったな』

昌也は物足りなさげに言って練習に戻っていった。


「クソ!打てると思ったのに!」

信護は野球を知って2日目なのに本気で打てると思ったようだった。

「初めてバットを握ったのに、打てる訳がないだろう。」

それまで黙っていた勇が口を開いた。

「浅野監督、アイツの名前ってなんですか?」

「あの子の名前は早崎昌也で、5年生だ。一応このチームのエースピッチャーだ。信護が打てなくて当然なんだよ」

「えっ?なんで?」

信護は三振したのがよっぽど悔しいらしく、バットを何回も振りながら言った。

「昌也は前の大会で強豪校相手に1失点で抑えたヤツだよ。試合には負けたがな」



「監督、アイツってどこを守らせるつもりなんですか?」

昌也が練習後に浅野に聞いた。

「ああ、言ってなかったか?サードかピッチャーをさせるつもりだ。まぁ結構いいスイングだったよな」

「そうですね。三振はしたけどまあまあのスイングでしたね」


昌也はわざとらしく答えた。

「まぁそう言うな。あと少しでバットに当たりそうだったじゃないか。」

「あんなヤツ、次も三振取りますよ。」



「信護、そろそろ家の中に入りなさい」

「嫌、練習しなきゃ早崎昌也も他のピッチャーも打てないよ」

信護は家に着いたらすぐに庭でバットを振っていた。

「マメが痛くないのか?」

「痛いかも……」

信護は振るのを止めて自分の手をみた。マメが2、3個破れていた。

「じゃあ、止めとけ後がキツいぞ。それに眠いだろ?」

「うん、眠い。」

「なら、サッサと、飯食って風呂入って寝ろ。今度から野球をチームでするんだぞ」

勇は珍しく強い口調で言った。

「わかった……」

信護は家の中に入っていった。




その日の夜、勇は妻の佐知子に愚痴を言っていた。

「はぁ、信護は先が長いのに、どうして急ぐんだろう」


「あなたに似たんじゃない?」

「そうかなぁ?まぁ似たんなら天才になる」



勇はこの一言が将来本当になるとは思ってもいなかった。


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