6回表:未来への布石
超珍しく2日連続の投稿です。
まだ4月だというのに、暑かった。
グラウンドには空からの容赦ない太陽光が燦々と降り注ぎ、土のすぐ上には陽炎が揺らめいていた。
グラウンドから見える遠い山々の更に遠くには巨大な入道雲があった。
その暑い中、グラウンドではバットを振る音や野球部の元気な声が響いていた。
朱佐多中学校の野球部は伝統で入部テスト的な体力テストがある。50メートル走に始まり、遠投、持久走をして、野手はバッティングと守備を投手はピッチングをした。
信護たちと同い年に見えない閃は足が速く守備も上手く、更にミートも上手かった。
ピッチングの時に127キロを出した信護は先輩と監督に目を付けられたようだった。
「アイツは誰だ?」
と、監督が隣に立っているマネージャーのような人に聞く。
「神野信護ですね。小学校時に県大会まで進んでいます。あ、そのメンバーはほとんどウチに来てますね。さっき出た127キロが自己最速で、県大会では打率6割で防御率は0点台です。ノーヒットノーランを3度ほどしてます」
マネージャーのような人はファイルを捲りながら答えた。
「ほお……神野!あと10球投げてみろ」
「はい」
信護が言われた通り10球投げると、すぐに監督が近寄ってきた。
「神野。お前はちょっとだけフォーム調整するだけで球速が上がるぞ。キレも出るようになる。してみるか?」
「えぇっ。マジですか?出来るならやりたいです!」
「OK。神野の悪い所は3つだ。まずお前は腕だけで投げている。全身を使って投げろ。やってみろ」
監督は投げるジェスチャーをしながら、話す。そしてボールを投げ渡した。
「全身って……?」
信護は混乱して首を傾げた。
「自分で考えろ。2つ目は出来るだけ体勢を低くして投げろ。その為には強靭な下半身が必要だ。
3つ目は投げる瞬間に体が傾いている。だからボールに威力が伝わってない。
2つ目と3つ目を直す為には走れ。走って走って走りまくれ。走れば下半身が安定する」
信護はそう言われてすぐに家の近くの地図を頭に浮かべた。しかし走る場所が見当たらない。
「走るってどこを走ればいいんですか?近くに広い公園は無いですよ」
「普通の道路でよかろう。犬を飼ってれば散歩ついでに走れ」
「え〜〜?犬なんか飼ってないっすよ。道路で走ってたら襲われちゃいます♪」
実は、信護は持久走が苦手だったのだ。だから、どうにかして逃げようとしていた。
すると、監督の鉄拳が飛んできた
「ばか者!そんなでは強くなれんぞ!場所が無いなら学校で走ればいい。儂が直々見てやる。毎日朝5時だぞ」
信護は脳天に鉄拳を受け、悶絶していたが監督の一言で顔を上げた。
「はぁ?マジかよ。ぜってぇイヤだ〜」
「ふん。もう決定事項じゃ。たが、そんなに走りたくないなら……」
「なら?」
信護は最後の希望に賭けて目をキラキラさせる。どん底に突き落とされるのを知らずに――。
監督は子供のような満面の笑みを浮かべ、言った。
「夕方の練習が終わった後も走っ
「うわ。はいは〜い!学校を朝だけ走らさせて頂きます」
信護は次の言葉がイヤな予感がして、監督のセリフを途中で遮った。
「決まりだな。明日から毎日朝5時に学校集合。遅れたら――だからな。連れて来たい奴が居れば連れて来ていいぞ。じゃ、他の奴も見ないといかんから、さっき言った事に注意して頑張れ」
信護はグラウンドの端のマウンドに一人だけ残された。
「はぁ……」
(えっと、全身って?誰かに訊いてみよ。出来るだけ低くか……これならできそうな気がするなぁ)
信護は心の中で言われた事を思い出してみた。そして、小学校からバッテリーを組んでいる中原剛士を呼んだ。
「つーよしー!ちょっと来てー!緊急事態発生ー!」
剛士はノックを受けていたが、直ぐに飛んできた。
「どうした?何があったんだ?」
「ん?特に何も無いけど、投げたいからあっち座って?」
剛士は肩を上下させて、心配そうな声を出す。
しかし信護は悪気も無さそうに返して、キャッチャーボックスを指差した。
「何だよ。そんなことかよ。心配させんな」
と、いいながら剛士は素直にキャッチャーミットを構え、ボールが来るのを待った。