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目覚め

「……っ」


 湿った土の感触によって狭間浩一は目を覚ました。最初に目に入ったのは灰色の空。いや、正確には空ではなく葉を失った真っ黒い木々が、複数ある腕のように天へ向かって伸びていた。


「ここは……?」


 身体を起こした浩一は周囲を見渡したそこは森であるが、浩一が知る一般の森とはまったく異なり、周囲の木々は途中から折れ、または根元から倒れている。幹が真っ黒に炭化した樹木も少なくなく地面には大きな窪みがいくつも存在し、抉り取られたような土も周囲に散乱しており、今自分自身がいる場所はまるで何度も戦争に巻き込まれた跡のようだった。


「な…なんなんだ?どうして俺はこんなところに…!?」 


 浩一の脳裏に誘拐される直前の光景が浮かんだ。


「…っそうだ、真奈美!」


 反射的に妹の名前を叫ぶが返事はない。 さらに......


「カティア!」


 浩一はもう一人自分たちと一緒にいた少女の名前を叫ぶが、先ほどと同じく返事はない。


 苦しそうな表情を浮かべたカティア……あと少しだった。もう少しで終わるはずだったのだが、その直後にチャイムが鳴ったので玄関へ向かった。


 そして――。

 

 何人もの警官が家を取り囲み、自分と真奈美を犯罪者でも見るような目で見ていた。その後の光景は今でも鮮明に覚えている。身に覚えのない罪状で自分たちを一方的な拘束し、抗議も聞き入れられないまま連行されてしまった。それからの記憶が途切れ、目を覚ましたら見知らぬ土地にいた。


 なぜ自分たちを捕まえたのか?そして真奈美とカティアは無事なのか?分からないことだらけだが一つだけ確かなことは、あのカティアを放置しておくのは危険だということだった。こんな訳の分からない場所で立ち止まっている暇はなく、まずは二人を探さなければならない。


 その時、突如として耳の後ろに貼り付けられていた何かが微かに震えた。


 ピッ――という電子音が鳴る。


「……何だ?」


 指で耳の後ろに触れた瞬間、浩一の背筋が凍りついた。それは硬い金属の感触であり、こんなものを付けられた覚えはない。

 

 誘拐、見知らぬ森、行方不明の真奈美とカティア、そして正体不明の装置と意味不明なことが多くて浩一は混乱していた次の瞬間、頭の中へ直接響くような無機質な声が流れ込んできた。


『この島すべてにいる参加者諸君、目覚めを歓迎する。』


 浩一の頭の中へ直接響く無機質な声に、思わず両耳を押さえた。


『諸君らは我々の厳正なる選定の結果、ネルヴァ島代理戦争へ、兵士として参加資格を得た』


「代理戦争……?」


 聞き慣れない単語に浩一は眉をひそめる。


『諸君らは本作戦において敵性戦力として認定されたことにより、東ドラリュード共和国および西ドラリュード共和国はこれより諸君らを排除する』


「排除……だと?」


 浩一の頭に嫌な予感が胸をよぎるが、その後も機械音声は淡々と説明を続ける。


『島の周囲は我々の軍ですべて封鎖しているため、この島からの脱出は完全に不可能であり、この戦争に降伏制度も捕虜制度も存在しない』


 あまりにも理不尽で恐ろしい内容に、浩一の全身に冷たいものが走った。


『諸君らは戦争資源であり、この戦争の犠牲となることで、両国の平和が保たれることになるだろう。説明は異常だ。それでは――ネルヴァ島代理戦争を開始する』


 一方的な通信はそこで途切れ、残されたのは周囲から聞こえてくる風の音だけだった。


「…………は?」


 頭が理解を拒絶し、数秒間浩一はその場から動けなかった。代理戦争?排除?戦争資源?言葉の意味は分かるがそのすべてが全く理解できない。まるで悪趣味な創作物の説明でも聞かされているようだった。

しかし現実感のない言葉とは裏腹に、指先に伝わる金属の感触だけは妙に生々しかった。


「ふざけるな……」


 震える声が漏れるが、怒りをぶつける存在は周囲のどこにもいない。


「なんなんだよこれは……!」


 意味が分からない。戦争?排除?平和のための犠牲?そんなもの知ったことではない。自分には全く関係ないし、ましてや誰かのために殺される覚えなど一切ないし何より。


「真奈美……」


 春休みも終わり中学に入学予定だった真奈美も、自分と同じく意味も分からなく突然こんな場所に放り込まれていたら、当然平気なはずがない。 


「カティア……」


 真奈美も心配だがカティアに至っては、まったく別の意味で不安だった。無関係な人が今の彼女に接触してしまったら、最悪の場合、方にとって取り返しのつかない事態になる可能性すらある。正直何が何だか分からないことばかりだが、確かなことはここに留まるべきではなく、立ち止まって考えている時間はないということだ。そして真奈美とカティアを探さなければならない。浩一は大きく息を吸った。


「待ってろ真奈美、カティア。絶対に見つけ出してやる」


 そう決心し、行動に移そうとしたその時だった。


 パンッ!森のどこかで乾いた音が響いた。


「っ!?」


 その音を聞いた直後、浩一は反射的に身を低くする。明らかに銃声であり、それも創作物で聞く音ではなく、空間を震わせる生々しい発砲音であった。


「ぎゃああああああああっ!!」


 遠くから人の悲鳴が響いた。それは男のものか女のものかも分からないが、恐怖と苦痛に満ちた叫びであることだけは分かった。そして悲鳴がやみ、周囲に静寂が戻るがそのすぐ……


 ドォンッ!!


 地響きを伴う爆発音が島のどこかから響き、木々の間から黒煙が立ち昇るのが見える。先ほどの説明が浩一の脳裏をよぎる。まさかそのすべてが本当に――それを証明するかのように。


「……」


 浩一は理解する。これは夢でも悪質な演出でもなく、この島では今まさに殺戮が起きているのは明らかであり、説明であった代理戦争は既に始まっているのだ。浩一は焼け焦げた森の奥へ向かって駆け出した。その先で、自分の……いや自分達の運命を大きく変える出会いがあるということに、この時まだ知らなかった。

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