狂裂逝男と冷凍食品
「……お湯は?」
コンビニでカップラーメン用のお湯切れをぶたにんげんの店員に指摘する狂裂逝男。
「後ほど対応いたします」
瞬間。逝男の蹴りが店員の顔面を破裂させ、カウンター内が血で激辛ラーメンの汁をぶちまけたかのようになる。
これが逝男の日常だった。
狂裂逝男は「超人」である。
現在八十億人いる人類の中で、一億人が「超人」で残りは全て「ぶたにんげん」だ。
七十九億人の「ぶたにんげん」は意思を持たず、空っぽの社会を形成する。
そして逝男は日々「ぶたにんげん」を殺し、「ぶたにんげん」から奪ったもので生活を維持していた。
そんな逝男の傍若無人な振る舞いは、同族である「超人」にも度々向けられた。
ある時にはホットスナックの奪い合いで「超人」を殺し、ある時は回転寿司でレーンを独占している「超人」を殺した。
「おい。お湯を使い切ったのはお前か」
「なんだてめえ。『超人』か? 店員に補充させればいいだろうが」
コンビニから出てきた逝男は、お湯を注いだカップラーメンを大事に抱えた男を呼び止めた。
その男も「ぶたにんげん」と異なり自由意思を持つ「超人」だった。
「店員は殺した。もうお前から奪ったほうが早い」
そう言うや否や、ぶたにんげん店員の頭部を破壊した足で蹴りかかる逝男。
逝男もそうだが、超人は欲求や暴力性が強く出る傾向にある。
対してカップラーメンの超人は、上体を大きく反らして回避。
アスファルトすれすれの姿勢を維持しながら男は笑った。
「馬鹿じゃねえのか。どこの野良犬だ」
「狂裂逝男。フリーだ」
「そういうことかよ。じゃなきゃあこの炎魔大王に喧嘩を売るわけがねえから……な!」
背中から炎を噴射した「超人」……炎魔大王が肘からも炎を吹き出させ、顔面にカップラーメンを叩きつける。
その一撃はラーメンの汁で逝男の顔を汚しながら、頭部を首から切り離した。
「へへ、直接食わせてやったぜ」
麺と血に塗れて倒れる逝男を見下ろして、炎魔大王は犬歯をむき出して笑った。
「それにしてもこんな間抜けが突っかかってくるようじゃあ、俺たち東京大鏖殺会もまだまだだな」
「なんだ。東京大鏖殺会か」
東京大鏖殺会は逝男が以前壊滅させた関東超人連合から離脱した「超人」が立ち上げた組織だった。
既に逝男に背を向けていた炎魔大王は驚き、振り返る。
そこに先ほどもげたばかりの逝男の頭部が急接近していた。
咄嗟の判断で炎魔大王は両手から炎を放ち、逝男の頭部を焼き払う。
焼け残った骨片が次々と炎魔大王の身体に突き刺さった。
「てめえ……やりやがったな……!」
炎魔大王が見たものは頭部が完全に再生しきった逝男だった。
逝男は蘇生した瞬間、手元にあった自分のもう一つの頭を全力投球したのだ。
「てめえか? 関東超人連合潰したイカれの再生超人は」
「もったいねえだろうが」
「あ?」
聞き返した炎魔大王に逝男は麺を握りしめた拳を突き出した。
「限定の味噌ラーメンだろ。もったいねえんだよ」
「やっぱりてめえが狂裂逝男か。ここで殺しゃあ東京大鏖殺会の名前に箔が付く」
「十二軒回って買えなかったんだぞ」
逝男の言葉を無視し、炎魔大王は臨戦態勢に入る。
両手をかざし火炎を放射する構え。
対する逝男は絶大な再生能力を持つ両腕をクロスさせて突進する。
業火が逝男の背後にいた「ぶたにんげん」ごと焼き尽くす。
逝男の腕は燃え、炭化し、再生し、燃えるというサイクルを繰り返している。
全身への炎を防ぎながら進撃する逝男。
炎魔大王が逝男の拳の射程圏内に入ったとき、炎魔大王が再び犬歯をむき出しにする。
そのまま大口を開けて全力の炎を逝男に浴びせる炎魔大王。
両腕の炎の威力も増し、一気に逝男を焼却する。
逝男の再生能力を超えた火炎により、逝男は灰すら残さず崩れ去った。
「あっけねえ! やっぱり関東超人連合は無能揃いだった。切り捨てて正解だったぜ!」
炎魔大王は高らかに勝利を宣言した。
──そして胸を突き破って生えた腕に貫かれ、倒れる。
「……は?」
それが炎魔大王の最期の言葉だった。
腕を起点として一体の狂裂逝男が炎魔大王を突き破りながら発生し、体内から破裂させたからだ。
狂裂逝男は肉片の一つから全身を再生することができる。
それ故、灰すら残さずに焼き払った炎魔大王の判断は正しかった。
だが彼は自身の胸に突き刺さった逝男の骨片のことを忘れていた。
焼け残った骨は逝男の再生の起点となり、内部から炎魔大王を破壊したのだ。
高熱を発する炎魔大王の死体をしばらく眺めた逝男は、何か思いついた様子でコンビニに踵を返す。
店員が殺害されたコンビニの店内を「ぶたにんげん」の行列が埋め尽くしている。
彼らはいつまでも店員の来ないレジの前で待ち続ける。
それが「ぶたにんげん」という存在だった。
逝男は邪魔な「ぶたにんげん」を殴り殺しながら、冷凍食品の陳列された棚から冷凍ラーメンを引っ張り出した。
そして炎魔大王の残骸にパッケージごと冷凍ラーメンを突っ込む。
普段住処に電気もなく、ガスコンロも壊れていた逝男は、久しぶりの冷凍食品を堪能するのだった。




