宇宙のどこかで、風鈴が揺れる
「なろうラジオ大賞7」参加作品です。
昔から、兄弟子が嫌いだった。
適当で、モノづくりへの愛もない。師匠は何故こんな奴にも教えを施しているのか、謎で仕方がなかった。
地球で風鈴を作っていたとき、一度だけ師匠が兄弟子を本気で叱った。
「モノづくりはお前みたいな生半可な気持ちの奴がやることじゃない」
「お前の作品が職人のものだと言うなら、世の中の大半の人が職人になっちまう」
そう言って、兄弟子を工房から叩き出した。私は痛快だった。ムカつく兄弟子をこてんぱんにした師匠への尊敬の念は、膨れ上がる一方だった。
だが数日後、兄弟子は工房に戻ってきた。特段態度に変化もなく、悪びれる様子も見せなかった。許せなかった。
やがて師匠は亡くなった。私は泣いた。兄弟子は涙一つ流さなかった。
その翌年、「人類宇宙移住計画」が始まった。人類に特別な処置を施し、空気が無くても生きていける体にするのだそうだ。
宇宙への移住は強制で、拒否なんてできなかった。
偶然にも、移住先の星は兄弟子と同じだった。
それから私は手先の器用さを活かして、機械を作る仕事に就いた。ものづくりの仕事なんて、必要ない。
――宇宙での生活にもなれた矢先のことだった。
「神崎さんが倒れました」
そう伝えにきたのは、隣の家に住む男性だった。
神崎さん……一瞬考え込むが、兄弟子の名前だったと気がつく。
病室につくと、兄弟子は眠っていた。心臓も動いていなかった。
――あんな奴だったのに、あっけない最後だ。
テーブルの上に、封筒が置いてあった。見覚えのある字で、私の名前が書いてあった。
「この手紙を読んでいるということは、僕はもうこの世にいないのでしょう」
兄弟子はなにもかも適当だったが、字だけは達筆だった。
「僕は僕なりに、モノづくりを、風鈴を愛していました」
「元々は、嫌いでした。けれど、一度師匠に叱られてからはその素晴らしさに気づいたんです」
……嘘だ
「態度を変えるのが気恥ずかしくて。誤解させて申し訳ないです」
「あなたは、僕のことが嫌いだったでしょう。ですが、僕の風鈴への愛は、信じてはいただけないでしょうか?」
手紙は、そんな文で締めくくられていた。
こぼれる涙に、気づかないふりをした。
――ねぇ、兄弟子。私、やっぱりお前のことが嫌いだよ。
もう会えなくなってから、いい奴になるところとか、ね。
涙が頬を伝って落ちる。
チリン……
窓際に吊り下げられた風鈴が、鳴った気がした。
宇宙には風鈴を揺らす風も、音を伝える空気もないのに。




