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4話『新たな決意』

 それから数日間すっかり気落ちしてしまい、また冷えた身体で寝たことも災いし、風邪で盛大に寝込んだ。


 それでも長年繰り返された日課は身体に染み付き、高熱に見舞われなからも毎日いつもと同じ時間に目が覚める。


 シスターには心配をかけ、喪失感を紛らわしたくて掃除をしようと起き出しては、孤児院に住む年嵩の子供たち自分達がするから寝ていろと怒られた。


 洗濯をしようとしていたらまた見つかり、泥んこまみれの手で、お見舞いに小さな青い野の花を摘んできてくれた小さな孤児達を見張りにつけられてしまった。


 王宮の騎士様の真似をして部屋の入り口を護る小さなナイト達は可愛かったが、一人になるとどうしてもレオのことが頭を占める。


 野菜が苦手なレオはちゃんとご飯を食べているのだろうか。


 彼の不器用な優しさはなかなか伝わらないのにひとりで全てを背負い込み無理をするのだ。


(そのくせ口は悪くて可愛くないし、寝起きは悪いし、目付きが悪くて柄の悪い人たちに絡まれて、私が仲介に入らなければ殴りあいに発展してたはず!)


 哀しみが次第に薄情者の幼馴染みに対する怒りに変わっていく。


「私になんの相談もなしに遠くにいこうなんてレオの癖に生意気なのよ! 絶対に一発殴ってやるんだから!」


 いつの間にか怒りに握りしめた右手を、勢い良く左手の平に当てるとパァンと言う破裂音が部屋に響いた。 


「なぁんだ、レオが居なくなってもっと落ち込んでるかと思ってたのに、意外と元気そうじゃない」


 ノックもなしに部屋へと入って来たのは、昨年成人を迎えて一足先に孤児院から独立していったリアだった。


 この王都から勇者と聖女と魔王が同時に現れたことは知っているようだが、レオが失踪した理由は知らないらしい。


「部屋に入ってくる時はノックしてって昔から言ってるのに、リアは全然変わらないね、レオへの怒りで今さっき立ち直ったばっかりだよ」


 ニッコリ微笑めば、リアは肩をすくめてみせる。


「まぁ、これなら心配しなくて良かったかもね。 はいこれお見舞いと成人おめでとう!」


 どさりと私のベッドに座ると、ごそごそと小さな肩掛けの鞄をガサガサとあさりだした。


 鞄から取り出したものを手渡してくる。


 それは色々な糸を複雑に編み込んだ髪を縛るための髪紐だった。


「わぁ、ありがとう!」


 嬉しさにリアに抱きつけば、すっかり女性の身体に成長していて柔らかい。


「はぁ、全くこの子は……成人したのは歳だけね」


 両頬を左右に引っ張られで、ジンジンと痛む頬を護るように両手で庇った。


「それで? ジョブスキル授かったんでしょ、どうだったの?」


「授かったは授かったんだけどね……」


「なによ、もったいぶって教えなさいよ。 あんた器用だから良いジョブスキル貰ったんでしょ?」


 キラキラとした期待のこもった瞳で見詰められてたじろぐ。


「あー、ジョブスキル? うん、たしかに珍しいスキルだよ」


 あんまり聞いてほしくなくて、視線をそらしつつ答えるけれどリアの追及の手は緩まない。


「珍しい? なになに!? すごく気になるんだけど!」


 ぐいぐいと距離を縮められて、リアはきっとエミーが話すまで追及し続けるだろうし、早々に降参の白旗をあげることにした。

 

「ジョブスキル……だったの」


 他の人に聞かれたくなくて小声で話した。


「えっ? 聞こえなかったんだけどもうちょっとはっきり喋って」


「だからき…か…だってば!」


「いやいやいや、きこえません! はいもう一回!」


「肝っ玉母ちゃんってジョブスキルだったのよ! 悪い!?」


 何度か聞き返されて、後半は半ば叫ぶように言っていた。


 はぁはぁと荒い呼吸を繰り返せば、よほどエミーのジョブスキルが笑いのツボだったのか、ヒイヒイ良いながらリアが笑っていた。


「あはははっ、レオに惚れてるくせに無自覚で、そのくせ周囲にはバレバレで」


(えっ? レオが好きだったとついさっき自覚したのに、私がレオに惚れてるって皆が知ってるってどういうこと!?)

 

「鈍感で面倒見が良いのか御人好しなのか、お付き合いすらしたことがない生娘なのに、貰ったジョブスキルが『肝っ玉母ちゃん』ってあんた面白すぎじゃない?」


 ボフボフとベッドを平手で叩きながら、爆笑するリアを恨めしげに睨み付ける。


「私が一番気にしてるの、うー……初恋は気がつけば終わってるし、これからの将来を左右するジョブスキルは肝っ玉母ちゃんなんてふざけたスキルだし。 神様に嫌われてるとしか思えないんだけど」


「まぁ良いお母さんにはなれるだろうね」


「好きだって自覚した途端に、旦那さん候補が消えたけどね、せめて肝っ玉母ちゃんじゃなくて良妻が良かったよ切実に……」


 やばい、また落ち込んできた。


「元気だしなって、嫌でも残りの人生ジョブスキルとは付き合っていかなくちゃなんないんだしさ、落ち込んでるのあんたらしくないって、私が好きなエミーに戻って?」


 そう言って頭を撫でてくれるリアのお腹に抱きついた。


「部屋に引きこもってたって落ち込むだけだし、熱も下がったんでしょ? なら一緒に街へ行こうよ、魔族の襲来で結構壊れちゃったけど近々勇者一行が魔王討伐の旅に出るってんで大騒ぎなんだから」


 魔王討伐の言葉にハッと顔をあげて、リアの顔を覗きこむ。


「そこんとこもう少し詳しくお願い!」


 


 

 

 


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