3話『自覚は失恋と共に』
魔族の急襲と新たな魔王の出現に王都はお祭りどころではなくなってしまった。
ぐちゃぐちゃになってしまった広場で、しばらく動くことが出来なくて、水溜まりの上に座り込みレオが飛び去った空を見上げ続けた。
どれくらいそうしていたのかわからないけれど、誰かに腕を掴まれ無理やり立ち上がらされて広場から放り出されたのは覚えている。
降りやまぬ雨に体温を奪われるのも気にせずに、ぼんやりとただただ歩くだけ。
頬を伝う雫は雨なのか、涙なのかわからない。
どのようにして孤児院まで戻ってきたのか記憶は曖昧だけど、きっと身体が覚えていたのだろう。
濡れて冷えきった身体を満足に拭いもせずに、着替えだけ済ませる。
心配して話し掛けてくれたシスターにも杜撰な対応をして、与えられた相部屋の自分のベッドへ倒れこむ。
「どうしてこうなるのよッ……」
枕元に常にある古布で作られた人形を手にとって、懐深く抱き締めた。
何年前に期間限定で農家の収穫の仕事を職業斡旋所からとってきたレオが、自ら働いたお金の殆どを孤児院に寄付し、僅かばかりしか手元に残らなかった銀貨で行商人から買い取り、私に贈ってくれたエミーの宝もの。
薄い掛布を頭まで引き上げて唇を噛み締めれば、鉄の味が口の中に拡がった。
『またそうやって唇を噛む、なんでも抱え込んでねぇで俺に言えば良いだろう』
そんなレオの声が聞こえたような気がして飛び起きる。
「レオのバカ、レオのアホ、レオ……私も連れていきなさいよねっ……」
とめどなく溢れてくる涙と泣きすぎて腫れぼったくなった顔、頭はガンガンするし目が回る。
ドタンバタンと廊下を走り飛び回る孤児達の騒がしさはいつもと変わらない。
『このバカ、ちゃんと身体拭かないと風邪引くぞ?』
そんな声が聞こえたような気がして、顔をあげて声の主を探しても、そこにあるのは空虚だけ。
エミーに小言を言うために訪ねてくる、うるさい母親みたいなレオがいない……
「レオ……」
色々有りすぎて疲弊した身体は、精神的な負荷も加わり限界をむかえ、気を失うように夢の中へと力尽きた。
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