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12話『離脱の陰で』IN勇者サイド


 グランツォ王国に代々将軍を輩出している武官の名門バラデュール侯爵家の次男バスティアン・バラデュールとして生を受けた。


 同じ歳のギルバート・グランツォ王太子殿下の最側近候補として護衛もできるようにと心身ともに精進してきた。


 ギルバート殿下は見識を広めるためにと城下町にお忍びで出向かれる積極的な方で、陳情や報告書に書かれている内容が正しいのかを、可能な限り自身で確認してから処理する慎重で真面目な王太子殿下だ。


 そんな慎重派のギルバート殿下と、殿下の婚約者であるアンリネット・クシュリナーダ公爵令嬢と共に成人の儀式を迎えることとなった。


 やはりというかなんというか、ギルバート殿下は王の跡継ぎとしてこれほどふさわしいものはないと言えるジョブスキル『賢王の雛』を授かった。


 そしてなぜかバスティアンは『勇者の雛』という伝説でしか聞いたこともない物騒なジョブスキルを授かった。 


 なぜ伝説でしか聞いたことがないスキルなのか、それは『勇者の雛』は必ずと言っていいほどこの世を破壊と混乱に導くという『魔王』の対として現れるものだからだ。

 

 なぜ自分がそんなジョブスキルを授かったのか、理解する暇もなく、殿下の婚約者で幼なじみのアンリネット・クシュリナーダ公爵令嬢が『聖女の雛』という、これまた伝説級に珍しいジョブを授かった。


 何かがおかしい、これまで『勇者の雛』と『聖女の雛』が同時に存在したことなどグランツォ王国建国前の歴史書を捜してもそのような事例は発見することは出来なかった。


 色々と考え事をしていた時、平民のジョブスキルを確認していた方角から嘲笑が広がり、広場に爆笑が広がっていった。


 何があったのかは知れないが、外れと呼ばれるジョブスキルを卑下する風潮があるのだ。


 内容まではしらないが……他者のジョブスキルをあざ笑う心根の醜いものが、屋外の広場中に聞こえるほどの人数存在してしまっている事実にいら立ちが募る。

 

 そんな中、騒ぎを気にすることなく黙々とジョブスキル授与の儀式を行っていた助祭の一人が倒れ、貴族の子息令嬢を相手にしていた大司教様が黒髪の少年に近づいて行った。


 バスティアンはその少年に見覚えがあった。


 たしか城下町の孤児院に視察に行った際に見かけた少年ではないだろうか……


 儀式を進めるうちに晴れ渡っていた筈の空が急速に曇り始め、大粒の雨が落雷と共に辺りに降り注ぎはじめた。


 神の怒りに触れたのだろうかと思うほどに荒れ狂う天気から人々が逃げ惑う。


 さすがギルバートはアンリネット嬢を背中にかばいながら、貴族の令息令嬢を儀式の舞台から避難させているようだった。


 雷雲から黒く艶やかな鱗に覆われた伝説の暗黒竜が。広場周辺の建物を破壊して、孤児院の少年のもとへと降り立つ。


 止めるまもなく、大司教様をその巨大な口で噛み殺すと、暗黒竜に従うように、雷雲から次々と魔物が現れ、落雷でもその場にとどまっていた人たちを、一気に恐怖のどん底へと突き落とした。

 

「魔王陛下、お迎えに上がりました」


 人化出来る魔物は小国を一人で滅ぼすほどの強大な力を持つ、そんな魔物が四人……レオの目前で忠誠を誓う騎士のようにひざまづく付き、暗黒竜の姿が陽炎のように揺らめいたと思えば、人化した暗黒竜が人化した四人の前に出て少年に頭を垂れる。


「魔王? あの少年が魔王だと!?」

 

 目の前で行われるやり取りに身体が震える。規格外な邪悪な魔力に圧倒され息をのむ。


 よくよく見れば魔王の気に充てられて意識を失って倒れているものも多数いる。

 

 混乱極める広場で魔物たちと泥にまみれて懸命に騎士たちが戦いを繰り返しており、そこはまるでこれから起こりうる魔族と人間の凄惨な戦いを暗示する最前線の戦場のようだった。


 キエェェ!


 空から舞台の上のギルバート殿下を狙うように舞い降りてきた怪鳥を所持していた剣で斬り伏せる。 


 この地獄がいつまで続くだろうと言う恐怖を感じながら、神から授かった『勇者の雛』と言うジョブスキルが重くのしかかる。

  

「魔物を引け、俺もともに行く」


 まだ幼さの残る、けれど魔王として覚醒したからだろう威圧を含んだレオの声が喧騒の中でもハッキリと聞こえた。


「よろしいので?」


 レオの言葉にそばに控えた竜人が答える。


「この国には俺の大切なものがある。 これ以上傷つけることは許さない」


 レオの怒気をはらんだ声に、竜人は人化を解いて本来の暗黒竜の姿に戻った。


「我が主の望みのままに」


 そう言って地面に巨体を伏せた暗黒竜に騎乗し飛び立った魔王を追うように、四方で暴れていた魔物たちが一斉に王都から離れていく。


「殿下! ご無事ですか!?」


「あぁ……大丈夫だ、しかし勇者に賢王、聖女と魔王までこの場で現れるとは……魔物は去ったが今は怪我をした民を救うのが最優先だ。 手伝ってくれるかバスティアン」


「もちろんです」


 

 ****************


「怪我人を出来るだけこちらに集めてください!」


 どうやらアンリネット様が既に軽傷の兵士や市民に働きかけて怪我人を集めていたらしい。


 自力で治癒可能な怪我人は、身分関係なく応急処置を施されている。


 治癒系のジョブスキルを持っているものたちはもう少し酷い、完治まで時間がかかるだろう傷の者を完全に治すのではなく、応急処置で済むレベルまで治癒していく。


 なにせ怪我人が多すぎて完治まで対応していては魔力が直ぐに底をついてしまう。

  

 一刻を争うような重傷の者は次々とアンリネット様のそばに運ばれて『聖女の雛』のジョブスキルで治癒を受けている。


 腕がなくなった者は新しい腕が再生し、魔物の爪に掛かりかろうじて息がある者がみるみる回復して行く。


「凄いな……これが『聖女の雛』の力か」


 口から出たのはありきたりかもしれないが感嘆の言葉、そして神々しいアンリネット様の姿に見惚れてしまった。


「ギルバート殿下! バスティアン様! お怪我は!? 」


「あぁ問題ない」


「それは幸運でしたね、お怪我がないならばそんな所で呆けておられずに、手伝ってください!」


 ピシャリと告げられてギルバート殿下と目を合わせると、苦笑いを浮かべながら二人でアンリネット様の元へと駆け出した。


 ………………………………


 それから間を置かずに魔王討伐軍が編成されることになり、当然のようにバスティアンはアンリネット様とともに討伐軍に配属された。


「納得いきません! なぜ王太子であるギルバート殿下までも魔王討伐軍に参戦されるのですか!?」


 憤りを抑えられずに声を荒げたバスティアンにギルバート殿下が苦笑いを浮かべた。


「どうやら私が『賢王の雛』のジョブスキルを得た事を王妃殿下がよく思われなかったようだ、あの方はご自分のお子である弟に王位を継がせたがっているからな」

 

 ギルバート殿下は側妃様から産まれた王子だ。


 長らく王妃殿下との間に子ができずにいた国王陛下は、後継者を望む貴族達の熱意に負けてギルバート殿下の亡き母君を娶られた。


 ギルバート殿下が十歳になり、王太子として指名された翌年王妃殿下の妊娠が判明したのだ。


 陛下の夜のお渡りがすっかり減っている中での妊娠発覚に不義の子ではと噂されていたが、陛下が否定したことでそれ以後悪意の噂は沈静していった。


 殿下の十二歳の誕生日、側妃である母君が毒でお亡くなりになり、目の前で母君を失われた心労から味覚が失われてしまった…… 


 王家お抱えの高名な治癒術師でも心の病からくる味覚障害は直すことが出来ず、殿下は今も食に興味がない。


 身体を維持するために食べるだけ……


 側妃が亡くなってからギルバート殿下の身辺警護は強化され、今日まで暗殺者や襲撃者を退けることが出来ていた。


 しかしギルバート殿下が『賢王の雛』という世継ぎの王族として申し分ないジョブスキルを得たことで実力行使に出ることにしたらしい。

  

 追い立てられるように魔王討伐軍編成の準備が進められ、ギルバート殿下の元に跪く同行騎士の面々に頭痛すら覚える有様だった。


 魔王を討伐するつもりなど無いのではなかろうか、明らかに王妃殿下の派閥に属する者や、元々の不真面目だと評価されるものばかりなのだから。


「これは、気が抜けませんね……」


「あはは、きっと私が王妃殿下にとっては討伐したい魔王なのだろう」


 魔族襲撃からまだ数日しか経っていないなかで、連日の激務ですっかりギルバート殿下の目の下には隈が色濃く浮き上がってしまっている。


「殿下は少しお休みくださいませ」


 聖女の雛のスキルのひとつなのだろう、暖かくしかし決して眩しくない光りが、ギルバート殿下の目元にかざされたアンリネット様の手から放たれる。


「眠ってしまわれたようですわ」


 食欲不振と睡眠不足と激務、緊張の連続が限界に達していたのだろう。


「俺が運ぼう」


 ソファーに寄りかかるようにして寝てしまったギルバート殿下を横抱きに抱き上げて、殿下の寝室へ運び寝かせる。


「厳しい旅路になりそうだな」

 


 

  



 


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