9 路地裏にて
渡り人には、条件付きで一定の自由が保証されている。
国外に出ない・定期的に近況を報告する・法律を遵守する、などなど。
条件はそんなところだ。
横断歩道では手を上げましょうレベルの約束だが、これさえ守れば、城下町を自由に散策できる。
門限もない。
さらに、条件を満たせば、商売も始められるし、マイホームを持ったり結婚したりしてもいいらしい。
ま、相手がいればの話だがな。
国王サイドとしては、押さえつけて爆発されるより、自由に放牧させておくほうがいいと見たのだろう。
城を出るときにも、活動資金をたんまり渡された。
これは、金に困った渡り人が強盗まがいの非道に走らないように、といった意味合いがあるらしい。
信用がない。
が、当然と言えば当然だ。
チート能力、金、自由、そして、Hなケモ耳メイド。
これだけのものを与えてくれる召喚主になんの不満があろうか。
よその異世界じゃ1話目で追放(それも最難関ダンジョンの最下層で)とか当たり前だしな。
冒険者ギルドを出た俺は、その足で城下町の武器屋に向かった。
剣、刀、短剣、槍、戦鎚、斧、弓矢、盾などなど。
ひと通り、武器を買い込む。
剣と短剣だけ装備して、残りは邪魔だ。
空間魔法《収納/ストレーゼン》で異界に飛ばしておく。
革鎧やブーツなど、防具一式を買い込むと、さすがに財布の中身は空になった。
さっそく防具を着てみた。
姿見を見るまでもなく断言できる。
「コスプレ感、出てるよな絶対……」
人目が気になって、表通りを歩く度胸は湧いてこなかった。
世界最強が聞いて呆れる。
路地裏をジグザグに進み、王都の出入り口――城門を目指す。
ルキィナたち受付嬢は、ドラゴン退治や超・稀少鉱石の採集みたいなデタラメな難度の依頼ばかり俺に紹介した。
だが、俺が受けたのは、ゴブリン3頭の討伐依頼だ。
駆け出し冒険者が最初に受けるレベルの依頼だった。
理由は、――怖いから。
ステータスが最強でも、俺のプレイヤースキルは素人同然だ。
階段はちゃんと一段目から上がらないと、足をすくわれることになる。
オンドリルも言っていた。
渡り人の半数が最初の1年で死ぬ、と。
俺だけは大丈夫。
……なんてことはあるまい。
ブルってるくらいがちょうどいいのだ。
「ヒャッハ! ブルっちゃって可愛いねえ!」
「お嬢ちゃんたちィ、オレたちと遊ばなぁい?」
「おじさんたちが気持ちィーことたくさん教えてあげるぜー! おら、殺されたくなけりゃ授業料とおっぱい出しな!」
とある民家の角を曲がったところで、同級生の窮地に出くわした。
ナイフを舐める暴漢が3人(1本のナイフを3人で舐めていた)。
そして、袋小路に追い詰められた女子が2人。
「……」
なんというか、こう……親の顔より見た展開だった。
もはや、結果が見えているまである。
どうせ、お前ら、俺にボコボコにされるんだろう?
「なんやねん、あんたら! うちら、金なんか持ってへんで! おっぱいもこの通りや! どう見てもあらへんやろ! 無い袖振れ言うんか!」
2年の春に大阪から転校してきた西関が果敢に食ってかかった。
その後ろでカタカタ震えている小さいのは、クラスいちの泣き虫、斜木だ。
学校でも姉妹みたいに一緒にいたが、こっちでも関係は変わらないらしい。
二人のチート能力を見られるかもしれない。
俺は存在感を消して見物しようと思った。
……のだが、その前にニシゼキとガッツリ目が合ってしまった。
認知されていると、《存在隠匿/ハイデン》は効果が激減する。
こっそり見学するのは、やめだ。
堂々と見学しよう。
俺は腕を組んで後方彼氏ヅラを決め込んだ。
「……」
ニシゼキが俺をガン見してくる。
どうした?
チート能力で瞬殺してイキらないのか?
早くやれよ。
「……」
ナナキも泣きそうな目で見つめてくる。
そんな目で俺を見てなんになる?
スキルでも魔法でも金的でもいいから、早く片付けてしまえ。
それとも、なにか?
二人揃って戦闘系の英霊じゃないのか?
「なに見てんだああわじょいrtふぃおあ!」
「舐めてんじゃあmjふぉいjgwrじょ!」
「殺すぞfちじょじゃおpんfぽッオオ!」
暴漢たちが翻訳不能な怒鳴り声を上げながら俺に詰め寄ってきた。
俺は先頭の男をぶん殴った。
ニシゼキたちのスキルを見ておきたかったが、仕方ない。
敵の実力がわからない以上、舐めプはしない。
最短で制圧する。
「あ」
殴った後で、自分が龍級拳闘士なのを思い出した。
龍級の拳だ。
ドラゴンの前脚で殴るのと同じ破壊力ということになる。
殴られた男は面白いほど吹っ飛んだ。
民家の垣根を突き破り、地面を何度か弾んで勢いそのまま表通りの屋台に突っ込んだ。
唖然とする二人目の顔に、軽く裏拳を当てる。
ぶへっ、とか言いながら、そいつはレンガの壁を突き崩して瓦礫に埋もれてしまった。
「ちょ待……っ。オレが悪かった。謝――」
青ざめる三人目の顔を俺は容赦なく殴りつけた。
拳が男の顔を貫通した。
スイカみたいに砕けた……というわけではない。
なんの手応えもなかった。
男は蜃気楼のように消え失せた。
わずかに間をおいて、少し離れた場所にまた蜃気楼のように現れる。
もう一回、殴ってみる。
すると、また消えて……。
そして、別の場所に現れる。
「幻術か」
となると、幻闘士、あるいは幻術師のジョブなのだろう。
マッチョだから、幻闘士のほうか。
幻を見せて自分の位置を誤認させる。
面白い戦い方だ。
青い顔をしていた暴漢は、空振りする俺を見ると途端ににんまりした。
「お前、腕っぷしはすさまじいが、オレよりは弱ぇな。――ばぁっ!」
目の前に突然顔が現れた。
それは幻で、実体のほうは姿を消して俺の背後に回ろうとしている。
スキル《看破/シーザル》の前では滑稽そのものだ。
「こんな感じか? ――ばぁっ!」
俺も見様見真似で幻術の顔を作り出した。
俺の顔では迫力に乏しい。
だから、オンドリルの顔にしてみた。
「うおぉぉあああああ!?」
腰を抜かした暴漢の頭を蹴る。
暴漢は民家の壁に叩きつけられ、壁画みたいにへばりついた。
頭が割れて壁に血の花が咲いた。
「悪いな。俺は幻闘士の適性、『聖級』なんだ」
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