8 職業適性
「それでは、まずこちらの用紙にお名前など必要事項をご記入ください」
ルキィナは挑むような目で、受付台に羊皮紙を叩きつけた。
俺はさらさらっと羽ペンを走らせる。
フルネームだと異世界人だとバレるので、登録名は『マヤト』にしておく。
マヤティとかマヤットとか、俺の名前はこの国では珍しい響きではない。
出身地や現住所などは、国王が用意してくれたものがある。
「冒険者を志した動機は、えー、実戦経験を積むため……と」
「ぐふ……っ! 文字を書けるなんて、あなた、なかなかやりますね!」
ルキィナが腹に手痛い一発をもらったってリアクションをしている。
どうやら、1ラウンド目は俺の勝利らしい。
「前哨戦はここまでです! ここからが本番ですよ! ――ドドン!」
受付台に水晶玉のようなものが置かれた。
説明されるまでもない。
これに触れれば、俺の能力値やら各ジョブへの適性などが開示されるのだろう。
《自像反映/ステータス》の魔法みたいなものだ。
「これであなたを丸裸にしちゃいますね! 適性なしと判断された場合、あなたは冒険者になれません! 綺麗な先輩受付嬢の皆さんに同情の目を向けられ、いつもロビーに入り浸ってはお酒ばかり飲んでいる現役冒険者さんたちにさんざん笑いものにされ、泣きたい気分でギルドを去ることになっちゃうんですよ! どうです? 恐ろしいでしょう!」
それは、たしかに恐ろしいな。
「さあっ! 覚悟が決まったら水晶に手をかざしてくださいっ!」
「ほい」
面倒なので、俺はさっさと水晶に触った。
ルキィナの前に半透明の小窓が投影される。
「うええええええ……っ!? りゅ、龍級剣士いいいい……っ!?」
小窓を覗き込んだルキィナの顔から、笑顔が消し飛んだ。
「し、しかも魔法剣士の適性も『龍』……!? ま、魔術師までぇ!?」
隣の先輩受付嬢がペンを取り落とし、ロビーにいた冒険者たちが静まり返る。
このときはまだ、冒険者業界のあれこれについて何も知らなかったので、俺はたしか、こう問うたはずだ。
「その龍級というのはなんだ?」
呆然としていたルキィナがハッと我に返って答える。
「ランクのことですよ! 龍のごとき力の持ち主であることを指しています。ここでは、職業適性を表しているんですけど……」
魔法の等級と同じか。
下から、下級<中級<上級<聖級<龍級<神級。
聖級までは人間の域。
龍級になると、人間をやめちゃったレベル。
そして、神級はそれすらも凌駕する神の領域ということになる。
俺は受付台に乗り上げる感じで、小窓を覗き込んだ。
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~冒険者(志望)マヤト・職業適性一覧~
《前衛・剣士職》
剣士(龍)、魔法剣士(龍)、大剣士(聖)
双剣士(聖)、サムライ(龍)、舞刀士(聖)
戦鎚士(聖)、斧術士(聖)、槍術士(龍)
盾術士(聖)、爪術士(聖)、棒術士(聖)
《前衛・騎士職》
騎士(龍)、近衛騎士(聖)、魔法騎士(龍)
聖騎士(聖)、暗黒騎士(聖)、竜騎士(聖)
《前衛・格闘職》
拳闘士(龍)、柔術士(聖)、流拳士(聖)
力士(聖)、幻闘士(聖)、仙術士(聖)
魔法拳闘士(龍)、モンク(聖)
《後衛・ガンナー職》
弓術士(龍)、ガンナー(聖)、投擲士(聖)
《後衛・師職》
魔術師(龍)、結界術師(聖)、破術師(聖)
付与術師(聖)、治癒術師(龍)
幻術師(聖)、僧侶(聖)、巫女(龍)
呪術師(聖)、解呪師(聖)、催眠術師(上)
《その他の職種》
狩人(上)、追跡師(上)、調教師(聖)
鑑定士(聖)、錬金術師(聖)、薬師(上)
シーフ(上)、忍者(聖)、暗殺者(龍)
調理師(中)、占い師(中)、占星術師(上)
武具職人(中)、メイド(中)
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想像以上にいろいろ書いてあって、面食らってしまった。
神級はおとぎ話レベルなので、実質、龍級でカンストだ。
俺はルキィナを強い目で見て、言う。
「龍級適性が13項目。これ、どうなんだ?」
「ど、どど、どうって……。どう、なんでしょう?」
ルキィナは目を泳がせまくった挙句、先輩に助けを求めた。
先輩は先輩で水晶玉を叩いたり、眼鏡を拭いて小窓と睨めっこしたりで全体的に落ち着かない。
水晶玉の故障を疑っているらしい。
しかし、何度校正をかけても査定は変わらなかった。
結果、やべえ奴を見る目で俺を見つめている。
一番年配の受付嬢だけは泰然としていた。
「龍級剣士で龍級魔術師……。龍級って武の極み、魔法の深淵ですよね? たしか、ひとつの国に一人か二人しかいないはず。それを両立するなんてありえるんですか? 両立どころか、13項目ですよ!? 聖級もこんなにたくさん……。なんなんですか、この人……」
ルキィナが先輩の脇の下に隠れてコソコソそんなことを言っている。
俺は同級生のチート能力を丸ごとコピーしている。
おまけに、王城には王国全土から腕自慢が一堂に会している。
俺の職業適性一覧は、この国のマンパワーを映す鏡と言えよう。
「あ、あの、マヤトさん。僧侶はともかく、どうして聖女系統の巫女にまで適性があるんですか。男の方なのに」
それは、あれだな。
聖女ヒジリベを参考にしたからだ。
「もしかして、マヤトさんって……」
ルキィナはニワトリのようなポーズをとった。
「これですか!?」
「どれだよ……」
「ぷっふふ! 調理師は中級じゃないですか! あっはは! ふっふっひっひひ! ……まあ、私は下級ですけどね」
ルキィナは壊れたみたいに笑ってから、勝手に絶望した。
そして、ボロ泣きを始める。
「負けましたぁぁぁあー! うわあああんん! この決闘、私の負けですよぅ! あああん! 私、あと10年見学してますから、ゆるしてくださぁぁーい……!」
ひんひん言いながらバックヤードに駆け込んでいく新人バイトが哀れでならなかった。
人外すぎて、ごめんな。
「マヤトさんも異世界人の方なのですね」
年配受付嬢がそう耳打ちしてきた。
「同郷の方々も冒険者をされていますよ。優秀な方々ばかりで、いつも驚かされています。あなたはその中でも極め付きみたいですね」
そうだろうな、と俺は心の中で苦笑した。
「優れた才能は大歓迎です。冒険者ランクによる受注制限を緩和して、お好きな依頼を受けられるよう、こちらで特別にお計らいしますね」
「助かる」
しかし、剣どころか包丁1本持っていないのに龍級剣士か。
笑えるな。
武器屋、行くか。




