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7 冒険者登録


 中学の頃、俺はよく笑う奴だった。

 四六時中、笑っていた。

 笑いすぎてキモがられても、それでも、笑っていた。


 理由?


 そんなの簡単だ。

 みんなから好かれたかった。

 それだけ。

 だから、笑い続けた。


 今はあのときより少し大人になったから、わかる。

 そんな奴は結局誰からも嫌われるのだ。


 でも、あの頃の俺は必死だった。

 施設をたらい回しにされ、知らない大人に囲まれ、新しいお友達を用意され、そこに溶け込もうと必死だった。


 必死に笑った。

 そして、見事に離れていく人々……。

 それでも、俺は笑い続けた。

 笑顔の仮面がすり切れるまで、ずっと。


『まがい物として生まれ、まがい物にふさわしい名前をつけられた生来のまがい物――マヤト。お前は俺をも越えた本物の偽物だ』


 模倣の英霊もそう言っていた。

 いみじくも、その通りだ。

 俺はまがい物だ。

 人間の偽物。

 俺が生まれるに至った経緯を知れば、全員がそう言うだろう。


 高校に入ってからは、笑わなくなった。

 常にポーカーフェイスを心掛け、息を殺し、いない者として振る舞った。

 物音を立てず、注目を浴びず、いたかどうかもわからないような、そんな高校生を目指した。

 嫌われるくらいなら、空気でいたほうがマシだ。


 そんな俺は、異世界でおあつらえ向きなスキルを手に入れた。


《存在隠匿/ハイデン》――。


 アンノからパクったこれがあれば、俺は透明人間になれた。

 でも、ちょっと後悔している。

 異世界という過酷な環境を共有したことで、ワタ高2年B組の結束はかつてないほど深まった。

 女子のぼっち枠に甘んじていたアンノですら友達と呼べる人を見つけている。


 そんな中、存在感を消していた俺だけが一人、蚊帳の外にいた。

 2年B組の団欒の中に、俺だけ居場所がない。

 話しかける相手も、話しかけてくれる同級生も、俺にはいない。


 異世界で、ぽつん。


 俺は完全なる孤独を味わっていた。

 学校にいた頃とは比べ物にならない孤独を。


 城を出て、冒険者になろう。

 そう思うに至ったのも自然な流れと言えるだろう。


「出ていくのか、マネキよ!」


 城から出るまでの道すがら、同級生の誰かが走ってきて俺を呼び止めてくれるかもしれない。

 僕らと一緒にいようよ!

 そう言ってくれるかもしれない。

 そう期待した。

 だが、同級生らは俺の出奔に気づきもしなかった。

 代わりとばかりに声をかけてきたのは鬼教官のオンドリルだった。


「昨日の意趣返しにでも来たのか? 悪かったな。あんたには恥をかかせてしまった」


「意趣返しだと? 舐めるな! 私は戦士だからな! 負かされたら己の弱さを憎むだけだ! 戦士だからな! フハハ!」


 オンドリルは豪放磊落な笑みを浮かべた。

 俺には真似できない本物の笑顔だ。

 そんな顔を向けられても惨めさが広がるだけだ。


「で、なんの用だ?」


「お前は強いな、マネキよ! だからこその忠告だ! いいか、マネキよ! 心して聴くがよい! 今から忠告を言うからな! 聴け、マネキよ!」


「早く言えよ……」


「渡り人の半数が召喚後、1年以内に死ぬ。なぜだか、わかるな?」


「無知、油断、増長、経験不足。最後は運だな」


「うむ。お前にはシャカに説法だったな。私のことはシャカ・フォン・サンドバッグ中将と呼ぶがいい! フハハ!」


 呼ばねえよ。

 釈迦に失礼だ。


「同胞に別れを告げんでもいいのか?」


「俺にさよなら言われても困惑するだけだ。俺とあいつらは仲間じゃないからな」


 それに、冒険者になるといっても、夜は城で過ごすつもりだ。

 可愛いメイドもいるしな。


「仲間じゃない、か。うむ。ハイガルシア軍も一枚岩ではない。同じ所属の者だからといって友というわけではないか。そうだな」


 オンドリルは俺の胸にデカイ箱をボンと押し付けた。


「持っていけ! 妻が夜も明けぬうちから作ってくれた愛妻弁当だ!」


「そんな貰いにくいものを押し付けるなよ」


「お前にも真の仲間が見つかるとよいな! フハハ! またシゴかれたくなったら、いつでも戻ってくるがいい! ワハハ!」


 オンドリルはデカい手を振って去っていった。

 気遣いができそうな男には見えないが、オンドリルなりに俺を気遣ってくれたのだろう。


「仲間、ねぇ……」


 人間の偽物である俺にそんなものができるとは思えないが。


 俺はまだ寒さの残る朝の城下町に繰り出した。





「冒険者登録ですね! 研修中の新人バイト、ルキィナがご案内いたしますっ!」


 冒険者ギルドに入るや、ずいぶん初々しい少女が出迎えてくれた。

 受付嬢見習いらしい。

 ピカピカの制服と弾ける笑顔がまぶしかった。


「ちなみに、今日が研修初日で、あなたが初めての担当ですっ!」


 大丈夫なのか、こいつで……。

 俺も城の外に出たのは今日が初めてだ。

 右も左もわからぬまま城下町をさまよい歩き、さんざん迷走した挙句、やっとこの冒険者ギルドにたどりついたところ。

 新人に目の前でくるくるされるより、お隣の先輩受付嬢にリードしてもらいたい気分なのだが。


「あーっ! 今、不安そうな顔しましたね! 私わかっちゃうんですからね! 安心してください! 心配ご無用なのです! だって私、見学歴は10年もあるんですからっ!」


 ルキィナは誇らしげに胸を張った。

 見学歴ってなんだ?


「私、冒険者ギルドの花形、受付嬢になるのが夢で、5歳の頃から毎日ここに通い詰めているんです! 受付嬢の先輩方の仕事っぷりをつぶさに観察してきましたから、初日って気分がしないんですよね!」


「そうか。だが、説教するようで悪いが、見ているのと実際にやるのは違うぞ?」


 俺はオンドリルの鬼じみた顔を思い出しながら、経験談を述べた。


「違いませんよ! 岡目八目とか言うでしょ! 見学年数も2桁になってくると、もう経営者の目線ですよ! ここ、私が運営してるんです! そのくらい気分でいますから、ドンと任せちゃってくださいっ!」


「ほう。それじゃ、せいぜい頑張ってくれ。吠え面かかないようにな」


「なるほどっ! じゃあ、これは、決闘みたいなものですね! 研修初日の新人バイト対駆け出し冒険者志望の!」


「すさまじくレベルの低い決闘だな……」


 ギルドのロビーに苦笑の渦が巻き起こった。

 ルキィナはどこ吹く風で闘志を燃やしている。


「ギッタンギッタンにしてあげます! それじゃ、受付台リングへどうぞ!」


 というわけで、――カン!

 始まりのゴングが鳴ったのであった。


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