41 勇者らしい解決法
一陣の風が吹き、線路の上をタンブルウィードが転がっていった。
俺とスズシの間には張り詰めた緊張感が横たわっている。
ホルスターに拳銃でも差さってりゃ、西部劇の雰囲気だったかもしれない。
「確認させてくれ、スズシ。『王都四輝星』の3人が殺されたのは、お前の差し金か?」
その件について特別こだわりがあるわけではないが、考える時間が欲しいので話を振っておく。
殺すだけなら簡単。
でも、勇者っぽく事態を解決となると、骨が折れそうだ。
相手は龍級戦闘職5人を含むチート能力者8名。
それも、スズシ以外は能力も不明。
なんで自分の命がかかっている場面で縛りプレイなどせにゃならん?
カザネに義理立てなんかせず、やっぱり皆殺しにしてしまおうか。
「冥土の土産というわけか。いいだろう、教えてやる」
スズシは陰湿な笑みを浮かべて乗ってきた。
「そうさ。黒幕は僕だ。傑作だったろう? 召喚前、ぼっちだったお前に初めてできた大切な仲間たちをだ、僕は奪ってやった。最悪の……いや、最高に笑える方法でな。お前には孤独がお似合いなんだ。人間のフリをしたホムンクルスのお前にはな」
孤独がお似合いか。
まあ、同意だ。
俺は結局、人生ソロプレイが性に合っている気がする。
模倣魔法を使えば、限りなく人間らしく振る舞えるだろう。
でも、どんなに巧みに擬態してもコノハムシは葉っぱにはなれない。
偽物は偽物のままだ。
「ユーギの馬鹿がお前を斬り殺してくれれば話が早かったのだがな、その星だけは何度詠んでも出なかった。お前がユーギを殺すかどうかも半々だった。いいほうの目が出てよかったよ」
半々か。
もう半分は、模倣の英霊が担ったのだろう。
さもしい思惑に振り回されて殺されたユーギも災難だな。
クラス唯一の退場者でもあるわけだし。
「……で、その後ろの連中は大丈夫なのか? 夢遊病みたいになっているが」
スズシの饒舌っぷりを見て取り、俺は核心に踏み込んだ。
幽鬼のようにたたずんでいる出奔組の7人。
いつだったか、クルリーヌに催眠術をかけたときと雰囲気が似ている。
よだれを垂らして、あー……、あー……。
下級の催眠術にかかると、魂が抜けたようなリアクションをする。
あれはあれでよかったが、俺は上級催眠術師でもあるから、もう少し凝った細工ができる。
クルリーヌの自認を「誇り高き女騎士」に変えたときの反応は格別だった。
俺の姿がゴブリンに見えるように暗示をかけたときも面白かった。
極め付きは、「ゴブリンの手に落ちた女騎士」だな。
くっころだ。
あれは、遮音の結界がいるほどの大騒ぎになったが、凄まじい満足感が得られた。
まあ、それはともかく、だ。
もし、あの7人が催眠状態なら事態は一転する。
勝負にすらならない。
一瞬で決着がつく。
ゆえに、スズシも答えないだろうが。
「彼女らは僕の従順なしもべたちだ」
スズシはクナシリの無駄にデカイ乳を握り潰した。
クナシリがわずかに顔を歪める。
だが、それだけだった。
黙って揉まれ続けている。
「苦労したよ。ここまで洗脳するのはね。僕が使える下級催眠術では、せいぜい嫌いな食べ物を好きにさせるくらいしかできない。だから、毎日少しずつ、でも着実に暗示を重ね掛けして――」
馬鹿確定……。
いや、クソ馬鹿確定だ。
まさか、等級まで答えてくれるとは。
勝ちを確信して口が軽くなっているらしい。
満足な未来も見えないくせに、催眠術で頭数だけ揃えて俺に再戦。
この体たらくで、よくもまあ、勝利を確信できるものだ。
あきれて言葉にならない。
……というのは、俺を油断させる作戦。
という展開もいちおう考慮すべきだろう。
「ああ、長かった僕の夜がようやく明けるんだ。栄光あるスズシ家に塗りたくられた忌まわしい汚泥を僕自身の手ですすぎ、今こそ――」
スズシは恍惚とした笑みで独演会を続けている。
俺なら勝ちが確定する前に勝利宣言などしない。
最速で決着をつける。
催眠術は魔法というより、呪いに近い。
そして、俺にはこれがある。
「《完全解呪/カース・ド・ブレイク》」
聖なる光が突風のように吹き抜けた。
ゾンビのようにたたずんでいた7人が、寝顔に氷水でもぶっかけられたみたいに急覚醒した。
実際、下級レベルの催眠術なら冷水をかけるだけで足りる。
スズシの計画がいかに脆いレールの上に成り立っているかがよくわかる。
「きゃああぁぁぁあああッ!!」
クナシリが胸を抱いてしゃがみ込んだ。
ミツウチも吐きそうな顔で口元を拭っている。
ほかの女子も胸やら尻やらを押さえて下唇を噛んでいる。
あいつ、調子に乗って味見したな。
初めて親しみを覚えたよ。
「そ、そんな馬鹿な……。僕の術が一瞬で」
狼狽するスズシの脇を駆けて、クナシリたちが俺の側についた。
痴漢魔でも見るみたいな目でスズシをめった刺しにする。
「お前にも孤独が似合っているな」
スズシ・セイゾウに人生を狂わされたという意味では、俺もスズシも犠牲者だ。
もっと小さい頃に知り合っていたら、案外、気の合う仲になれたのかもしれない。
性癖も悪くないしな。
スズシの眉間に青筋が立った。
「たかが占い師と舐めるなよ。僕はクナシリの力で英霊相当の剣技が使えるんだ」
「だから、手の内バラすなよ」
スズシの抜刀に合わせ、俺も柄に手を伸ばした。
そこで、聖剣を示せ、という伝言を思い出した。
ここが抜きどころってことか。
俺は異界に手を突っ込み、聖剣を引きずり出した。
黄金の光が緑の大平原を塗り替えていく。
派手過ぎて俺の趣味じゃない。
「勇者の剣……だと? なぜ、お前がそれを」
スズシが目を丸くした。
俺はあおり気味に言う。
「勇者だからだろ」
「ホムンクルスの分際でッ!」
スズシが斬り込んできた。
動きはいい。
だが、せいぜい聖級といったところだ。
クナシリの能力……だったか?
能力の劣化コピー版を他者に付与する、といったところか。
コピー元はサムライ職のタケミネだろう。
スズシの動きが急にどんくさくなった。
レールにつまずいて惨めに転ぶ。
「しぇ、先生は……! 先生は、喧嘩をしてほしくて能力を授けたんじゃありません……! イタズラするなら没収です!」
クナシリがおっとり天然系らしからぬ大きな声を出した。
借り物の力は没収された。
これでスズシは、昼間の占星術師。
ただの人だ。
「こんなのはおかしい。間違っている。僕はエリートなんだ。いずれ、スズシ・ファルマを継いで世界を導いていくはずなのに」
お前はその器じゃないってことだ。
勝敗すら見通せない薄っぺらなビジョン。
私怨さえろくに晴らせない実行力。
催眠術を使わなければクラスメイトすら動かせない人望。
「スズシ・セイゾウはクズだが、無能ではなかった。ただのクズのお前ではどうせ跡継ぎにはなれなかっただろうな」
俺の言葉で、スズシはぼろぼろと涙をこぼした。
「スズシ君、あなたはゆるされざることをしたわ。報いを受けなければいけないの」
カザネが人情派刑事みたいな顔でしゃしゃり出てくる。
「黙れ、凶悪犯ども! 僕の星詠みの力さえあれば、まだ挽回できるんだ! お前たちは全員王国を裏切ったことにしてやる! この反逆者ども!」
「貴重な証言をありがとう。一部始終を撮影させてもらったわ」
「なん、だと……」
カザネは三つ葉葵の印籠さながらにスマホをひけらかした。
俺のアイデアなのに、得意げなことで。
「それでも、まだ……。夜になれば。星さえ詠めれば、僕は……」
スズシの広い額に玉の汗が浮かんだ。
窮余の一策を講じているのだろう。
そうはさせない。
俺はスズシに詰め寄った。
カザネがわずかに不安な顔をした。
別に殺しゃしないって。
占星術師の敵は占星術師だ。
スズシが死んで一番喜ぶのは、おそらく、このシナリオを書いたであろう反・国王派の占星術師だ。
国王と距離が近いスズシを目障りだと感じ、俺とぶつけて潰そうとした。
たぶん、そんなところだろう。
そう何もかも思い通りに運ばせはしない。
同級生殺しは評判悪いしな。
俺は聖剣を横に薙いだ。
スズシの右目から、鼻梁を経て左目へ、金の線が引かれた。
それは、直後に赤に変わった。
絶叫を上げてスズシが転げ回る。
「《最高位治癒阻害/ハイエル・デ・ヒール》」
仕上げに治癒を妨げる呪いをかける。
何重にも重ね掛けしたから、聖女ヒジリベでも簡単には解けないだろう。
「もうお前は何も見るな」
うるさいので、《麻痺付与/パラライト》の魔法で自由を奪っておく。
「これにて、一件落着ね!」
なぜかカザネは大仕事をやり遂げたような顔をしていた。




