40 カザネの見解
スズシたちに出くわしたことは、俺にとって頭が真っ白になるくらいの衝撃はあった。
だが、待ち伏せを受けなかったことに加えて、もうひとつ、スズシ自身の言葉が俺を冷静にさせてくれた。
――そこにいたか、ホムンクルス。
やはり、俺の居場所をわかっていなかったのだ。
占いは万全ではない。
スズシはスズシで未確定な未来に漕ぎ出したのだ。
もっとも、こちらを油断させる作戦ということも考えられるが……。
出奔組一行がぞろぞろとのり面を上がってくる。
線路上で俺たちは向かい合う形となった。
スズシがチラッと俺の隣を見る。
「そうか。銀髪の女はお前だったのか、カザミ・カザネ」
未来が十全に見えていたら、そんなセリフは出てくるまい。
プライドの高いスズシのことだ。
すべてを見通す全知全能の神のごとく振る舞ったはず。
やはり、未来は未確定。
でも、じゃあ、なぜ、先回りできたんだ?
「俺はちょくちょく占果更新をしていたんだけどな」
「棒でも倒して道を決めたのか? 猿の浅知恵だな。未来が書き換わった点を線で結んでいけば、その先にお前がいるというわけだ」
そういう逆探知みたいなこともできるのか。
細かく棒を倒しすぎたのが原因、と。
点が線にならない程度の匙加減とかがあるのかもしれない。
占いってのは難しいな。
そう、難しいのだ。
それは、スズシにも言えること。
「こんな日の高いうちからお出かけとはな。星の詠めない占星術師が俺になんの用だ?」
安い挑発をしながら、俺はポケットに手を滑り込ませた。
スマホの側面ボタンを長押しし、手探りで親指を滑らせる。
ぴこっ♪ と電子音が聞こえた。
スズシは忌々しげにレールを踏みつけている。
「国王や騎士どもに任せたのが失敗だった。あの夜、急に天候が崩れなければ、お前を逃がすことはなかったんだ。くそ……」
《全天完全掌握/コンクエストル・ウェザー》で発生させた雨雲のことか。
あんなのでも効果があったらしい。
「だが、今回は逃がさない。こっちには、龍級戦闘職が5人いる。お前は腕が立つようだが、喧嘩が強いだけじゃ世渡りはできないんだよ。最後に勝つのは、ここ。ここが強い奴だ」
スズシは頭を指して勝者の笑みを浮かべている。
龍級の武闘派5人か。
俺は出奔組を流し見た。
やけに静かだと思ったら、みんな寝起きみたいにぼーっとしている。
目に光がない。
ゾンビのほうがまだ活気がありそうだ。
数的優位を得ておきながら、包囲する素振りすら見せない。
指示待ち人間のように立ち尽くしている。
「……」
そういえば、騎士や兵士の姿もない。
手数は多いほどいいはず。
玉座の間での失敗もある。
少数精鋭を優先したのかもしれない。
……いや、
「お前、国王の信頼を失ったんだな? あれだけの犠牲を出し、玉座の間は焼け落ちた。成果はゼロ。当然だな」
俺の軽口で、涼しげなスズシの顔がカーッと赤らんだ。
お前にはそっちのほうが似合ってるよ。
「目的はあらためて告げるまでもないな? ホムンクルスめ」
「俺の殺害、だろ?」
カザネが小さく、え、と漏らした。
「殺害? 殺処分の間違いだろう。お前は人間じゃない、この医療廃棄物め」
「何を言っているの? スズシ君……」
「カザミは知らないのか? そうか、だからホムンクルスなんかと一緒にいるのか」
スズシは犯人を暴く名探偵のごとく俺をびしりと指さした。
「そこにいるのはな、我がスズシ・ファルマが世界で初めて作り出した人造人間なんだよ!」
「それって……」
カザネは、俺とスズシを交互に見た。
しばし困惑に眉を歪める。
が、やがて、スッと息を吸い込んだ。
「それなら、15年も前に最終見解を国が示したじゃない。マヤトは人間よ。国連だってTIVBを非人道的かつ非合法としつつも、それによる生誕者を差別してはならないと結論づけているわ。歴史の時間に習ったでしょ? スズシ君は知らないの?
そもそも、あなたの発言は二次加害だわ。深刻な人権侵害であり、とうてい看過できるものではありません」
「なんだと……! 何も知らない部外者のくせに!」
「いいえ。これは、私たち全員の問題よ。すべての社会問題は社会のみんなで解決すべきものなの。あなたの問題点を3つ指摘してあげる。まず――」
そこからカザネ無双が始まった。
たじたじで涙目になるスズシ。
その注意が俺から離れた。
俺は手のひらに魔力を収束させた。
あいつは、馬鹿だな。
殺すなら、何も言わずに背中からズドンが正解だ。
これからあなたを殺しますとご丁寧に名刺を出されれば、こちらにも殴り返すゆとりが生まれる。
自分の有利を確信し、殺すだけではつまらないからと勝利宣言をのたまった。
おおかた、そんなところだろう。
しかし、数の利はたしかに向こうにある。
それも全員チート能力持ちだ。
使えるバリエーションなら俺のほうが上だが、飽和攻撃を受ければ対処能力を超えてしまう。
確実に生き残るには、先制して全員殺すしかない。
いい具合にカザネが前に出てくれた。
その背中を死角にし、カザネごと龍級魔法で吹き飛ばす。
そうすれば、非・戦闘職のスズシは確実に殺せる。
何人か生き残っても、体勢を立て直す前に各個撃破すればよい。
……いける。
「マヤトは人間よ! 私の勇者様なんだから!」
手に込めた巨大な力を解き放とうとしたところで、俺はぴたりと止まった。
カザネの涙声が胸を打った。
……ワルになり切れないな。
俺も存外、馬鹿らしい。
合理的に考えれば、こんな奴ら、さっさと殺してしまったほうが早いのに。
俺は上げた拳を下ろした。
「ご、ごめんなさい。私のせいみたいね……。なんだか変な雲行きだわ」
カザネがムスッとした顔で戻ってきた。
そうだな。
お行儀よくパンと食べなかったお前が全部悪い。
「悪いと思うなら、これ持ってろ」
俺は撮影中のスマホを放り投げた。
証拠ってのは大事だからな。
「さあ、どうするかな」
カザネに免じて皆殺しはやめるとして。
勇者らしい方法でこの場を切り抜ける手があるものかね……。




