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39 アリンガ平原


 王国、東部地方。

 大平原の町アリンガ。

 駅が設けられているだけあって、大きな町だった。

 主要産業は不明。

 しかし、やたらと冒険者が多い印象。

 ダンジョンでもあるのかもしれない。


「西部劇に出てきそうな町ね。ほら、あそこ! 転がる草(タンブルウィード)よ!」


 西部劇というほど荒野感はないが、カザネお嬢様はお気に召したようだった。


「で、どこへ行くのかしら?」


「さあな。これから決める」


 俺はそのへんに転がっていた棒きれをテキトーに投げた。

 棒きれは不自然なほど垂直に立って、そこからパタンと倒れる。

 指し示したのは、南東。

 町の中心部がある方角だ。


「とりあえず、あっちだな」


「無計画な逃亡ね……」


 何を言う。

 こんなのでも、いちおう、占いだ。

 俺を利する目が出るはず。

 たぶんな。


 それから、俺は分かれ道に行き当たるたびに棒を倒し続けた。

 元いた場所に戻っても気にしない。

 占果更新……だったか?

 自分の選択を細かく変え続ければ、その都度、未来が書き換わる。

 俺の行方を占おうとする者にとっては、このうえなく迷惑だろう。

 水晶玉の前で地団駄踏んでろ。

 スピリチュアル陰キャめ。


「この町にも手配書が回っているようだな」


 商家の壁に似ても似つかない俺の似顔絵が貼られている。

 ここまで似ていないと捜査妨害の域だ。


「私、お腹が空いたわ。食事にしましょうよ」


 カザネの顔はまだ貼り出されていない。

 お気楽なもんだ。


「飯か。コイントスで決めよう」


 俺はテキトーな硬貨を投げた。

 これも占いになる。

 コインは綺麗に宙を舞い、音もなく手の甲に納まった。

 表が出れば、アリンガ料理に舌鼓を打つということで。


 注目の結果は――


「……裏だな」


 いかめしいおっさんの横顔が描かれたオモテ面は、俺の顔に裏面ケツを向け、手の甲に口づけしている。

 次は女神の硬貨を投げるか。


「行くぞ」


「私、占いなんて嫌いだわ」


「俺もだ。だから、占うんだ」


「どういうことよ……」


 そして、1時間ほど経過し、俺たちは緑の大地を眺めていた。

 見渡す限り、永遠と続く大平原。

 緑と青。

 世界は2色に塗り分けられている。

 吹く風が心地よい。


「馬で駆けたら気持ちいいだろうな」


「徒歩だもの。最悪だわ……」


 占い通りに進んだら、町の外に出てしまった。

 線路沿いを東進している。

 カザネお嬢様は非難めいた息を吐き出した。


「このまま次の町に行くなら、次の町で下車すればよかったのよ」


「気が合うな。気が……合うな」


「2回も言わなくていいわよ」


 わがまま令嬢が小うるさくなってきたので、買いだめておいたパンを出してやる。

 こいつは、腹を空かすとキレるタイプのようだ。

 だが、同時に、品性に誇りを持っている。

 食事中はおしゃべりをしない。

 マナー違反だからな。

 パンひと切れで黙る安い女なのだ。


 お嬢様がお岩にお座しになって、お上品なお食べ姿をお披露目している間に、俺は線路ののり面を登った。

 反対側はどうなっているのだろう。

 そんな興味からだった。

 登るにつれて巨大な牙の塔の先端がせり上がってくる。

 上ばかり見ていたから、下を見下ろした瞬間、心臓が止まりそうになった。


「……!」


 俺は臆病なトカゲのように枕木にビタッと張り付いた。

 ただちに、存在感をカット。

 今、列車が来たら、誰にも気づかれないままトロッコ問題ごっこ(轢かれる側)ができる。

 選択肢もないから100パー死ぬやつだ。


 向こう側には人がいた。

 7、8人。

 人数の割に静かだったから気づかなかった。

 武装しているように見えた。

 が、それより、見知った顔がいくつもあったことを問題視すべきだろう。


 俺は線路を這って、生い茂った草の隙間から視線を投げた。

 人数は、……8。

 やはり、知った顔ばかり。

 魔術師姿の女子はミツウチだ。

 刀を帯びているポニテの男子はタケミネ。

 担任のクナシリらしき横顔もある。

 ほかにも懐かしい後ろ姿が並んでいるが、周囲を警戒するように円になっているから顔までは見えない。


 このメンツ、十中八九、出奔組の奴らだろう。

 ということは、……いる。

 つか、いた。

 円の中心に立つ天秤杖の男。

 振り返ったときに神経質そうな顔がよく見えた。


 スズシだ。


 玉座の間での待ち伏せ劇が脳裏をよぎって、俺は戦慄を覚えた。

 スズシがたまたまここでピクニックをしている、なんてことがあるはずない。

 ここにいるということは、ここに果たすべき目的があるということだ。


 俺の殺害。

 ……これだな。


 占果更新は怠らなかった。

 なぜ、こうなった?

 奴のほうが高位の術者だからか?


 ……と、ここで、俺はニシゼキとナナキの姿がないことに気がついた。

 伏兵か?


「《探知・人間種/ディテクト・ヒュームス》」


 意識の領域を広げた、……が反応はない。

 俺とカザネ、それから、スズシたち8人のみ。

《看破/シーザル》にも映らないから、存在感の隠匿や幻術でもない。

 だが、確実とは言えない。

 探知阻害の魔法や魔道具もあるらしい。

 単純に探知圏外に潜んでいる可能性もある。


「……」


 俺は生唾を呑み込んだ。

 まずいことになった。

 開けた場所では逃げ場もない。

 戦うにしても、相手もチート能力持ちだ。

 空間を斬るとか、時間を止めるとか、人外の技で畳みかけられるとさすがに分が悪い。


「……」


 しかし、これは、どういうことだ?

 ここにいるのは、占星術の結果だとしよう。

 なら、なぜ、先回りしておきながら奇襲してこない?

 待ち伏せして奇襲。

 これが一番イージーだったはず。

 奴らはまだ俺に気づいてすらいない。

 星を詠んでも明確な未来が見えなかった、とか?

 俺が棒を倒したから?

 油断させて不意打ちという線も考えられるが……。


「……」


 面倒臭いなホント、占いって。

 もう全部怪しい。

 のんきに流れていく雲さえ怪しい。

 いっそ付近一帯、丸ごと吹き飛ばしてくれようか。


「あら、スズシ君じゃない!」


 底抜けに明るい声が大平原に響いた。

 いつの間にか、隣にカザネが立っていた。

 せっかく隠れているのに馬鹿なお嬢様がお声をお出しになりあそばされた。


 こいつは、なんだ?

 本当に逃亡術のエキスパート?

 それもパンを立ち食いしている。

 品性捨てたんかワレ……。


 目という目がこちらを向いた。

 俺も手をチョキにしてカザネに向けた。


「なによ?」


「お前の頭がパーだからチョキ出して勝ってんだよ」


「この……!」


 カザネがグーを握ったところで、声がかかる。


「そこにいたか、ホムンクルス」


 スズシが勝ち誇った顔で笑っていた。


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