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27 手招き


 玉座の間を脱出した俺は、まず《全天完全掌握/コンクエストル・ウェザー》で雨雲を呼んだ。

 星が隠れれば、占星術は機能しない。

 それでも、龍級クラスの占星術師ならチートパワーで未来ほしを詠めるかもしれない。

 多少なりとも精度が落ちれば儲けもんと考えよう。


 俺は姿と存在感を消したまま中庭に下りた。

 星のない夜だというのに、王城はぼんやりと明るい。

 玉座の間のあたりが真っ赤になっているからだ。

 かなり高位の魔法で火を放ったから、消火には時間がかかるはず。

 延焼してくれれば、なおよい。


「こっち。こっち。……んふふ!」


 中庭の暗がりで、耳の長い白衣の女が手招きしている。

 アルフィオローゼ・ロングィア・エル・アーケ=オロゼア。

 考古学者のアルフィだ。


「こっち。こっちこっち。マヤトきゅーん。こっちこっち」


 なんか、俺を呼んでいるのだが……。

 その割に、俺に目のピントが合っていない。

 見えているわけではないのか。

 俺がここにいると仮定して、手を振っているようだ。


「何か用か?」


「ぅッ、わぁお!? ほ、本当に来ちゃったよ……。占星術ってすっごいなぁ」


 アルフィは派手に驚いてから、声を落とした。


「私はキミの味方だよ。ついていらっしゃい」


 言うが早いか、落ち着きのない蝶のように白衣を振ってホップ・ステップ・ジャンプ。

 中庭の隅の勝手口から、城内に入った。


 ……罠かもしれない。

 しかし、アルフィは占星術がどうのと言っていた。

 誰かが星を詠み、俺の未来もすでに決まっているのだろう。

 ここで右に行こうが左に行こうが、結末は同じということだ。


 俺はおとなしくアルフィの貧相な尻を追いかけた。

 勝手口の奥は、物置のようだった。

 庭師が出入りしているのを見たことがある。

 彼らの職場なのだろう。


 アルフィは白衣を脱いで、ついでに、よれよれのシャツも脱ぎ捨てた。

 真っ白な肌が闇の中に浮き出て見える。


「用件は? 俺の味方という話だったが」


「王国も一枚岩じゃないんだよ。今の国王をよく思わない人たちもいるってことね」


 反・国王派か。

 名君とか賢王といった肩書きの似合う国王じゃなかった。

 反対派がくすぶっていてもおかしくはない。


「そういう人たちにとってキミはゲームチェンジャーになりうる駒なんだよ。だって、キミ、新しい勇者なんでしょ?」


 なぜ、知っている?

 と思ったが、それもたぶん占いだろう。


 となると、何か?

 俺を勇者にしたい奴がほかにもいたってことか?

 模倣の英霊やスズシだけじゃなく、第三勢力が俺の未来に干渉し、俺を勇者に仕立て上げたってのか?

 そのゲームチェンジャーとやらにするために。


 勇者ユーギの死は、反・国王派にとって万々歳の出来事だ。

 国王から勇者というカードを没収することができるんだからな。

 そして、新しい勇者である俺を今、こうして、勧誘しようとしている奴がここにいる。


 アルフィはブラとパンツをぽーんと脱ぎ捨てた。

 俺の乳首に細い指で「の」の字を描く。


「今回のことで、キミもよぉーくわかったと思うけどさ、占いってすごいよね」


「すごいなんてもんじゃない。反則だろ、こんなの」


 俺のあずかり知らぬところで、壮絶な星の詠み合いが行われていたのだ。

 そして、今回はスズシと国王派が競り負けた形だ。


「反則だよね。そーだね。占いって最古の魔法のひとつだもん。反則級なのは当然だよ」


 アルフィの指が俺の秘部に触れた。


「でも、占いにも弱点はあるんだよ? いわゆる占果更新だね」


「センカコーシン?」


「そ。占いは常に最新のものが優先される。誰かが未来を右に傾けても、後出しで左に変えてしまえば、未来は左に帰結するの」


「つまり、こまめに占いをしていれば、誰にも未来を掴まれることはないのか」


 ぎゅっ、と。

 アルフィが俺の「俺」を掴んだ。


「そゆことー。これから、キミの逃避行が始まるわけだけど、分かれ道じゃ常に棒でも倒して決めるといいよ」


「《棒占い》をしろってことか?」


「うん。あれが一番簡単な占いだからね。あっ、でも、今はこの棒、倒しちゃダメだよ? 勃てておいてね。じゃないと、挿れられないし」


 アルフィは俺に腰を寄せてきた。

 今ここでするのか?

 立ったまま?

 立位でなう?


「だって、ただ話すってのも退屈でしょ? それにさ、私、1000年くらい生きているのに、まだ未産婦なんだよね。早く孫を見せろってジジババがうるさくてさ」


「知らんがな!」


「ふあ……!?」


 な! のところで、俺は腰を突き出した。

 はぅぅ勇者様の聖剣が刺突攻撃を仕掛けてくるぅぅ……、とか言いながら、アルフィは乱れた。

 コレ、何やってんだ俺今……。

 反・国王派の占星術師がこの光景を見たのだと思うと片腹よじれるのだが。


「……やっぱり冷たいな」


「んぅ。嘘だぁ。中は、ん、熱いでしょ?」


 中もひんやりしている。

 だが、凄惨な殺し合いで火照った体には、むしろ心地よかった。


「知ってる? 聖人の子はね、『聖児ヒジリゴ』って呼ばれていてね、英霊級の子が生まれやすいんだよ?」


 それも、知らんがな、だ。

 しかし、合点がいった。

 俺たち全員にクルリーヌみたいなご奉仕メイドがついていたのは、英霊量産化構想が背後にあったからか。

 異世界人とディスガルズ人の間には子供ができにくいって話だが、当たるとデカイわけだ。

 ホームランか、三振か。

 ヘイ、プレイボール!


 ……いや、意味がわからん。


 ダメだ。

 今日はいろいろありすぎて、もう何も考えたくない。

 俺はアルフィのゴボウみたいな体に集中することにした。


 でも、その前にひとつ。


「アルフィは……アルフィの背後にいる連中は、俺の逃走を助けてくれるってことだな? 逃走幇助は重罪だと思うが」


「今は、んん、逃げの一手だよね。ふっ。国王さんも今回の件が、ぁ、反対勢力の仕業だと考えると思うし。キミと、ぉっ、急接近したら、思いっきり怪しまれる、から、ね!」


 ほとぼりが冷めるまで姿を隠しておけ、ってことか。

 俺からすれば、国王派も反・国王派も似たり寄ったりだ。

 結局、俺を駒として使いたいだけ。

 今は権力闘争に夢中でも、いずれは、魔王を討てという話になる。

 面倒だな。


「うんうん。わかるよ! んぉ! こうして、猿だった頃とおんなじことしてるのが、お、一番楽でいいよね。おッほ。だからさ、ん、逃亡生活中は女の尻を追いかけていれば、っ、いいよ」


 アルフィは真っ赤な顔でニンマリした。


「私ぃひ! いいケツ知ってるんだぁ。ふ、大聖堂にいるんだけどね。ん」


 その「ケツ」とやらと一緒に逃げろ。

 つまり、そう言いたいんだな?

 星を詠んだ結果、それがベストだと。


「しばらくさ、あん! 逃亡()活ぉお! 楽しんでなよ。おごっ! 時機を見て、こっちから、ぁ、また声を、かけるからさ」


 アルフィは下唇を噛んで、顔の赤を一層強めた。

 よだれを垂らした口元が……ほう。

 いいじゃないか。

 もう、どうにでもなれだ。


 俺はアルフィを抱きしめた。


 大聖堂だな。

 了解。

 ちょっと行ってみるとするか。


「らめぇぇぇぇぇぇ……!!」


 ダメなのか?

 どっちなんだよ……。


 頭がぼーっとしてきて、俺は考えるのをやめにした。


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