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26 確定された未来


 勝ち誇った顔でニタニタしているスズシが非常にうざったい。

 今すぐ殴ってやりたい。

 弱点だけ集中的にボコってやりたい。

 半殺しにした後、いったん治癒してから第2ラウンドまでもつれ込んでやりたい。

 今、俺はそんな気分だ。


 しかし、占星術というのは厄介だな……。

 たかが占いと侮っていた。

 異世界に来て、スズシに会ったのは初依頼の日の1回だけだ。

 接点の希薄な相手をここまで追い詰めることができるとは。


 前方には近衛騎士が4、50名。

 後方には一般兵士が……たぶん、200名以上。

 俺が本気で暴れれば、この包囲を突破できるか?


 近衛騎士は最低でも上級クラスはあるだろう。

 それ自体は雑魚だ。

 俺の脅威にならない。


 だが、国王のそばを固めている高そうな鎧の連中は、おそらく、聖級クラスだ。

 ぶつかり合いになれば、手間取るかもしれない。


 幸運なことに、連中のジョブは『近衛騎士』だ。

 国王の身辺警護に特化した、護りの剣の使い手。

 攻撃面では、本職の『騎士』に見劣りするはず。


 それでも、敵方に1人でも龍級がいれば、かなり厄介だ。

 2人いたら、まず勝ち目はあるまい。


 ……いや、そもそも、俺に勝ち目はあるのか?

 聖級以上の占星術師には、確実な未来が見えるらしい。

 スズシに宿った英霊は、本職の占星術師だろう。

 おそらくは龍級クラス。

 間違っても外すまい。


 未来は確定していると言える。

 あいつには、俺が死ぬまでの光景が見えているのだ。

 すでに、勝負は決している。

 だからこそ、泰然と笑っていられる。


「……」


 占いを覆すには、新しい占いで未来を上書きするしかない。

 だが、俺の占星術師の適性は上級。

 騎士らと戦いながら、スズシより先の未来を見通すことは不可能だろう。

 未来は覆せない。

 未来は確定済み。

 あいつが見た光景が、これから、ここで再現される。

 俺が死ぬ光景が、ここで……。


「いや」


 だからこそ、そこに勝機がある。


 スズシ、お前には何が見えた?

 どこまで見えた?

 俺が血だらけで死んでいるところでも見えたか?

 いいぜ、なら、実演してやる。

 見せてやろう。

 俺が鮮血をぶちまけて死ぬ光景をな。


 だが、勝つのは俺だ。


 国王の長ったるい罵倒が終わった。

 要約すると、俺を斬首し、豚の餌にして、その豚を同級生に食わせるらしい。

 国王はユーギを猫可愛がりしていたから、そのくらいはやりそうだ。


「あの薄汚い渡来人を……! 勇者殺しの大罪人を即刻斬首せよ!」


 国王の言葉で一斉に近衛騎士らが動いた。

 俺はまず幻術破りの結界を破術で破壊した。

 同時に、後ろの兵士にノールックで氷魔法を叩きつけ、背後の憂いを断つ。

 そして、最初に斬りかかってきた騎士の首を横一閃。

 居合気味にはね飛ばした。


 並み居る騎士たちを俺はなるべく残酷な方法で斬り殺した。

 頭から股へ縦に両断。

 四肢をすべて斬り飛ばし、ちぎれた脚をハンマーにして別の騎士の頭を叩き潰す。


 剣聖の華麗なる剣技の前には、精鋭揃いの騎士らも赤子同然……は、さすがに言い過ぎか。

 せいぜい幼稚園児レベルだ。

 それでも、物量で押されると俺の処理能力を超えるかもしれない。


 だから、惨殺する。

 凄惨に殺す。

 騎士も兵士も間合いに入った順に最大限のむごたらしさでぶち殺す。

 頭をスイカのように割る。

 口の中に火炎を叩き込んで内側から爆発させる。

 そうして、敵に恐怖を刻み込む。

 尻込みさせ、その場に釘付けにする。


 息が続く最初の十数秒が勝負の分かれ目だった。

 俺はバッサバッサととにかく派手に斬りまくった。


「…………」


「………………」


「……」


 玉座の間に一転して静寂が訪れた。

 国王は顔面蒼白で腰を抜かしている。

 だが、その横でスズシは顔色すら変えていない。

 それがヒントだ。

 ここまでは、占い通りなのだろう。

 勝負はここからだ。


「う、うわああああ……!」


 勇敢にも女騎士が単身斬り込んできた。

 スズシの口元がニタリと動くのが見えた。


 ――ここだ!


 俺はあえて足を滑らせた。

 血糊でずるり、と。

 そして、同時に幻術を発動。

《存在隠匿/ハイデン》で、存在感を限りなくゼロにした。


 振り下ろされた剣が俺の肩口に入った。

 鎖骨と肋骨が断たれるゴツゴツという音が連なる。

 俺の絶叫が玉座の間にこだました。

 鮮血をぶちまける俺がふらふらと壁際のほうに向かい、壁に寄りかかって赤い線を引いた。


 すっげえリアルだな……。

 ゾッとする。

 本当に自分が斬られたみたいだった。

 姿を消したまま、俺はごくりと喉を鳴らした。


 使ったのは、《幻影偽死/イルジオン・デッド》。

 自らの死にざまを投映する幻術魔法だ。

 通常、幻術は視覚しか欺くことができない。

 映写機プロジェクターみたいなものだ。

 だが、《幻影偽死/イルジオン・デッド》は五感のうち、触覚以外のすべてを欺ける。


 悲鳴とともに吐き出される血のあぶく。

 びたびたと血が落ちる音。

 血の臭い。

 返り血の味。

 いずれも、幻視であり、幻聴であり、幻味であり、幻臭。

 すべてが幻覚。

 しかし、限りなく本物に近い死だ。


 だが、触覚だけは欺けない。

 つまり、触られたらバレる。

 死体が残るわけでもない。

 触ろうとすると、手が空を切る。

 俺を斬りつけた女騎士も手応えのなさに首をかしげている。

 だから、もうひと押ししてやる必要がある。


 俺は――幻術の俺は、最期の悪あがきとばかりに火を放った。

 幻術の火だ。

 姿を消している俺も、同じタイミングで火魔法を使う。


 幻術の俺が壁にすがってズルズルと倒れる。

 その体が激しい炎に包まれた。

 燃えている間は近寄れないし、触れない。

 これで、しばらくは幻術だとバレない。


 よくよく注意してみれば、ツッコミどころは多い。

 血まで燃えていたり、壁に焦げ跡がなかったり。

 だが、付け焼き刃の死んだふりとしては上出来だろう。

 この場に居合わせた全員の目を欺けたはずだ。


 あいつも含めて……。


 俺は祈るような気持ちでスズシを見た。

 スズシは、俺の屍に一瞥くれると不敵な笑みを残して去っていった。

 占星術で見た光景が現実のものとなって満足したのだろう。

 それが幻術ニセモノであるとも知らずに。


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