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25 死刑宣告


 渡り人用の居住区画を出たところで、不意に大きな気配を感じた。

 おそらく、兵士だろう。

 大人数で廊下の向こうからやってくる。


 姿と存在感を消しても、実体が消えるわけではない。

 廊下いっぱいに広がってこられると避けようがない。

 ぶつかれば、さすがに気づかれる。


 俺は踵を返した。

 すると、廊下の反対側からも兵士の一団がやってきた。

 階段に退避すると、下からも大勢の気配が上ってくる。


 大人数が包囲するように迫っている。

 俺は右へ左へ夜の城を逃げ回った。

 気分は猟犬に吠えられて森の中を逃げ惑うウサギだ。


 嫌な予感がした。

 猟犬から逃げた先には狩人が待ち構えているものだ。


 立ち止まったほうがいい。

 そう思いながらも、俺は目の前に現れた大扉を押し開けた。

 真っ暗な部屋の中に飛び込む。

 すると、何か透明な幕のようなものをすり抜けた感覚があった。

 同時に、幻術の衣が引き剥がされる。

 幻術破りの結界に引っかかったのだ。


 部屋に火が灯る。

 そこには、思ったよりずっと大きな空間が広がっていた。

 高い天井。

 空中要塞のような巨大シャンデリア。

 壁を彩る王国各地の領旗。

 装飾鮮やかな調度品の数々。

 そして、居並ぶは全身鎧で身を固めた屈強な近衛騎士たち。


 敷かれたレッドカーペットのその奥に、玉座があった。

 頬杖を突く老人の頭には王冠が載っていた。


 ……とまあ、俺が死刑宣告を受けるに至った経緯は、こんな感じだ。





招木マネキマヤト、勇者殺害の罪で死刑に処す」


 国王は俺にそう言った。

 なぜ、こうなった……。


 授業中に突然召喚されて、1か月。

 俺はそれなりに精力的に励んできたつもりだ。

 でも、結果は最悪。

 勇者殺しの罪で死刑だ。


 どうして、こうなる?

 誰のせいだ、これは……。

 神か悪魔のいやがらせか?

 誰かの企みでもない限り、こうはならんだろう。


 前方には、近衛騎士隊。

 後方には、兵士の大軍団。

 アリの這い出る隙間もない。


 幸運だったのは、騎士たちがすぐに斬りかかってこなかったことだ。

 茹でダコみたいにブチギレた国王が長々と罵詈雑言を吐き散らかしている間、俺にはゆっくり考える時間があった。


 腑に落ちない点がひとつ。

 待ち伏せを食らったことだ。

 逃亡中に追跡師に追いつかれた、とかではない。

 この玉座の間で待ち伏せを食らったのだ。

 国王や騎士たちには、ここに俺が来ることがわかっていたのだ。

 まるで、未来でも見たみたいに。


 答えを探して俺は視線を走らせた。


「……」


 国王の隣に意外な人物を見つけた。

 涼しげな、それでいて、鼻につく顔で俺を見下ろす少年。

 スズシだった。

 スズシ・セイジロウ。

 天秤のついた錫杖を握っている。

 あれは、占星術師が持つ天秤杖だ。


 ……なるほど。


 お前が俺の逃走経路みらいを占ったというわけか。

 窓の外には星が見えている。

 夜まで待って侵入したのは失敗だったか。


 スズシは俺を恨んでいる。

 俺が勇者を殺したと聞いて、喜んで協力を申し出たのだろう。


「……」


 いや、違う、のか?


 俺は妙な寒気を感じて、身を固めた。


 ……違う。

 これは、そんな単純な話じゃない。

 俺はもっと何か大きなものを見落としている気がする。


「……」


 そもそも、スズシはいつからこの未来を予測していたんだ?

 もっとずっと以前から星を詠んで知っていた可能性はないのか。


「…………」


 あっ、と声が出そうになった。

 俺の頭の中に閃光のように、とある疑惑が生まれた。


 最初からすべてスズシの策略だったのでは?

 そんな疑惑。


 おかしいと思ったのだ。

 模倣の英霊は勇者ユーギを殺して聖剣を奪おうとした。

 だが、そんな大それたことが魂だけの存在にできるはずがないのだ。


 もう一人いたのだ。

 星を詠んだ奴がもう一人。

 俺を破滅に導くシナリオを描いた占星術師がもう一人いたのだ。

 スズシという黒幕が。


 おかしい点はまだある。

 なぜ、あのとき、ユーギは犯行現場に戻ってきた?


『おっ、マネキじゃーん! マジでいるじゃん』


 ユーギはそう言った。

 マジでいるじゃん、と。

 まるで、誰かに俺があの森にいることを聞いたみたいだった。

 スズシが占いで俺の動向を先読みしていたのなら、つじつまが合う。


 それだけじゃない。

 ユーギはこうも言っていた。


『は? オレ、天才だしィ! つか、クズでもねえしィ! だってコレ、オレの思いつきじゃねえもん!』


 同級生を使って経験値を稼ぐ。

 あの裏技の考案者はユーギではなかった。

 誰かがユーギに入れ知恵したのだ。

 それもスズシだったんじゃないのか?

 そして、ユーギを俺にけしかけた。


 ユーギが俺を殺してもよし。

 俺がユーギを返り討ちにして勇者殺しの汚名を着てもよし。

 どう転んでもスズシにとっては得になる。


 そもそも、なぜ、聖級パーティーに過ぎない『王都四輝星フォースター』が龍級パーティーを差し置いて勇者の指南役に選ばれたのか。

 そこらへんにも、あいつの手引きがあったんじゃないのか?


 模倣の英霊とスズシ。

 二人の占星術師が俺の未来に干渉していたのだ。

 そして、「勇者をぶっ殺して死刑」というクソったれなシナリオが完成した。


 スズシが俺を見てニタリと笑った。

 俺の疑念を全肯定するような、そんな笑顔だった。


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