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16 ゴブリンの巣穴


 洞穴の前で緑色の小人が2匹、槍を持って棒立ちしている。

 ゴブリンだ。

 あんなに探しても見つからなかったのに、その道のプロにかかればあっという間だった。


 ムライザが大まかなアタリをつけ、ロォガルが鼻で探り当てる。

 所要5分。

 餅は餅屋ってのは本当だな。


 俺は結界魔法で遮音してからムライザに白い目を向けた。


「一昼夜探し回った俺としては思うところがあるな。内緒の便利スキルとかでズルしてないよな?」


 ムライザは低い姿勢のまま鼻だけ高くした。


「していませんとも。地道な情報収集と積み重ねた経験の賜物です」


 それは、俺の模倣魔法でもコピーできない。

 でも、こうして実物を視認してしまえばこっちのものだ。


「《探知・小鬼種/ディテクト・ゴブリタス》」


 意識が拡張される。

 周囲の木々や茂み、地面すらも貫通してゴブリンの存在を感じ取っていく。


「見張りが3匹、穴の奥には8匹。計11だな」


「見張りは3ですか……」


 しばらく目を凝らしていたムライザが、あっ、と小さく声を立てる。

 樹上で巧妙に姿を隠しているゴブリンを見つけたようだ。

 あんなのよく気づけますね、と感心しているが、まあ、スキルってのはそういうものだ。


「ゴブリンの警備シフトとしては最も厳重な警戒態勢ですね。3という数字は厄介なんですよ。冒険者パーティーの後衛は普通2人ですからね」


「遠距離攻撃で奇襲をかけても、一度に仕留められる上限は2匹ってことか」


「そういうことです。見張りを1匹でも取りこぼすと、マンドラゴラもびっくりな絶叫を上げて、仲間に警戒を促します。そうすると、中のゴブリンは巣穴の入り口を崩して籠城しますから、攻略が格段に困難になりますね」


 ゴブリンたちも知恵を巡らせているらしい。


「槍を持っている2匹はあたしが《双射/ツイン・ショット》で片付けるわ。そのあと、叫ばれる前に三矢目を撃てるかどうかは賭けってとこかしらね」


 ユミリが2本の矢を弓に番えた。


「俺を忘れてもらっては困るな」


 俺は落ちていた手ごろな石を拾った。

 案内役に討伐まで丸投げしたんじゃ聖人の名が泣く。


「スリーカウントでいくぞ」


「わかったわ!」


 3・2・1で俺は投擲スキルを発動させた。

 指を離れた石が常軌を逸した速度で樹上のゴブリンに命中する。

 血煙が舞った。

 ユミリのほうもゴブリン2匹を正確無比に射止めている。


「いやいや。何をどうやれば、石ころで頭を血煙にできるのよ……」


 ユミリがおあつらえ向きなボールを投げてくれたので、俺は事もなげにこう打ち返す。


「ただ投げただけだが?」


 無自覚最強系っぽいセリフを吐けて満足だ。

 若干スベった感もあるが、それも含めて様式美と言えよう。


「ゴブどもの巣穴は狭ぇからな。オレが先頭ポイントマンを引き受けるぜ?」


 拳闘士のロォガルが名乗りを上げる。

 異論は出なかった。

 剣を満足に振るえない洞窟内は、拳闘士の独擅場だろう。


 ロォガル、ムライザ、俺、ユミリの順で巣穴に潜る。

 動物の骨や枯れ枝、割れた土器。

 やたら足元がゴミゴミしている。


「ご覧を」


 ムライザが土に埋もれている縄を刀の先で示した。

 罠を隠すためにあえて散らかしているのか。

 俺一人だったら普通に引っかかっていただろう。

 まあ、一人なら巣穴ごと魔法で潰していると思うが。


 曲がりくねった暗い穴を20メートルほど進むと、大岩にぶつかった。

 その奥で、ゴブリンが火を囲んでいるらしい。

 赤く染まった土の壁に影が踊っている。


 大岩を支えにして掘り広げた小広い空間。

 ゴブリンたちの居住スペースといったところか。

 ゴブ語でゴブゴブ談笑している。

 さすがに翻訳不能だが、楽しそうな気配と焼けた肉の残り香からして食後の団欒といったところだろう。


「8匹全員集まっているな。火を囲むように5匹。残りの3匹は奥の壁際にいる」


 俺は遮音結界を張って、探知結果を告げた。

 突入前のすり合わせを行う。


「いつも通り、オレがアレで斬り込むぜ!」


「では、ロォガル。火のそばにいる個体を蹴散らしてもらえますか。火を消されると夜目が利かない我々が不利になりますので」


「あたしとマヤトは後衛だけど、狭すぎてきっと役立たずになるわね。二人でやっちゃって」


「俺を役立たずに入れるな。お前だけ役立たずんでろ」


「役立たずむ、ってなによ……」


 敵の目と鼻の先で堂々と作戦を練るのは、今にして思えば、笑える光景である。


「突入!」


 ムライザの号令で戦端が開かれた。

 ロォガルが素早く身をひるがえし、壁を走って両手の先から光る爪を伸ばした。


「食らいやがれ! 《獣牙・双刃螺旋斬り》!」


 10本の光る爪をまとって壁を蹴る。

 ロォガルはきりもみ回転しながらゴブリンの円座に突っ込んだ。


 光る爪は《魔爪》というらしい。

 獣人族が好んで使う武器で、魔力を束ねて作った高熱の刃なのだとか。

 つまるところ、ロォガルは拳闘士ではなく双剣士だったのだ。


「こうか?」


 俺も左右十指に魔爪を伸ばして斬り込んでみた。

 常人離れした動体視力に、無数の刃で裂かれるゴブリンの絶望が映った。

 そのまま俺は奥の壁に激突した。


「な……!? オレの武技を……」


「着地に難ありだな。改善できたら、また見せてくれ」


「お、おう……」


 目を白黒させるロォガルの頭上から、大柄のゴブリンが棍棒を振り下ろした。

 ムライザが割って入り、刀で受ける。

 すると、ムライザの腕が枝のように、たわんだ。

 棍棒をぬるり、と受け流し、


「秘剣《小枝返し》!」


 たわんだ腕が勢いよく跳ね返った。

 閃光一閃。

 ゴブリンの首が胴を離れる。

 地面にワンバンして、焚き火の中に突っ込んだ。


「しまった……!」


 火が掻き消され、真の闇が訪れる。

 俺はすかさず光魔法で闇を払った。

 小さな影がムライザの小脇をすり抜けて、ユミリに突っ込んでいくのが見える。


「《武器瞬転/スイッチ》!」


 ユミリの手から弓が消え、次の瞬間にはメイスを握っていた。

 ゴブリンの脳天を容赦なく打ち据える。


 空間の座標を入れ替えて、武器を瞬時に持ち替える、か。

 これは、使えそうだな。


 ユミリはふぅ、と息をついた。


「あたし、殴り弓士なのよね。舐めてると痛いわよ?」


「そうか。でも、なぜ、それを俺に言う?」


「……あー、ええっと。あたしってノリでしゃべってんのよね。なぜとか訊かないでくんない? 理由なんてあったためしがないもの」


「ああそう」


 ユミリはテキトー系殴り弓士らしい。

 一生使う予定のない脳細胞があれば、憶えておいてやるか。


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