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13 南南西


 起きたら、雨だった。

 全身べしょべしょだ。

 硬い根をベッドにしたせいか、あちこち痛い。

 踏んだり蹴ったりの朝だ。


「雨除けの結界も張っとくんだった」


 雨脚が強い。

 これでは、ゴブリンも巣ごもりしているだろう。

 一度でも全体像を視認できれば、探知スキルで手早く探せるのだが……。


 ぐぅ、と腹が鳴る。

 昨日の昼にオンドリルの愛妻弁当を食べて以来、水しか口にしていない。


「災難続きだな」


 くーくー、悲鳴を上げる腹を何度か叩いて、俺は立ち上がった。


「星の導き、か」


 模倣の英霊は南南西に行けと言っていた。

 さすれば、面白いことがあろう、と。

 あいつの面白いが俺にとって面白いとは思えない。

 とはいえ、ほかに手がかりもない。


「付き合ってやるか。一回だけだぞ?」


 俺は穴のあいていない胸にそう告げた。


 こうして、冒険者2日目が始まった。

 空腹は飢餓感に昇華されつつあるし、正直もうゴブリンとかどうでもよくなってきた。

 ルキィナに笑われない程度の獲物を持ち帰れればいいか。


「《探知・魔物/ディテクト・モンスタル》」


 思念の波が森に広がっていく。

 反射してきた思念波を、……捕捉。

 10数メートル先。

 かなり深いところに大きな反応がある。

 地下に棲む系の魔物か。


 俺は大地に触れ、手のひらから魔力を流し込んだ。


「《断崖土壁/クリフ・ト・ウォール》」


 聖級土魔法を発動。

 地面が盛り上がって、あっという間に8階建てビルほどの高さになる。

 賢者ケンザキが使うところを遠巻きに見ていたから魔法の効果は知っていたが、実際にやると迫力がハンパない。

 あと、土が目に入る。

 結界魔法で傘を作るのがキモだな。

 やっぱり一度試してみないと、自分のものにはならないな、と改めて思う。


 もう一度、探知すると、目の前で反応……。

 土の壁を突き破って中からクジラみたいな魔物が姿を現した。

 俺は鑑定魔法《鑑定/アプレーゼン》を発動した。

 対象物以外がセピア色になり、視界に文字が浮かぶ。


◇━━◇━━◇━━◇━━◇━━◇━━

 分類:土龍種、古龍種、稀龍種

 種族名:エルダヴァール

 雅称:地鯨龍

 危険度:――

 概要:地中深くに棲息する大型の――

━━◇━━◇━━◇━━◇━━◇━━◇


 長ったらしい概要欄を読む前に、俺は高圧水流の刃でエルダヴァールとやらの首を土のビルごとぶった斬った。

 危険度不明の相手はとりあえず首と胴を分けておけば安全な気がする。

 油断して死ぬとかクソ馬鹿のすることだ。

 賢者の魔法の使い手としては賢く振る舞わないとな。


 切断された頭部が大岩のように転がった。

 胴体からは水道管が破裂したみたいな勢いで血が噴出している。

 エルダヴァール、だったか?


「でかいな……」


 全長20メートルってところか。

 土を掘り進むための巨大な前肢に対して、後肢は貧弱そのもの。

 あらためて見ると、クジラというより、前脚がすさまじくデカいオタマジャクシといったところだ。


 鑑定結果には、生まれてから死ぬまでの何百年もの間、地中で土ばかり食って過ごす陰気な奴だと書いてある。

 体内には大量の稀少鉱石類を溜め込んでいて、ついたあだ名が、生きた鉱脈。

 体内の鉱石を売るだけでも相当な値がつくのだとか。


 そして、大地を掘り進む爪は最高位の武器に、地中の圧に耐えうる強固な鱗殻は一級品の防具になる。

 最強の矛と盾を両立しうる素材の宝庫。

 冒険者垂涎ものの魔物らしい。


「でもこれ、どうすればいいんだ……」


 持ち帰るにしても巨大すぎる。

 スキルと魔法を総動員すれば王都まで運搬できるだろうけど、王都近郊の地形を変えると国王から大目玉を食らいそうだ。

 解体バラせばアイテム・ストレージに収納できるか?

《収納/ストレーゼン》の魔法で転送とばせるのは、せいぜい両手で抱えられるサイズまで。

 サイコロステーキみたいにすれば、ワンチャンいけそうだな……。


「……」


 と、ここで、森の中に気配を感じた。

 何か近づいてくる。


 俺は存在感を消した上で、幻術で姿をくらました。

 ゴブリンならいいな、とか思いながら。


ここまで、読んでくださった皆様、ありがとうございます!

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