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リリアナ便利堂、拠点改装計画

 ――夜明け前の廃教会。


 まだ世界が眠っている静寂のなか、リリアナは教会裏の隠し扉を静かに開ける。


 「次の“開扉”は、あと五分……」


 手作りの砂時計が落とす最後の砂粒を見届け、リリアナは金属の扉にそっと手を触れた。


 「《開け、倉庫》」


 微かな音とともに空間がひずみ、彼女の姿は淡い光のなかへと溶けていく。


 目を開けると、そこは現代――だが、今回はコンビニの倉庫ではなかった。


 「ようやく……この鍵で、ホームセンターの裏倉庫に繋がったわけね」


 前回の依頼で入手した“銀の鍵”を用いて、リリアナはホームセンターの資材倉庫に転移していた。周囲には工具、建材、収納用品が整然と並んでいる。


 「限られた時間で、今回は“拠点整備”に集中……よし、計画通り動くわよ!」


 目標は、リリアナ便利堂の住みやすさの向上。雨風を防ぎ、衛生的な生活空間を整えることが今回の目的だ。


 リリアナはまず、大型のビニールシートと防水布、組み立て式の棚と収納ケースを手に取る。次に、断熱マットや防寒用の寝袋、カーテン、簡易シャワーセットも見つけ、リストにチェックを入れていく。


 「ふふ……この断熱シートがあれば、あの床の冷たさともおさらばね」


 重い物資を運ぶために、小型の台車も見つけて確保。時間を確認しながら動きは迅速だ。


 「残り四十分……一旦コンビニ倉庫にも寄って、食料と日用品を補充しておこうかしら」


 再び扉に手をかざし、魔力を流す。


 「《接続先変更》……っと」


 ひずむ視界の先に、見慣れたコンビニのバックヤードが現れる。ここでも棚からインスタント食品、缶詰、簡易トイレ用品、紙タオル、除菌スプレーを次々と手に取る。


 「文明の利器、ありがたく使わせてもらうわ。……さすがにまだ電気は持ち帰れないけど」


 時計を確認。残り十二分。


 全ての物資をまとめて収納バッグに詰め、背負ったときのバランスまで調整する。


 「時間ね。……帰還!」


 淡い光が再び巻き起こり、リリアナの姿は現代から消えた。


 * * *


 「おかえりなさい、リリアナさん!」


 早朝の光が差し込む廃教会に戻ると、カイルがほうき片手に駆け寄ってきた。


 「今回はけっこう大荷物ですね!」


 「今回は、便利堂の“生活面”を大幅にアップグレードするわよ。まずは断熱マットから敷いていきましょう」


 その言葉どおり、教会の床一面に断熱マットが敷かれ、壁には防水布が貼られた。窓の隙間にはスポンジ材が詰められ、風の侵入を防ぐ。以前は風が吹けば埃が舞い、夜になれば吐く息が白かったが、今では室温が驚くほど安定している。


 「ぬおおっ……床が、冷たくない……!」


 「でしょ? これで夜もぐっすり眠れるわ」


 収納棚も設置され、これまで雑多に置かれていた道具や食料がきれいに整頓された。


 「この“棚”ってやつ、すごく便利っすね……これが噂の“文明”か……」


 「道具を大事にする第一歩は、ちゃんとしまうことよ。これは鉄則ね」


 さらに、奥のスペースにはカーテンで仕切った“更衣スペース”と“仮設トイレコーナー”も設けられた。使い捨てのトイレ袋と匂いを防ぐ消臭材も完備だ。


 「これは……本当に“住める”場所になってきましたね……」


 「最初の目標は、冒険者が安心して休める“拠点”を作ること。情報屋、物資補給、依頼斡旋、全部ここから始まるのよ」


 リリアナの瞳は、明確な未来を見据えていた。


 「次は……雨水を溜めて使う仕組みも欲しいわね。簡易濾過キットも検討しなきゃ」


 「すげぇ……まだ進化するんすね、便利堂……!」


 * * *


 その日の夕方、初めて便利堂を訪れる青年の姿があった。


 彼は道に迷った冒険者で、拠点に一泊させてほしいという。


 リリアナはあっさりと頷いた。


 「ええ、構わないわ。ここは“誰でも来られる便利屋”だから」


 その夜、ランタンの灯る室内で、青年がぽつりとつぶやいた。


 「……なんだか、あったかいですね。この場所」


 「でしょ? あったかくて、ちょっと便利。そんな“避難所”が、この世界には必要だと思うのよ」


 便利堂は、今日も静かにその灯をともしていた。

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