表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/14

追われないために

 朝焼けがトランデールの街を包みはじめたころ、“便利堂”の隠れ家には、静かな緊張が満ちていた。


 リリアナは机の上に広げた一枚の羊皮紙を見つめていた。それは、貴族マーベラス家と地下商会〈黒獣の爪〉との間に交わされた密貿易の記録書──裏市場に流れる禁制薬と、逃亡奴隷の取引に関する詳細な取引履歴だった。


 マリスが震える手で指差した。


 「……この印章、間違いなく父の執務室にあったものよ。私がまだ館にいたころ、何度も見たわ」


 「決定的ね」とリリアナは静かに言った。


 カイルが奥の棚から持ち出した古い地図を広げた。


 「証拠は揃いましたけど、これをどう使います? 役所に駆け込んでも、すぐに潰されちまいますよ、上から」


 「だからこそ、“交渉”よ」


 リリアナはその羊皮紙を丁寧に封筒にしまい、金糸の封をかけた。


 「この証拠は、世に出せば確実にマーベラス家が傾く。でも、出さなければ──使える。カードとしてね」


 マリスが息をのむ。


 「……脅すの?」


 「違うわ。揺さぶるだけ。私たちの“本当の目的”はマーベラス家を潰すことじゃない。“あなたを追わせる理由”を消すこと。つまり、手を引かせるの」


 エルドが腕を組みながら言った。


 「そのためには、向こうに“損得の理屈”を理解させなきゃならん」


 「ええ、だから交渉相手は、マーベラス家の“懐刀”──直接命令を出している側近に絞るわ。屋敷の動線はマリスの記憶をもとに、侵入ルートも決めてある」


 カイルがにやりと笑った。


 「じゃあ、交渉チームは?」


 「私とエルドが直接交渉。カイルは外の見張り、マリスは地下で待機。念のため、脱出ルートは二重に用意する」


 リリアナは封筒を手に取り、凛とした表情で言った。


 「これは“脅迫”じゃない。“選択肢”を与えるの。彼らが沈黙を選ぶなら、私たちも黙っていましょう。……けれど、刃を向けるなら、そのときはこちらも牙を剥く。それだけ」


 マリスがゆっくりと頷いた。


 「……私も、覚悟はできてる。最後まで、見届ける」


 火の粉が舞う中、リリアナは静かに呟いた。


 「では、始めましょう。“裏ギルド”のやり方で」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ